442.雨はともかく大豆は偉大
ポチとタマのことを忘れていた。
夕方頃帰ってきたポチとタマは、羽がしっかり濡れていた。そしてなんとも不機嫌そうである。
「ポチ、タマ、雨には……」
と聞いたらタマにめちゃくちゃつつかれた。
「いたっ! タマ痛いってっ!」
そろそろ作業着に穴が空きそうである。家の手前の四阿で足を洗ったり、身体をバスタオルで拭いたりしたらどうにか機嫌が直った。よかったよかった。
それにしても明日は作業ができなさそうである。
「明日は諦めるか……」
こんな春の日に夕立みたいなのが降るなんて本当に珍しいと思った。
普通の雨なら、翌朝晴れればけっこう土も乾いて平気だったりするのだが、翌朝もなんとなく土が少しぬかるんでいるかんじがした。天気ばかりはどうしようもないと、家のことをすることにした。ポチとタマは足元がなんか気に食わない様子ではあったが、いつも通り遊びに出かけた。
「気を付けて行ってこいよー」
と見送りながら、なんとなく今日は泥だらけになって帰ってきそうな気がした。実際に雨が降った日よりも翌日の方が泥だらけ率が高いのは何故だろう。砂浴びならぬ泥浴びでもするのだろうか。そういえば泥浴びをして帰ってきた日は機嫌が悪くなかったりする。やっぱ好きなんだろうな。洗う方はたいへんだが。
唐突に油揚げのみそ汁が食べたくなった。厚揚げを焼いて生姜醤油で食べたいとも思った。
そうと決まったら豆腐屋だ。おからも炒り煮すればおいしいし、本当に大豆は万能だと思う。みそも醤油も豆腐も湯葉も大豆だし。でも実は豆の水煮は苦手だったりする。なんでだろうな。柔らかすぎるんだろうか。
そんなことを思いながら洗濯物を干し、天気予報を改めて確認してからユマと出かけることにした。え? 昨日は天気予報はあてにならなかったんじゃなかったっけって? それでも確認は必要だろ? 雨雲レーダーってものもあるんだし。
そんなわけで豆腐屋へ向かった。ユマもいつも通り軽トラから下りてそこらへんを散策である。この辺は土がしっかり乾いていることから、やっぱり昨日の夕立っぽいのはうちの方だけだったのかもしれなかった。
「こんにちは~」
「あら、佐野君いらっしゃい」
豆腐屋の奥さんは機嫌がよさそうだった。
「昨日この辺りって雨降りました?」
「いいえ? 山の方は降ったりしたの?」
こちらは降らなかったらしい。やっぱりそうか、と苦笑した。
「はい、昨日の午後なんですけどザーッと」
「あら。山とはいえそんな風に雨が降るのは珍しいわね」
奥さんはコロコロ笑った。
「今日は何にしましょうか」
豆腐は木綿が最近好きだったりする。豆腐、油揚げ、厚揚げ、湯葉を購入した。おからは相変わらず無料でくれた。
「佐野君、こういうのも試しに作ったんだけど食べてみない?」
そう言って出されたのは湯葉とは違った板みたいなものだった。
「? これってなんですか?」
「干豆腐(ガンドウフ)って言ってね、中華料理とかで使われるらしいのよ。これを細切りにして野菜と和えたりしてサラダにするとか、炒め物に使ったりするみたいなの」
「へぇ……細切りに……ですか」
「ちょっと味見してみて~」
奥さんがそう言って出してくれたサラダはなかなかおいしかった。ネギと唐辛子の細切りとあえてあり、多分味付けはごま油と塩だろう。
「へえ~、おいしいですね」
「でしょう? どう?」
「レシピとかってネットで検索できますよね。おいくらですか?」
「今回はお代はいいから、もし気に入ったらリピートしてもらえると嬉しいわ」
「ありがとうございます」
こういう時は遠慮せずにいただくに限る。それでおいしかったらまた買いにくればいいのだ。
「いろいろ新商品作ってるんですね」
「まぁね。……生き残っていかなきゃいけないからね。それでもそんなに新しい物は売れないから、おいしかったら宣伝してもらえると助かるわ」
「はい」
そういえば、と思ってスンドゥブチゲの素も買うことにした。
「スンドゥブチゲだったら絹豆腐の方がよくないかしら?」
「じゃあ絹もいただきます」
「まいどあり~」
おいしい豆腐屋さんはいつまでも残っててほしいもんな。ってことでまた大量に買ってしまった。
「ユマ、お待たせ」
荷台に乗せたクーラーボックスに積み込んで、今度は雑貨屋へ向かった。乾物は雑貨屋に売っているらしい。大豆の水煮が苦手だと言ったら自分で乾物を買って茹でてみればと教えてもらったのだ。そんなわけで雑貨屋で大豆と青大豆を買った。
雑貨屋で店番をしていたのはおばさんだったので、豆についてちょっと聞いてみた。大豆と、黒豆、青っぽい豆が売っていたのだ。
「黒豆はまんま黒豆だよ。甘く煮るんだ。鉄くぎを入れるとつやが出るよ」
「へぇ、そうなんですか。この青っぽい豆はなんですか?」
「それは青大豆だよ。大豆と同じように煮ればいいさ」
「味って違うんですか?」
「それはわからないね。私は使わないから」
「そうですか」
素直に答えてもらえるのは助かる。
「買ってくなら、どうだったか教えておくれ」
「はい、わかりました」
俺はにっこりした。またいろいろ楽しめそうだった。
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