441.山の天気は変わりやすい

 身体を動かしたらすっきりしたので家に帰った。午後も作業しようと思う。

 機嫌よくお昼ごはんの準備をしてユマと食べた。食休み中にスマホを確認したらLINEが入っていた。桂木さんからだった。


「うちの山はご神体がうちの反対側にあるみたいです。草刈りとかしてくれるおじさんが教えてくれました」


 やっぱりナル山にも神様がいたみたいだ。うちの反対側、というと家の逆側? 山の東側にあるんだろうか。草刈りのおじさんが知ってるってことはお社みたいなのがあるのかな。ちょっと見てみたいと思った。


「そうなんだ。何かするのかな?」

「今度草刈りにおじさんたちが来てくれるので、その時に案内してくれるそうです。できれば佐野さんにも付いてきてほしいんですけど、ご都合は如何ですか?」

「今度っていつ? できるだけ都合は合わせるよ」


 そういえば桂木さんとこの作業をしてくれているっていうおじさんたちのことは知らないな。ついでに挨拶できたらいいなと思った。


「わかりました、聞いてみます。ありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げるウサギかなんかのスタンプが送られてきた。俺もそれによろしくと返した。

 やっぱ一座一座神様がいるものなんだろうか。人が住んでいたところには神様もいるってことなんだろうな。で、人がいなくなったらひっそりと消えていく。うちの神様ももしかして消えかけたりしてたんだろうか。

 山倉さんのことを知らせてくれたんだからそうでもないか。

 思い直してまたユマと作業しに向かった。

 急ぐ必要はないんだけど、できる時にやっておきたいという頭もある。そんなかんじでやってたら、まだ明るい時間のはずなのに日が陰ってきたような気がした。立ち上がって木々の切れ目を見ると、なんか黒い雲が見えた。


「あれ? 今日って雨なんか降る予報あったっけ?」


 そこらへんで散策していたユマがトットットッと駆けてきた。


「クモー、クロー」

「戻ろうか」


 降らないならいいけど降ったらびしょ濡れになりそうだ。道具を片付けて山を下り、軽トラに辿り着く前にポツポツ降ってきた。急いでユマを助手席に乗せ、俺も乗った途端にザーーーッ! っとバケツをひっくり返したような雨が降ってきた。こんなに雨が降ることなんてめったにない。荷台には幌が被せてあるから枝打ちしたものは濡れていないと思うが、さすがに明日は作業ができそうもないと思うような雨が降った。雨が少し小降りになってきたことを見計らって家に戻った。駐車場に車を停めてどうしたもんかと思っていたら晴れた。

 こんな時期に通り雨か? と首を傾げながらガレージから出ると、虹がかかっていた。


「おー、虹だー」

「ニジー?」

「うーんと、なんかあそこにいろんな色が見えないか? こんな形でさ」

「ミエルー」

「あれが虹っていうんだ。雨あがりに見られるかどうかなんだぞ」

「ニジー」


 バサバサと羽を動かして嬉しそうにしているユマさんのかわいさがバネェっす。ホント、ユマって超かわいいよな。

 足元はぬかるんでいたが、歩けないほどではなかった。空を見上げればもう雲はどこかへ行ってしまったようである。とはいえまた戻って作業をする気にはなれなかった。

 明日は軽トラに積んだ枝なんかを炭焼き小屋の側まで運んでいこう。それとも、元々家があったところにでも薪の保管場所かなにか作った方がいいんだろうか。やりたいことは沢山あるのだ。家に帰ってはっとした。


「あ、いや……今日は洗濯物干してなかった。セーフだセーフ」


 そう呟いて胸を撫で下ろしたら、LINEが入ってきた。


「今の雨で洗濯し直しです」


 びしょ濡れの衣類と共にそんな文言が相川さんから送られてきた。びしょ濡れがつらい。きっと俺のことだからしぼってそのまままた干しそうだけど。本当はよくないんだろうけどなー。雑菌ガーとか。


「お疲れ様です。山の手入れをしていましたが、中断です」


 と返した。


「ちょっとー? なんでうちらの山だけ黒雲かかってたんですかー?」


 桂木さんからもLINEが入った。


「山だけ?」


 下りたら全く道路が濡れてないとかそういうことなんだろうか。まぁ、平地と山の天気は一緒にならないってことぐらいわかってはいるけどなんとも不可解だった。


「そうなの? すごい雨だったね」

「私は濡れませんでしたが、リエがびしょ濡れで帰ってきましたー」

「それはたいへんだ」


 誰かしら被害を受けたようだ。うちはユマが知らせてくれたから大丈夫だった。ユマ、さまさまである。そんなユマは虹を眺めていたいらしく外にいる。そういえば虹ってどれぐらいで消えるものなんだろうな。なんかギネスかなんかで台湾の虹が九時間ぐらいかかって世界記録になったとか聞いたような気がするけど。それとも塗り替えられたりしたんだろうか。


「キエチャッター」


 ユマが残念そうに言いながら戻ってきた。玄関の手前で足を拭いてあげると嬉しそうに土間に足を踏み入れた。本当に気遣いのできるニワトリである。


「そっか、消えちゃったか」


 そういうものだよな。少し湿っぽいユマの羽をタオルで拭いて乾かし、おやつにレタスの葉をあげた。白菜もあと少しぐらいは残っている。これからは新鮮な葉っぱを沢山食べさせられるだろう。

 やることがないわけではないが、気が抜けたので昼寝でもすることにした。晴れたけど足元ぬかるんでるし。

 ……もしかしてだけど……俺に作業を止めさせたくて雨が降ってきたとかないよな?

 そんなバカな~と思って昼寝した。

 もう悪い夢は見なかった。

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