440.心配してくれているのはわかるのだけど
朝晩はまだ冷えるが、日中はなかなかに気持ちのいい陽気になってきた。
でもまだまだだな、と思う。
どのことを言っているかというと、ニワトリの抱卵である。数があると自然と抱くという話だから四~六個はあることが望ましい。寒い季節は論外だから今年チャレンジするとしたらこれからの季節が望ましい。六個ぐらい転がしても抱かなかったら諦めようとは思う。そして抱卵しても孵化しなかったら諦める。
だけど、できればポチとタマかユマの子がほしいなと思うのだ。そうしたらもっとがんばれる気がする。
今はまだちょっとしたことで挫折するし、母さんからのLINEでちょっと具合が悪くなったりする。心配してくれているのはとてもよくわかるのだが、頼むからその話についてはほっておいてくれと思う。
おかげで夢見が悪くて、今朝は気分が最悪だった。
「ユマ~……癒してくれ~……」
気分を少しでも上げないとやってられない。居間の端に腰掛けて、ユマに向かって両手を広げたら、何故かタマまで来てくれた。
「タマもユマも優しいなぁ……」
たまに出る、タマのデレがたまりません。(ダジャレじゃないけどダジャレになった)抱きしめてユマの胸? 辺りに顔を埋めた。女子を吸ってはいけないと思うのだが今日は吸わないとやってられない。セクハラ禁止と怒られそうだけど今日だけは許してほしい。タマは早めに飽きたのか、すぐに身体を動かして元いた場所へ移動してしまった。
「タマ~、ありがとな~……」
タマがツンとする。ポチはコキャッと首を傾げた。
「とっくの昔に別れた女の消息なんか知りたくもない……」
彼女についてはもう二度と俺の前に現れなければいいだけだ。彼女が幸せになろうが不幸になろうがどうでもいいから、もう何も知らせないでほしかった。
「……愚痴ってもいいのかな……」
聞いてもらうとしたら相川さんだけど。でもなぁ、と思う。ただでさえ面倒をかけてるのにこれ以上甘えるのは違う気がする。
気を取り直してニワトリたちの朝ごはんを用意し、俺も朝ごはんを食べた。
単純なもので、ごはんを食べたら気持ちが少し上がった。
「よし!」
ポチとタマが出かけるようなので、(オデカケーとか言ってた。なんかかわいい)すりガラスの扉を開け、二羽を外に出した。
俺は墓参りの準備をし、ユマと共に上のお墓へ向かうことにした。今日は予定通り山の手入れを少し行う予定である。つか、あんまり手入れしてないから、今年からはもっと本格的にやろう。枝打ちしたものは乾かせば薪の代わりになる。できれば道具も揃えていろいろやってみたい。
ユマを軽トラに乗せて墓に向かった。そんなに日数が経ってないのに雑草は元気だ。墓の周りの草をぶちぶち抜いて(ぶちぶちしたらだめだろ)、一か所にまとめる。乾いたら燃やすけど、今はまだ水を含んでいるから数日してからだ。前回抜いた分が乾いているからと焚火台に詰んで火をつけて後悔した。どくだみが混ざっていたらしい。
「く、臭い……」
ユマが逃げて行った。ごめんなさい。今日はなんかうまくいかない日なのかもしれないな。
線香につける火、これを使ったらさすがに怒られるだろうか。どくだみ臭いって。ちょっと迷ったけどそれで火を点けた。
「すみません……」
と言いながらそこらへんに咲いている雑草の花と共に線香を備えた。燃やしたものには蓋をして酸素を抜く。完全に冷えたことを確認してから袋に詰めて倉庫にしまうのだ。(灰の使い道はいろいろある)火種が少しでも残っていたら山火事になってしまう。
墓に手を合わせ、迷惑かとは思ったが愚痴らせてもらうことにした。
昨夜受け取った母さんからのLINEには余計なことが書かれていたのだ。
曰く、近所のスーパーで例の彼女が家族で買物をしているのを見かけた。それがとても楽しそうで腹が立ったというだけの内容である。自分の息子は傷心で地元を離れて引きこもっているのに、と思ったのだろう。
いつになったら帰ってくるの? お盆は帰省するのよね? と書かれていてげんなりした。
すみません、あと三年ぐらい帰らなくていいでしょうか。
彼女、地元に帰ったのかな。留学はどうなったんだろう。それとも一時帰国的な何かか? 何かってなんだろう。
「だーーーーっっ! めんどくせーーーーーーーっっ!! やってられるかあああああああああっっ!!」
一応自分の裏の山の方へ向かって叫んだ。ユマがコココココーーーーーッッ!! と一緒になって叫んでくれた。ありがとう。山びこが戻ってきた。うん、山買ってよかったなと思った。思う存分叫べる環境って大事だ。(どんなんだ)
「お騒がせしました」
墓にぺこりと頭を下げ、線香を回収して水をかける。燃やした雑草(灰)も冷えたことを確認して袋に詰める。
片付けをし、鉈だのノコギリだのを持って山の手入れをすることにした。ユマに入口っぽいところを探してもらって邪魔な枝などを払っていく。足元の草なども抜ける限りは抜いていく。とりあえず無心で作業をしてみたが、一時間程度では全然前に進めなかった。
上を見上げ、気の遠くなるような話だと思ったがどうせ時間はある。何年かかってでもやっていけばいいだろうと思い直した。
「ゆっくり進めさせていただきますね」
そう呟いて汗を拭うと、優しい風が吹いてきた。
がんばれ、と言われているような気がして自然と笑みが浮かんだ。
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