439.女子同士の会話は内緒だそうです
そういえば、とまた思い出した。
この間川を見た時アメリカザリガニはそんなにいなかったとは思うけど、これからわらわらとまた出てくるかもしれない。それに近くの川を見ただけで山の全ての川を確認したわけではなかった。
「まだ早いかもしれませんが、そのうちリンさんたちと来てください。一応川のチェックはしておきますので」
「そうですね。助かります。テンも喜ぶと思います」
相川さんはにこにこしながら答えた。
「そういえば、テンさんて軽トラに乗るんですか?」
「テンだけならまだ荷台に乗せられますよ。ただ幌は被せておかないといけませんね」
相川さんが苦笑した。確かに大蛇が荷台に乗っているのを見られたら通報されてしまいそうである。テンさんの姿って全然見てないけど、あの胴体も太くなったんだろうか。いや、長さが変わったのかな? うちのニワトリたちは村の中ではそれなりに姿を認知されてきたとは思うが、それでもたまにギョッとした顔をされることもある。子どもたちは完全に好奇心で近づいてくるけれど。
でもニワトリってのは本来そんなに人懐っこいものではない。ヘタに手を出せばつつかれる。だから子どもたちには、ちゃんとニワトリたちにお伺いを立ててから近づくようには声をかけている。(そんなことはないと反論する人もいるかもしれないが、無闇に手を出せばつつかれるのは間違いない。飼主相手と態度が違うのはしょうがない)
「佐野さんも今度隣村へ蕎麦食べに行きませんか」
「いいですね~。都合が合えば誘ってください」
これからの山での作業は畑の手入れと雑草等の手入れが主になる。金策がつけば風呂のリフォームも考えたい。
今日は相川さんの山の神様に挨拶してから帰ることにした。
「ユマ、リンさんと何話してたんだ?」
軽トラに乗ってから聞いたら、ユマはコキャッと首を傾げた。
「ンー?」
んー、とか言ってんのめちゃかわいいな。目がくりくりしていて、ついつい羽を撫でてしまう。
ユマは反対側に首をコキャッと傾げた。そして、
「リンー、ナイショー?」
と答えた。
「そっか」
内緒なんて言葉どこで習ったんだか。リンさんに言われたのかな。本当にユマはかわいいな~。(どこまでもニワトリ愛)
「今日はもうこのままうちに帰るからな~」
「ワカッター」
返事をしてくれるユマさんサイコーです。うちのニワトリたちってホント、いいよなーとか思いながら帰った。
ユマは家の外で自由に過ごし、俺は片付けをしてから神棚があったところを拭いた。そして外で拾ってきたよさげな石を置き、その周りに神具を置いた。お酒とか塩とか必要なものを備えて手を合わせる。これからも俺たちを見守ってくれることを願った。
「これで一応体裁は整ったかな……」
あとはできるだけ毎日欠かさぬように、米を炊いたら捧げたりすればいい。
それから。
「……ま、どう考えたってGWまで放置しておくわけにはいかないよな」
雑草は伸びるし、木の葉や枝だって伸びる。作業はできる限りしておいた方がいいだろう。
「あ、そうだ」
N町ではちらほら桜が咲き始めていたが村や山ではまだ蕾だ。ニュースでも桜前線とかやってて、平地では満開なんてところもあるけどこっちはまだまだだ。
昨年は桜に目を向ける余裕なんてなかった。ひよこを買ったというのもあったが、ニワトリたちがひよこでいたのはほんの少しの間で、すぐに自分たちであっちこっちへ行くようになってしまった。
あとは、昨年はマムシが多かったよな。
そんなことを考えていたら、梅の花とかもあんまり意識してないなと思い出した。ピンクと白だっけ。うちの山でも咲いてたんだろーか。花心とかないからさっぱりわからない。
そういえば墓のところに八重桜の木があった。今年も咲くのだろうか。昨年はなんちゃって花見をユマとした。
「鯉の唐揚げ、うまかったな……」
今日食べたのは臭みもなくてとてもおいしかったけど、普通は臭みを取るのが手間だとか聞いた。だから鯉こくとかそういう濃い味付けのものになるのかもしれない。湧き水でできた湖ってどれぐらい広さがあるんだろう。見に行くことってできるんだろうか。ちょっと興味が湧いた。
「あれ? そういえば……山唐さんて、隣村の山の上でレストランを経営されてるって言ってたな……」
趣味のようなものだとか言っていたけど、そのうち行きたいなと思った。その時は……桂木姉妹も誘った方がいいんだろうか。多分誘わないで行ったらバレるよな。俺絶対誰かに話すし。(自分が一番信用できないパターン)
やりたいことが(やらなきゃいけないことも)たくさんあって困る。
明日はとりあえず墓に行って、山の上に登る場所をチェックして木とか切り払う計画を立てるかな。参道作りなんて高度なことはできないだろうけど、とりあえずもう少し登るのに楽なルートを切り開いておかないと。そんなに行けないことは神様もわかってるだろうけど、できるだけのことはしたい。
日も長くなってるから、ポチたちが帰ってくるのはまだ先だろう。表にいるユマに声をかけて、俺は久々に昼寝をすることにしたのだった。
ーーーーー
370万PVありがとうございますー! これからもよろしくですー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます