438.西の山の住人の料理はおいしい
ユマはリンさんと話す? のが本当に好きらしく、ご機嫌だった。
相川さんの山に向かった。いつもだとスーパーでお弁当かなにかを買って軽トラの中で食べたりするのだけど、今日は相川さんがお昼をごちそうしてくれるらしい。相川さんの手料理、おいしいんだよな~。
「すいません、軽くにはなってしまうのですが……」
そう断って、相川さんはまず漬物とお茶を出してくれた。ユマはリンさんに許可を取り、一緒に外にいる。シシ肉を相川さんに分けてもらったのでリンさんと食べているようだった。テンさんはお出かけしていていつ帰ってくるかは不明らしい。まぁ本来生き物ってそういうものかもしれないと納得した。
相川さんのところはシシ肉をもらってもほとんどリンさんやテンさんの餌用だから、あれだけ狩ったのにもう残り少ないようなことを言っていた。それなのにもらってよかったのかと聞けば、
「イノシシ程度ならまたポチさんたちがそのうち狩りますよね?」
と当たり前のように言われた。きっと獲物がいれば自由に狩ってしまうだろうとは思うので、俺もそれには同意した。だからといって積極的に狩れとニワトリたちに言ってるわけではないからな。そこらへんはあくまでうちのニワトリたちの気分次第だし。(誰に向かって言ってるんだ)
もちろん相川さんが言ったのは冗談だ。リンさんやテンさんたちは自分たちで餌を狩るのが普通だ。自分たちで狩る場合はネズミなど丸飲みにしやすいものを狩るらしい。
「そういえばリンさんて、出会った時から大きさ変わってませんよね? あれ以上は大きくならないんですか?」
ちょっと気になって聞いてみた。
「そうですね。リンは大きくなっていません」
ってことはテンさんは?
「テンは年々伸びている気はします」
個体差があるのか、リンさんのことだから自分のサイズ調整もしてそうだよな、なんて思った。口には出さないけど。
お昼ごはんも軽くなんて言いながら、けっこう豪華だった。ほうれん草のおひたしに切り干し大根、にんじんのナムルに、春キャベツと桜エビのサラダ、そしてメインは唐揚げだった。唐揚げは鯉だという。
「野菜ばかりで……」
相川さんがすまなさそうに言ったが、俺は首を振った。
「こちらに来てから野菜がとてもおいしいので、ごちそうです」
「それならよかったです」
「ところで鯉なんてどうしたんですか?」
「たまたま蕎麦が食べたくなりまして、隣村の蕎麦屋がおいしいと聞いたのを思いだしたんです。それで行ったらちょうど山の上の鯉を蕎麦屋に持ってきた方がいたんです」
今回は獲った奴が調子に乗って獲りまくったから余ってるようなことを、持ち込んだ人がぼやいていたらしい。それで調理法を聞いて買ってきたのだそうだ。
「へぇ……鯉ってどうするんですか?」
「あそこの鯉は湧き水でできた湖で育っているみたいで、臭みとかは全くないんですよ。ただ小骨が多いので、小骨を切るように包丁を入れて薄く揚げたんです」
「おいしいです」
「よかったです」
相川さんはにこにこした。
「いくらでもあるので沢山食べてくださいね」
と言われるがままに食べた。春カブのみそ汁もおいしかった。
「はー……おいしかったです……」
「お粗末様でした」
片付けるのもスムーズで、いつのまにかテーブルが片付いており、お茶が置かれた。
「ちょっと待っててくださいね。今持ってきますから」
そういえば何かいいものを見せてくれると言っていたのを今頃思い出した。飯食いに来ただけなのかよ、俺は。相川さんの作るごはんはおいしいのだ。……結局は食い気だった。
内心ちょっとだけ反省していたら、相川さんがノートPCを持ってきた。
なんだろう?
全然心当たりがない。
「佐野さんには直接見せていなかったのであまり実感が湧かないかと思います。つい先日預かった十万円で仮想通貨を購入しましたら……」
あ、と、やっと思い出した。なんか金がないなと思っていたのだ。仮想通貨の運用を相川さんに提案されて送金していたのだった。(もちろん口座は俺名義のものである)
「え? なんですか、これ。上がってるみたいですけど……」
「そうなんですよ。一気に上がってるんです」
「えええ?」
よくわからなかったが、ここ数日で仮想通貨が値上がりしているらしい。それで、いくら増えたら換金するかを聞きたかったという話だった。
「こ、こんなに仮想通貨って増えるものなんですか?」
「年に三倍ぐらいになったこともありますから、そんなに不思議なことではないんですけどね。ただ、ここ数日は上り幅がすごいな、と」
「そう、なんですか……」
一応二倍の額になったら元金を残して換金してもらうことにした。うまく当たればぼろ儲けである。
「この調子だと十万なんてすぐですよ。お風呂のリフォーム、案外早くできるかもしれませんね~」
なんで相川さんがご機嫌なのかわからない。つか、そんなにうちの風呂のリフォームがしたいのか……。
「……そうですね」
仮想通貨を増やしてくれているのは相川さんなので、その資金ができたら風呂のリフォームに使うことにした。またきっとでっかい工作大好きーズが現れるに違いなかった。
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