424.早く止まないかな

 雪が降るからまだ戻ってこない方がいいよと神様が思っていたのかどうかはともかく、食休み後はまた雪の状態を確認した。

 山の上はみぞれになる気配もない。相川さんにLINEでお伺いを立てた。


「こちらも変わらず降ってますよ。ポチさんはパトロールに出かけています」

「ありがとうございます」


 ポチ、雪の中ヒャッハーしてるのか。元気だなと思った。

 そういえば一歩目は冷たくて嫌みたいなんだよな。でもそれを越えちゃうともういいやってなっちゃうみたいだ。それは雪嫌いのタマもそんなかんじだった。これ、冷たいから触れたくないー……からのー、みたいな。うん、我ながら何を言っているのかよくわからなかった。

 雪はひどくなる気配はないが、止む気配もなかった。


「ちょっと麓まで雪かきしてくるよ。戻ってきたら屋根の雪下ろしをやるから」

「そんな……なにからなにまでありがとうございます」

「ねー」


 桂木妹にちょいちょいと手招きされた。


「何?」

「おにーさん、本気でおねーちゃんに気がないの?」


 耳元でかわいく聞かれた。パッと耳を離した。


「……とりあえず今は誰にもそういう気持ちがわかないんだよ」


 桂木妹もかわいいとは思うがそれだけだ。桂木姉妹は十人中十人がかわいいと答えると思う。でも十人が十人とも恋愛感情を持つとは限らないだろ?


「……おにーさんもいろいろあったの?」

「あったよ。ちょっとしたことだけどね」


 桂木妹がはっとしたような顔をした。そんな顔をさせたいわけじゃなかった。


「ちょっと行ってくる」


 自力で上り下りはつらいから、タマとユマに手伝ってもらって、軽トラで山道を進んだ。大体の雪かきはタマとユマが尾につけたホウキで掃いてくれた。持つべきものはでっかいニワトリである。(なんか違う)

 山道も軽トラで走るのは大分慣れたと思う。そこで油断するとなんかあったりするから絶対に油断はしないけど。


「どうでしたかー?」


 屋根の雪おろしをするからと家に声をかけたら、桂木さんが出てきた。別に出てこなくてもよかったんだが。


「道はまだ全然積もってない。木が邪魔してるんだとは思うけど積もってきたところは一応全部掃いてきたよ」

「助かります」


 キャタツを借りて竹ボウキで屋根の雪を払い、今日のところは帰ることにした。


「明日も雪が降ってるようなら来るから。降らなくても困ってたら呼んでくれ」

「佐野さんてば……いつもありがとうございます。これ、よかったら持ってってください」


 桂木さんが持たせてくれたのはインスタントのコーヒーだった。ネス〇フェゴールドブレンドである。やっぱ物によって味が違うんだよな。どこをどうってのは説明できないんだけど。


「もらっちゃっていいのか?」

「ええ。いただきものなんですけどうち、あんまりコーヒーって飲まないんですよ。よかったらもらってください」

「ありがとう。そういうことならいただいていくよ」


 ありがたくいただいていくことにした。


「なんかあったら声かけてくれよ」

「はーい、ありがとうございます」


 相川さんにこれから戻りますとLINEを入れて山を下りた。下の柵の鍵は閉めてもらわないといけないから桂木さんも山を下りた。


「キレイにしていただいて本当にありがとうございます。お礼はいずれします!」

「毎回できるわけじゃないからそんなに気にすることないよ。それに」

「それに?」


 桂木さんが軽く首を傾げた。ああうん、やっぱりかわいいな。


「妹だろ? 大事にしないとな。風邪引くなよ」


 桂木さんの目が細められた。なんか不満そうである。


「……ありがとうございます。おにーちゃん」


 お互い笑ってしまった。まだ雪は止む気配がない。すごく降っているわけではないが、落ちてくる結晶の一個一個が大きくてなんか焦る。でももう春だから、止めば一日二日でだいたい溶けるだろう。


「それじゃ」


 手を上げて山に戻った。柵の向こうは真っ白で、うちの山の麓までも白くなっていた。ちょっと気になったからタマとユマに手伝ってもらって道を掃いたりしながら戻ったから、山の家に着いた時は日が落ちてきていた。危ない危ない。


「佐野さん、おかえりなさい」


 屋根の雪も下ろしてくれたみたいだ。相川さんが駐車場の雪を払いながら笑顔で出迎えてくれた。その横には戻ってきたらしいポチがいる。さすがに暗くなってきたから戻ってきたようだった。羽に白いものがけっこう積もっている。


「ただいま戻りましたー」


 軽トラを下りてユマとタマを下ろしたら、タマがさっそくポチに突進していってその雪を払おうとしていた。いや、ぶつかっただけじゃ落ちないと思うんだ……。


「タマ、待てって……」


 ポチに近づいて手で雪を払ってやる。全く、どんだけ雪が嫌いなんだよ。苦笑する。

 相川さんは相変わらずにこにこしている。ユマがすりっと擦り寄ってきた。

 あー、もー、ユマはかわいいなー。

 デレデレしながら家の方へ向かう。雪の勢いは衰えないけど、結晶が大きくなったりもしていない。このまま夜には止めばいいなと思った。

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