420.宴会の翌朝もなんかいろいろあるようで

 ニワトリたちの世話があるからどうしてもあまり酔うわけにもいかない。

 でもビールを飲むよりも料理が食べたいから、必然的に酒はあまり飲まないで料理の食べすぎで動けないというような状態になる。あと一口……とか思ったら要注意だ。どうせニワトリたちに呼ばれるから動かなくてはならない。だからニワトリたちのおかわりの対応をしてからまた食べる。

 で、ニワトリたちが食べ終わったら世話をする。ビニールシートの片付けは後だ。ニワトリたちについた汚れを洗ったり拭いたりし、糞などをさせてから土間へ入れるのだ。


「見るたんびに大きくなってる気がするけど……羽毛のせいかしらね?」


 おばさんがニワトリたちを見てころころ笑う。本山さんの奥さんは最初土間に入ってくるニワトリを見て目を剥いていたが、最近は慣れたようだった。


「うちの孫にお菓子をいただいて、ありがとうね」

「いえ、大したものじゃありませんから」


 本山さんたちが帰り支度をするのを邪魔しないように表へ出て、相川さんに手伝ってもらいビニールシートを片付けた。

 でかいので洗うのがたいへんだが、バケツで水を流してブラシで擦ればいいと言われているのでそこらへんは楽だ。しっかしここの庭はどれだけイノシシだのシカだのの血を吸っているんだろう。おかげで雑草がとても元気な気がする。草むしりの手伝いには是非こなければいけないなと思った。

 本山さんのお孫さんは途中で眠くなってしまったようで、娘さんが先に連れて帰った。でもあのお孫さんて、娘さんの子ではないんだよな。父親であるはずの本山さんの息子さんが、妹さんに対し当然のように甘えているのがなんだかもやもやしてしまった。でもよそのうちのことだから考えるのはやめよう。俺がどうにかできることじゃないし。

 でも、やっぱりもやもやする。もやもやするぐらいは自由だろ?

 それもあってか、夢見が悪かった。

 夢の内容は起きた途端、霧散した。なんだかとても後味が悪い夢だった気がする。


「……佐野さん……雑炊ですよ」


 相川さんに小声で囁かれてバッ! と起きた。そうだ、俺には翌朝の卵雑炊が待っていた!

 今朝はタマとユマがちゃんと卵を産んでくれたらしく、今日の雑炊も絶品だった。

 だけど。


「そういえば前って、鍋の後にうどん入れたりとかしてませんでしたっけ?」


 ふと思い出して聞いてみた。


「うどんもいいけど、せっかくタマちゃんとユマちゃんが卵を産んでくれるんだからと思ってねぇ」

「確かに。雑炊おいしいですよね」


 おばさんの返答に俺は頷いた。もしかしたら何かあったのかもしれないが、それは俺が詮索することじゃない。

 ニワトリたちは例によってとっくに畑で遊んでいるようだった。今日はさすがにもう山には登らないよな?

 ここのところ山にばかり上がっていてできないでいたらしいが、おっちゃんも昨日蕎麦を打っていたそうだ。


「昇平、蕎麦いるか?」

「はい、いただきます」


 さっそく今夜いただこうと思った。やっぱ打ち立てはとてもおいしい。相川さんもいただいていくことにしたようだった。

 雑炊を食べ終えて片付けてから陸奥さんと戸山さんが起きてきた。

 タマとユマの残りの卵でハムエッグをおばさんが作り、陸奥さんたちに提供した。


「いやあ、やっぱタマちゃんとユマちゃんのタマゴはおいしいよなぁ」

「二日酔いもどっか飛んでってしまうね~」


 おじさんたちはなんだかんだ言って飲んでいる。俺たちほどは食べなくてその分酒だ。おかげで宴会の翌朝はなかなか起きられないようだった。

 酒より、今は料理がおいしいから太るのかもな。よく動くようにしなくては。

 昼飯をいただいてから帰ることにして、スマホを確認したら桂木さんからLINEが入っていた。昨夜くれていたらしい。


「山寒いです~。妹がいるからいいけどやっぱ寒い~」


 だろうなと思った。


「まだもう少し寒いだろうから、村にいた方がいいんじゃないか?」

「それはなんか嫌なんですー。もー」


 すぐにぷんぷんと怒っているようなスタンプが来た。どーしろというんだ。


「風邪引かないように気をつけてな」


 どう返したらいいかわからないLINEって多い気がする。それでも桂木さんは返事が遅いとか怒らないから気楽な方だ。うちの母親のLINEを一日ほっといたら電話がかかってきて怒られてしまう。LINEの返事がないからって電話かけてくるとかなんなんだろう。もう少しのんびり過ごした方がいいんじゃないだろうか。

 お昼はシシ肉のチャーシューをてんこ盛りにしたラーメンだった。


「おかげさまでシシ肉がたくさんあるのよねー。本山さんのところではうまく調理できないからってほとんど置いてっちゃったのよ。だから昇ちゃんも相川さんもいっぱい持って帰ってね」

「ありがとうございます、いただきます」


 俺たちはおばさんに頭を下げた。


「もっちゃんはいいがなんだあのせがれは」

「ありゃあしょうがねえんだよなぁ」


 陸奥さんとおっちゃんが何か言っていたが聞かなかったことにした。


「相川君、もっちゃんとこの娘はどうだ?」


 陸奥さんがからかうように言う。


「いやいや、僕にはもったいないですよ」

「そうかぁ。顔はともかく気立てのいい娘なんだがなぁ」


 おっちゃんまでそんなことを言っている。娘さんに対してとても失礼だ。相川さんは苦笑した。


「相川君にはもう少し若いお嬢さんの方がいいんじゃないかな~」


 戸山さんがフォローするように言ったがそれはそれでどうなんだ。一応相川さんには彼女がいる設定だが、リンさんの姿を助手席に見ないものだからみな忘れているのかもしれない。


「ちょっと! ユウコちゃんと相川君に失礼でしょうが! 顔はともかくなんてどの面下げて言ってんの!? これだからじじい共は!」


 おじさんたちが途端にしゅんと凹んだ。おばさんの一喝にはかなわないと思う。

 田舎にはいいところもあれば悪いところもある。適当に流していくしかないだろうと、相川さんと目配せし合ったのだった。

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