421.もう春なんじゃないんですか?

 畑にいるニワトリたちに声をかけて山に戻った。

 お土産に野菜、蕎麦、シシ肉をたくさんもらい、ほくほくである。宴会に行って、お土産に食材をもらうとかなんなんだ。本当におっちゃんたちには頭が上がらない。おかげさまで俺もニワトリたちもしばらくは肉に困らないだろう。

 帰ってきてすぐにポチとタマはツッタカターと遊びに出かけた。動かないではいられないみたいだ。

 ユマは家や畑、駐車場の周りをぽてぽて歩いている。片付けをして洗濯をしたらなんか疲れてしまった。いわゆる食べ疲れかもしれないと思った。

 夜、あまり食欲がわかなかったけど蕎麦を少しだけ食べた。おいしかった。

 なんの気なしにTVをつけたら、明日の予報は雨のようだった。

 雨だとなんにもできないんだよなーと思いながら、外に干してある洗濯物を急いで取り込んだ。もちろんまだ乾いてないから部屋干しである。いくら土間もあって広さがあるとはいえ、玄関兼、台所兼、ニワトリたちの寝床兼、居間兼、俺の冬の寝床なわけなので、そこに洗濯物まで吊るしたらワリとうるさいかんじがした。

 まー、しょーがないよな。オイルヒーターがしっかりきくのってこの部屋だけだし、という思考停止をしながら寝た。

 天気予報が外れたら、明日こそは山頂まで到達したいと思いながら。

 んで翌朝。


「……嘘だろ?」


 なんか、曇りガラスの窓の外が白っぽい気がするんですけどねぇ?

 まもなく四月になろうってこの時期になんてこった。洗濯物取り込んどいてよかった。そうでなかったら雪まみれになってカチンコチンに固まっていただろう。凍ったって布は痛むんだ。


「ちょっと戸開けるぞー」


 ニワトリたちに断って玄関のガラス戸を開ける。


「……雨って言ったじゃん」


 これはやはり気象庁に抗議したらいいのではないかと思うぐらい、かなりしっかり雪が降っていた。


「あー……雪かよー……」


 なんでこんな時期に、と思いながらタマとユマの卵を回収した。いつもおいしい卵をありがとうと感謝をして、朝からみそ漬けのシシ肉を焼き、その上に目玉焼きを乗せて朝食にした。卵も肉もうめえ。よっし、元気出た!

 特に何もするわけでもないがスマホを確認すると。


「なんで雪ーーーーー!? スタンプスタンプスタンプ(ムンクの叫びっぽい。そんなのまで売ってるのか)」


 というLINEが入っていた。桂木さんだった。


「おはよう。この時期の雪は気温が高いからすぐ解けると思う」


 とだけ返し、実際にどうなんだか表へ出た、寒い。おうちに帰りたい。ってここが家だよ、逃げらんねえよ。というようなことを考えてから倉庫へニワトリたちの餌を取りに向かうことにした。

 朝ごはんをしっかり食べ尽くしたポチとタマは玄関先でぼーぜんと表を眺めている。なんとも珍しい光景だった。


「どーする? 遊びに行かないのかー?」


 と声をかけたらタマにつつかれた。ごめんなさいごめんなさい、タマさんすみません。

 ひどいなーと思いつつTVをつけた。かろうじて天気予報を見ることができた。


「雨は夜半には止む、か」


 雨って言ってるけどうちの山は雪なんだけど? 桂木さんとこも雪っぽいし。ってことは山の上は雪ってことだよな?

 相川さんにLINEを入れてみた。


「うちも雪が降ってますよ。リンの怒りが激しくてたいへんです」


 そういえばリンさんは雪嫌いなんだっけ。雪が降っている中、蛇の尾をぶんぶん振り回しているリンさんを想像して身震いした。なんのホラー映画なんだろうか。いや、せいぜいパニック映画程度だと反論されてしまうのだろうか。って俺は何を考えているんだ。


「この雪ってどれぐらい降るんでしょうね。屋根の雪おろしって必要だと思います?」

「明日まで降るとなったら一度雪おろしをした方がいいとは思うのですが、山の天気は読めませんね。うちの雪かきはリンが率先してやってくれているので、なんでしたら手伝いに行きますよ」


 それは申し訳ないので遠慮した。三時頃まで様子を見て、止まないようだったら屋根の雪下ろしをしようと思った。

 あ、そうなると……。


「そういえば桂木さん、山に戻ったって言ってたんですよ」

「じゃあ今頃困っているかもしれませんね」

「俺ちょっと見てくるんで、やっぱりうちを頼んでいいですか?」


 相川さんは桂木さんの為にはよほどのことがなければ動かない。それはもうどうしようもないことだから、だったら俺が動けばいいのだ。電話がかかってきた。


「泊って行ってもいいですか?」

「はい。俺は泊ってこないので、たまには話しましょう」

「わかりました。なんか少し持って行きますね」


 相川さんの声が心なしか弾んでいるように聞こえた。そういえば相川さんがうちに来ること自体が久しぶりだ。ちょっとわくわくした。

 タマとポチが出かけようかどうしようか悩んでいるようだった。


「おーい、これから桂木さんトコに行くけどどうする?」

「イカナーイ」

「イクー!」

「サノー、イッショー」

「はいはい、ポチは留守番な。で、俺と入れ違いに相川さんが来て留守番してくれるから、俺が帰ってくるまで仲良くしててくれよ?」

「ワカッター」


 ポチは即答だった。頼もしいことである。タマはなんとなく微妙なかんじだったが知ったことではない。


「リンさんとかテンさんは来ないから。今夜相川さんがうちに泊まっていく予定だ」

「ワカッター」

「ワカッター」

「ハーイ」


 今度は返事があった。だからどんだけタマは(以下略

 桂木さんにLINEを入れる。


「どんな状況なのか見に行くよ」

「いいんですかー? ありがとうございます、助かります!」


 即返信があった。すみませんとか、ごめんなさいと返ってこないのはいいなと思った。

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