419.おじさんたちの〆はやっぱりごはんらしい
「昇ちゃん、そろそろだから飲み物持ってってくれる? それが終ったらニワトリたちのごはん持ってってね」
「はーい」
おばさんに声をかけられて立ち上がる。
「僕も手伝います」
相川さんと玄関横の倉庫からお酒等を運んだ。本山さんのお孫さんには瓶のオレンジジュースを二本持っていく。こういう時ぐらいしか好きに飲めないだろうからそれぐらいはいいと思うのだ。瓶のジュースっておいしいよな。
飲み物を持っていくと、すでに漬物やサラダが出されていた。
「ちょっと待っててくださいね」
相川さんが居間に戻ったので俺はニワトリたちのごはんをもらいに台所へ。
「これを持ってってちょうだい」
大きなボウルに肉と内臓、そして野菜たっぷりなボウルもあった。肉の入ったボウルを持って玄関から出ると相川さんが戻ってきた。
「持って行きますね」
野菜のボウルを持ってビニールシートに運ぶ。おばさんが用意してくれる量が回を増すごとに増えている気がして首を傾げた。あまったら明日の朝食べてもらえばいいしな。野菜は余ることはあっても内臓と肉は絶対に余らないし。
ありがたいことだ。
畑へ向かうと、やっぱりニワトリたちは山との際にいて、山を見上げていた。声をかけなかったら今にも登っていきそうである。だからお前らはなんでそんなに山が好きなんだよ。
「おーい、ポチー、タマー、ユマー! ごはんだぞー!」
大声を出して呼んだらニワトリたちがこちらへ振り向いた。
ドドドドドッと走り出す音を聞きながら俺も走る。さすがにぶつかってきたりはしないだろうが危ないのだ。相川さんも楽しそうに走った。実際楽しいのかもしれない。
縁側から上がったのとニワトリたちがビニールシートの側に着いたのは同時だった。だから速いっての。
「食べていいぞー。足りなかったら鳴けよー」
クァーッ! とポチが代表して返事をしてくれた。ニワトリたちが肉をつつきだしたのを確認してから居間に上がり、障子を閉めた。
すでに料理が並び始めていた。
俺の分の取り皿にサラダが盛られている。上にはシシ肉のチャーシューが乗っていた。
「先に取り分けておいてよかったです。もうサラダの上の肉だけなくなってますね」
相川さんが笑って言った。さっき居間に上がった時少し取り分けてくれたようだった。相川さんはなんて気が利く人なんだ。
「ありがとうございます」
ちょっとじーんとしてしまった。
広い座卓にはこれでもかと料理が並んでいる。どれから食べようか目移りしてしまうぐらいだ。小松菜と油揚げの煮びたし、こんにゃくの煮物、白滝と野菜の炒め、きゅうりのたたき、レンコンのきんぴら、そしてシシ肉を使ったらしい酢豚、じゃなくて酢猪。スイノシシってなんか語呂が悪いな。他にうまいいい方はないだろうか。シシ肉の唐揚げ、山菜の天ぷらともう、俺を太らせたいのかなと思うような料理が並んでいる。
「すごくおいしい……」
取り皿に少しずつ取って味わう。
「昇ちゃん、食べてる? これも食べてみてね~」
珍しく小鉢が一人ずつ出てきた。角煮、だろうか。
「シシ肉で角煮を作ったんだけど、これはこの間のなのよ。じっくり煮たからお箸で切れるからね~」
そう言いながら本山さんのお孫さんの前にも置いていく。
「いただきます」
確かに箸でほろりとほぐれた。
「うまっ!」
「真知子さん……これの作り方って……」
「気に入ってもらえたならよかったわ~。相川君には後でレシピ渡すわね~」
おばさんはしてやったりというような顔をしながら戻っていった。
「ごはんが欲しくなりますね」
なんていうか、沖縄のラフティーみたいなかんじだ。あれはお酒を使って煮るんだっけか? このシシ肉の角煮も脂身の部分が口の中でとろけてとても気持ちがいい。全く、なんてものを作ってくれるんだ。もっと食べたくなるじゃないか。
みんな角煮のおいしさに気づいたのか、隠すようにして食べていた。少しでも残ってたら奪われそうだもんな。気持ちはわかる。
山菜の天ぷらもいただく。たらの芽は贅沢だな~と思いながらほくほく食べた。
で、大体腹がくちくなってからシシ鍋を出すのはどうかと思うんだ。
「おい、さすがに食えねえよ!」
おっちゃんが文句を言う。
「何言ってんのよ。イノシシといったら鍋! とか前にしつこく言ってたじゃない」
おばさんはどこ吹く風である。
「ごはん欲しかったら言ってね~。いっぱい炊いてあるから」
いや、米なんて入る余地はどこにもありません……。
なんだかんだ言っておっちゃんや陸奥さん、本山さんにとっての〆はごはんらしく、最後は茶碗に半分ぐらいは食べていた。
俺は途中でまたニワトリに呼ばれたのでごはんの補充に動いたりした。
会社勤めだった頃は宴会なんて嫌いだった。お酌はしないと何故か睨まれるし、上司には絡まれたりで面倒だった。でも、ここはこんなに温かい。みんながみんなよいように動いていて、お酌なんかしなくてもおっちゃんたちは気にしなくて……。
「お前たちも、受け入れてもらえてよかったなぁ」
肉をつついているニワトリたちをちょっとだけ眺めて、宴会の席へ戻った。手土産はこっそり本山さんの娘さんに渡しておいた。
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