418.冬眠は終ったようです
憶測で怒ってもしかたないので、「タマ、ボウル落としちゃだめだろ?」とだけ窘めるに留めた。頭の上に落とすとかホントにやめてほしい。昔金ダライを上から落とすというコントがあったが、あれは一応芸人さんのカツラがヘルメットみたいになっていたと聞いたことがある。真似しちゃダメ、絶対。
朝ごはんを用意して、食べさせてから今日の予定を伝えた。
「今日は夕方からおっちゃんちな。また一泊だから。イノシシの内臓がまた食えるぞー。遊びに行ってもいいけど明るいうちに帰ってくること。わかったか?」
「ワカッター」
「ワカッター」
ポチとタマは即答して、ツッタカターと遊びにいった。洗濯してから今日は墓参りに行くことにした。雑草を取らないといけないし。ホント、どこもかしこも草だらけだよ。せめて墓の周りだけでもキレイにしないとな。
ユマと墓参りに行ったり、山の上に向かって手を合わせたりいろいろしてから昼飯を食べた。今朝はタマとユマが卵を産まなかった。明日の朝は産んでくれるかもしれない。そうしたらおばさんたちが喜ぶなと思った。
ポチとタマが戻ってきた。ざっと汚れを落とし、戸締りをしてから出かける。
そういえば今日もおっちゃんは山菜採りをすると言っていたなと思い出した。案の定麓近くで人の姿を見かけた。
「こんにちはー」
軽トラの窓を開けて挨拶する。
「あ、佐野さんですかー? お世話になりますー」
「はーい。採る際は気を付けてくださいねー」
「ありがとうございますー」
おっちゃんは麓にいた。
「おお、昇平。もう出るのか」
「ええ、雑貨屋に寄っていきたいので」
「わかった。俺らもそろそろ引き上げるよ」
「鍵よろしくお願いします」
おっちゃんに見送られるというのもおかしな話だなと思った。雑貨屋に寄っていろんなお菓子を買ってみた。が、よく考えたら駄菓子屋に寄ればよかった。でも駄菓子は種類が多くてよくわからないんだよな。また自分用に買いに行こう。
そんなかんじておっちゃんちに着いた。
陸奥さんと戸山さん、相川さんも先に来ていた。
三人とも縁側でお茶を飲んでいた。
「こんにちはー」
陸奥さんが煙草を吸いながら手を上げた。戸山さんがひらひらと手を振ってくれる。相川さんは立ち上がった。
「こんにちは。今日も秋本さんたちは参加されないようです。真知子さんに聞いてきますか?」
「はい、おばさんに声かけてきますね」
軽トラの側にニワトリたちを待たせ、玄関のガラス扉を開けた。
「こんにちは、佐野ですー。ニワトリたちどうしたらいいですかー?」
「昇ちゃん? 畑に行かせといて~。まだかかるから~」
「はーい」
玄関から少し入ったところが台所なので作業している姿が見える。本山さんの奥さんと娘さんの姿がちら、と見えたので会釈だけして表へ出た。ああいうのを見ると少しもやもやする。もやもやの正体はわかっているのだけどうまく言葉にならない。
ニワトリたちに畑へ行っていいこと、でも山は絶対登らないように言って行かせた。三羽ともツッタカターと畑の方へ駆けていった。
「ニワトリさんたち、今日も元気ですね」
相川さんがにこにこしながらそう声をかけてきた。あ、そうだ。
「相川さん、テンさんてもう冬眠終わりました?」
「ええ、一昨日小屋から出てきたそうで、さっそく裏山に向かいました。獲物は戻ってきているみたいです」
「それならよかったです。リンさんも動きとかは……」
「まだちょっと動きが鈍い気はしますが、巻き付かれるようになりましたね」
巻き付くんだ? 絶対リンさんて相川さんのこと溺愛してるよな。つか、リンさんがいる限り相川さんて恋愛とかできないんじゃないか? ま、俺には関係ないけど。リンさん、俺には嫉妬とかしないよな? ちょっとだけ怖くなったのは内緒だ。
「そしたらまた一緒に出掛けるんですか?」
「ええ、その時は佐野さんも一緒に行きましょう。ユマさんとリンは仲良しみたいですから」
「そうですね。山倉さんが来た後で神棚を買いに行こうと思っているので是非」
そんなことを言い合いながら居間の縁側に腰かけた。湯呑が一つ増えていた。俺の分なのだろう。ありがたいことである。
「だいぶ、暖かくなってきましたね~」
「そうだなあ。佐野君は花粉症とかあるか?」
「俺はまだなったことはないですね」
陸奥さんに聞かれ、戸山さんに「それならいいね~」と言われた。ホント、うちの兄と姉が花粉症だけど毎年たいへんそうだった。この時期はけっこう八つ当たりされたなと、嫌なことを思い出した。あそこの子どもたちはどうなんだろう。
日が落ちてきた頃、本山さんとその息子さんとお子さん(本山さんの孫)がやってきた。
「いやあ、佐野君。本当に助かったよ。ありがとう」
本山さんがしみじみ言う。
「でっかいニワトリさんて、どこにいるの?」
お孫さんが無邪気に聞いてきた。
「今は畑にいるよ。危ないからあんまり近寄らないようにしてね」
「そうなんだー。触ったら怒る?」
「ニワトリだからつついたりされることもあるよ」
「そうなんだね」
お孫さんが残念そうに眉を下げた。でも普通のニワトリだってつついてくるものだから、避けた方がいいと思うのだ。うちのニワトリたちは忍耐強いけど、それは子どもたちが自分たちより弱いって知っているからだし。
「君がもう少し大きくなったら一緒に遊んでやってくれよ」
「うん! 僕いっぱい食べて大きくなる!」
無邪気な視線が痛い。そういう意味じゃないんだけどなと苦笑しながら居間に上がるよう促した。すでに庭にはビニールシートを敷いてある。おっちゃんもとっくに帰ってきている。
今日は何が食べられるだろう。わくわくしてきた。
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