417.雑草が生えてきた

 ごはんを我慢しろなんて言ってすいませんでした。

 俺だって我慢なんかできません。

 でもさすがにポチはうるさすぎると思う。


「はいはい、わかったよ」


 返事をして布団を畳んだり顔を洗ったりしている間もポチは「ゴハーン! ゴハーン!」とうるさかった。だから待てっての。あんまりポチがうろうろしているから、タマとユマの卵が踏みつぶされないかどきどきしてしまった。慌てて卵を回収してザルに入れる。


「タマ、ユマ、今日もありがとうな~」


 無造作に転がっているのはもうもらってもいいものだと思っている。いろいろネットで調べてみたけど外側から有精卵かどうかわかるものではなさそうだし。でも、ニワトリっていつになったら卵を抱く気になるんだろうか。そこらへんもちょっと調べてみないといけないか。そういえばそういうことってけっこうおろそかになっていたなと少し反省した。

 ニワトリ用に台を出し、ボウルに松山さんのところから買ってきた餌と白菜を二、三枚添えて出す。シシ肉の薄切りも足した。やっぱり栄養をつけるとしたら朝だと俺は勝手に思っている。特にコイツらは山の中を日がな一日駆けずり回っているわけだし。

 あ、そうだ。


「ポチ、タマ。もし墓より上に行けるようになったら教えてくれないか? 山の上の神様に挨拶に行きたいからさ」

「ワカッター」

「ワカッター」

「ユマー」


 自分の名前が呼ばれなかったことを気にしているのだろうか。首をコキャッと傾げる仕草がとてもかわいい。


「ユマはいつも俺と一緒にいるだろ?」

「サノー、イッショー」

「うんうん、一緒だな」


 かわいい。すんげえかわいい。ユマさんの為にがんばります。(何を)

 朝ごはんを食べたらポチとタマはいつも通り山の中を駆け回る。最近は餌がけっこうあるのか昼は帰ってこないことが多くなった。朝晩はまだ冷えるけどやっぱ春なんだよな。

 ユマと共に畑を見たり、川を見に行ったり、炭焼き小屋の周辺を見に行ったりした。少しずつ生えてきている雑草を抜くのを忘れない。早い段階で抜かないとすぐもっさりしてしまうので、畑とか家の周りは草むしり必須だ。


「今年も雑草との戦いか……」


 げんなりしたが山で暮らすというのはこういうことだ。

 昼ご飯を食べた後でおっちゃんから電話があった。山菜採りをしたいという人を案内するから敷地内に入っていいかという話だった。


「あ、いいですよ。でもうちには寄りませんよね?」

「ああ、寄らないで帰るよ。明日の夕方はよろしくな」

「はーい」


 麓の柵の向こうにも山菜は生えているようだが、やはり柵の内側の方が豊富らしい。うちのところはおっちゃんが柵の鍵を持っているので村の人を案内してくることもある。俺は山菜は採らないからいつでもどうぞとは言っているけどけじめだとおっちゃんは言っていた。

 そういえば桂木さんのところはどうするんだろうなとふと思ったら、こちらの考えが読まれたのかなんなのか、桂木さんからLINEが入った。


「うわっ! 噂をすれば……って俺考えただけなんだけど……」


 そう思いながら確認すると、もう雪も降りそうにないのでそろそろ山に戻るということが書かれていた。


「気をつけて戻りなよ」


 とだけ返した。そろそろタツキさんも動き始めてんのかなと思った。それと同時に、リンさんとテンさんはどうしているかなとも考えた。LINEを入れようとしたが、よく考えたら明日会うのだ。その際に聞けばいいだろう。

 明日の手土産は本山さんちの分として用意している。お子さん用にスナック菓子とか飴とかを用意した。でももしかたら迷惑だったか? と思わないでもない。今はアレルギー持ちのお子さんもいるみたいだし……って特にあそこのお孫さん何かを避けて食べてるかんじでもなかったけどな。あとは、家によってお菓子をあげないよう制限しているところもあるとか。そこらへんは家で調整してもらおう。そんなことまでこっちが考えることじゃないし。

 夕方になる前に戻ってきたポチとタマは、本当にどこを走り回ってきたのかと思うぐらい汚れていた。


「お前らどこまで行ってきたんだ……」

「ウエー、ダメー」

「ウエー、ムリー」

「おー、さっそく行ってきてくれたのか。ありがとうな」


 丁寧に二羽を洗った。まだ神様は俺たちに会いたい気分ではないらしい。やはり神棚が必要だなと思った。でもそれは圭司さんたちが来てからでもいいだろう。


「あ、そうだ。明日は目覚ましで起きるから、タマ、起こすんじゃないぞ? 上に乗るのもダメ、つつくのもダメだ。わかったな?」

「……エー」

「不満そうな声を出してもダメだ」

「エー」


 だからどうしてそんなにタマは俺を起こしたいんだよ?


「せめて他の方法を考えろっての! 上乗られたら死ぬだろ? つつかれたらケガするだろ? それ以外でだ!」

「……エー」


 どこまでもタマは納得してくれなかった。明日も朝もつつかれるんだろうか。頼むから頭は止めてください。

 ドキドキな翌朝、ゴイーンッ! という派手な音で目が覚めた。


「うわっ! なんだっ!?」


 びっくりして飛び起きた。周りを見るとみんな頭を持ち上げてびっくりしたような顔をしていた。あれ? タマはと姿を探したら、台所で直立していた。


「タマ? どうしたんだ?」

「……シラナーイ」


 タマはおすましして元いたところに戻り、丸くなった。

 台所へ確認しにいったら、ボウルが一個土間に落ちていた。これを落としたのか?

 もしかして、これを咥えて俺の頭の上に落とすつもりだったんじゃあるまいな?

 ちょっと冷汗をかいた。


ーーーーー

タマ、自分なりに考えるの巻(ぉぃ

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