412.おばさんたちが作るごちそうは何故こんなにおいしいのか
「おおぅ……」
今日もまたおいしそうな料理が並んでいた。野菜の上にのっかっているのはシシ肉のチャーシューだろうか。前に狩ったシシ肉で作ったのかな。山盛りのポテトサラダに、シシ肉団子のトマト煮込み、シシ肉の一口カツ、大根の煮物に、白菜のくたくた煮など俺の好きな料理が並んでいた。大根の茎を使ったサラダ、大根の葉と油揚げの炒め物、天ぷらも出てきた。メインは全て大皿で圧巻である。もうどれから食べようか迷ってしまうほどだ。
本山さんのお孫さんは目を輝かせてカツや肉団子を食べていた。お孫さんの側にはフライドポテトもある。お子さんの好みも考えた料理だった。おいしそうに食べているのを見るとにこにこしてしまう。
すでに乾杯は終えていたらしく、俺と相川さんが座ると本山さんはバツが悪そうな顔をした。奥さんに肘で突かれている。
「ほら、言ったじゃない」
なんて呟きが聞こえたが気にしないことにした。俺とニワトリたちはおいしいごはんが食べられればそれでいい。
シシ肉団子はトマトで味つけされているということもあるが、全然クセがなくておいしかった。しょうがとかその手の薬味を入れて臭み消しをしているのかもしれない。つっても俺じゃいちいちミンチになんかしないけど。
「肉団子もおいしそうですね。いろいろ落ち着いたらまたうちに来てください」
相川さんがにこにこしながら誘ってくれた。
「ええ、是非!」
相川さんは誰かに手料理を振舞うのが好きみたいだ。先日松山さんのところで山唐さんにいろいろレシピとか聞いていたみたいだし。おいしいものばかり食べさせられて、本気でウエストがやヴぁくなってきた気がする。
「佐野君」
陸奥さんたちに声をかけられた。
「はい」
「どうもな、イノシシが思ってたのと違うらしいんだ」
「そうなんですか」
そういえば昨日そんなようなことをおっちゃんと本山さんが言っていたな、と思い出した。
「ってことは陸奥さんたちももう少し出張ですか?」
「もう何日かってとこだな。イノシシは狩猟免許はあまり関係ないんだが、さすがにもう撃つわけにいかねえからよ」
「ああ……狩猟期間ってやつですか」
「けっこう面倒くせえんだよ」
イノシシを獲る為の罠の設置などは認められているようだが、もう猟銃は使えないらしい。どうしても撃たなければいけない場合など特別な時は除くが、もう猟銃は持ってきていないのだという。
「さすがにこの辺じゃ人の目もあるからな!」
陸奥さんがワハハと笑った。確かに山の中なら人の目はなくていいだろうが、さすがにこの辺りだと誰が見ているかわからない。人があまりいない村なのだが意外と人の目はあるのだ。
そんなことを話していたら赤ら顔の本山さんとおっちゃんがコップ片手にやってきた。
「おう、昇平飲んでるか?」
「食べてますよ」
「飲まねえのか」
「飲んだら食べられないじゃないですか」
酒よりごはんだ。おばさんたちの作る料理を残したら絶対罰が当たる。……運動しないとな。
「陸奥さんから聞いたか」
「はい」
俺は頷いた。
「それでなぁ……悪いんだけどよ」
おっちゃんは本山さんを見た。
「佐野君、長引いてしまってすまんね。まだしばらくニワトリを派遣してくれないか?」
「……即答はできませんけど、多分大丈夫だとは思いますよ」
「そうか! よろしく頼むな!」
「派遣料は払うからよ」
「わかりました。ニワトリの様子を見て、前向きに考えます」
依頼、ということでお金が出るらしい。それはとても助かる話だった。こういう場面では断ってはいけない。知り合いだけなら固辞してもいいが本山さんはそうではないからだ。でも、むしろ気心知れてる相手の方が気前よく出してくれるよな。お友達価格でとか言われないし。それがとてもありがたかった。
「さすがに四月になったら来ねえぞ」
陸奥さんが釘を刺した。
「わかってるよ」
本山さんが頭を掻いた。
よく考えなくてももうそろそろ四月だった。いつのまにかお彼岸も過ぎたから山倉さんに連絡をしなくては。さすがに山を登るのに案内がいないと困るよな。ユマでも大丈夫そうだが、できればタマに案内してもらいたい気がする。
なんかユマでは危なかっしいかんじがするのだ。どうしてかはわからないけど。
「えーと、もしかしたらこちらに連れてくるのが一羽になるかもしれませんけど、それでもいいですか?」
「かまわねえよ。ポチか? タマか?」
「一羽だけだったらポチですね」
「じゃあよく話さねえといけねえな」
「はい。お願いします」
失言ダメ、絶対。
「相川君も来るから大丈夫だろ」
「そうだといいんですけどね」
相川さんが苦笑する。タマはリンさんやテンさんが苦手だから相川さんに対してもちょっと苦手意識があるようだが、ポチは大蛇が苦手なわけじゃないから相川さんとの関係も悪くはない。もしポチだけを派遣することがあったらよく相川さんに頼んでおこうと思った。
途中でニワトリたちから呼ばれ、肉を追加したりしながら今回も大量に食べた。最後にシシ鍋が出てきておばさんは俺たちを殺す気かと思った。めちゃくちゃおいしかったけどな。
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