411.手土産攻防戦は終らない
おっちゃんちに着くと、すでに陸奥さんと戸山さんが来ていた。
「こんにちは~」
「おう、昇平来たか」
おっちゃんが陸奥さんたちと縁側でお茶を飲んでいた。まだ寒いのに元気だよな。
「おっちゃん、これ。俺と相川さんから」
「おう、いつもありがとな」
おっちゃんは朗らかに笑って手土産を持っていってくれた。ニワトリたちは畑の方に行っていてもいいらしいので、そのようにニワトリたちには伝えた。まだ明るいので、ニワトリたちは喜んで畑に向かった。もちろん山に上るなよとも言ってある。
俺と相川さんも縁側に腰掛けた。
「ニワトリたちは絶好調だな」
陸奥さんが煙草をおいしそうに吸いながら畑の方を眺めた。
「ええ、元気ですよ。出かける日はタマが起こしてくれるんですけど、最近つついて起こされるから痛くって」
「そりゃあ穏やかじゃねえな。目覚ましはかけてないのか?」
「かけてるんですけど、それより前に起こすんです」
「そいつぁ難儀だな」
陸奥さんと戸山さんが笑った。笑ってくれるならいいんだ、うん。
「昇ちゃん、相川君、手土産はいらないって言ったでしょ~」
おばさんが来た。怒ったような顔をしている。おっちゃんも苦笑しながら戻ってきた。
「いやぁ、ほら、今日は本山さん家族も来るから甘いものがあった方がいいかなと思って」
言い訳をするとおばさんは大仰にため息をついた。
「うちに来る時は手土産は禁止よ! 全くもう……」
おばさんはぶつぶつ言いながら戻っていった。
「いやあ、すまねえな」
おっちゃんが頭を掻いて腰掛けた。
「いやいや、おばさんの気持ちもわかるしさ」
こちらが気兼ねしないようにってことなのはわかる。でも手土産を持ってきたいんだからしょうがないじゃないか。そこはもう、こういったやりとりをするってわかっていても譲れない。
「手土産持ってきて怒られるってのも面白いね」
戸山さんがにこにこしながら言う。
「こんにちは~。今日もよろしくお願いします~」
玄関の方から声がした。本山さんの奥さんたちがいらしたようだった。
「いらっしゃ~い。上がってー」
「お邪魔します」
玄関の方でおばさんとのやりとりが聞こえた。おっちゃんは腰を上げかけたがおばさんが対応してくれたのでまた座った。
「そういえば、今日は秋本さんたちはどうしたんですか?」
すでに料理は開始しているみたいだけど秋本さんたちはどうしたのだろう。
「ああ……今回はもっちゃんちも一緒だからな」
遠慮してもらったようだった。
先日養鶏場で隣村の人と知り合ったんですよなんて話をしているうちに、いい匂いが漂ってきた。今日のシシ肉料理はなんだろうか。お子さんもいるからハンバーグとかになってでてくるのかな。あ、でもシシ肉だしな。
そんなことを考えながら相川さんに手伝ってもらってニワトリたちの餌場を準備した。念の為タープも上にかけておく。雨とか降らないだろうけど降ったらたいへんだし。
「いやぁ、遅くなってすみません」
本山さんたちがやってきた。息子さんとそのお子さんも一緒である。ということは娘さんは先に来ていたのだろうか。あまり台所の方は気にしないようにしていたからよくわからなかった。
「お酒飲む人は各自で持ってってー!」
「はーい!」
女性陣以外が集まったところで相川さんと倉庫へ酒を取りに向かった。取ってくるのは缶ビールとオレンジジュースだ。オレンジジュースはお子さんの分である。戻ると漬物と煎餅、それからコップが並んでいた。ビール缶を配り、オレンジジュースの瓶をお子さんに渡したら、緊張していた顔が一気に綻んだ。
「おじ……おにーちゃん、ありがとう!」
おう、よくわかってるな。
「どういたしまして」
おばさんからニワトリたちの餌をもらい、その時に本山さんの奥さんと娘さんに挨拶した。相川さんは餌場で待っていてくれた。
「僕が並べますから、佐野さんはニワトリさんたちを呼んでください」
「ありがとうございます。助かります」
畑へ向かうと、ニワトリたちは畑といっても山の側にいて、三羽共山を見上げていた。なんか物騒だなと思った。
「ポチー、タマー、ユマー、ごはんだってよー」
ニワトリたちに声をかけると、彼らはくるっと振り向いて俺めがけてドドドドドと駆けてきた。ぶつかったら怖いので俺も踵を返して走る。だからなんでこんなにうちのニワトリが走ってくる光景はパニック映画の様相なんだ。子どもが見たら泣いてしまいそうである。
庭に戻ると相川さんはもう食べ物を並べ終えていた。
「相川さん、戻りましょう」
空のボウルだけ持ってその場から二人で離脱した。
「食べてていいからなー!」
そう声をかけて縁側から居間に上がった。ちょうどニワトリたちが到着するのが見えた。
「足りなかったら鳴けよー!」
クァーッ! といい返事が聞こえた。やれやれだ。
さて、今日のごはんはなんだろうか。障子を開けたらおいしそうな匂いがしてきたのと共に、すでにうまそうな料理が並んでいて、俺はゴクリと唾を飲み込んだのだった。
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