399.宴会前はどうも落ち着かない

 そもそも養鶏場のお客さんって? いわゆる取引先の人たちなんだろうか。

 洗濯機を回しながらふと思った。あれだけの鶏を飼っているわけだからもちろん取引先はしっかりあるだろう。でもわざわざそういう人を呼ぶだろうか。少し疑問に思う。

 一人で気にしているよりは聞いた方が早いだろうとおっちゃんちに電話をかけた。


「あら、昇ちゃん。山はどうかしら?」


 電話に出たのはおばさんだった。おじさんは山を見に行っているらしい。まだ隣山の整備を手伝っているようだ。全く手入れされてない山を手入れするとか考えただけで眩暈がしそうだと思った。


「うちの山は昨日の夕方前からみぞれになって、今は何も降ってないです」

「そう、やっぱり山は雪が降ったのねえ」


 おばさんがたいへんねえとしみじみ言う。おばさんでもわかるかなと養鶏場のお客さんについて聞いたが、皆目見当がつかないらしい。


「お役に立てなくて悪いけど……でもそうね、もしかしたら隣村の人かもしれないわ。なんかお店をやってて、鶏肉をけっこう買ってくれるなんて話を聞いたわね。でもはっきりしないから、気になるなら……」

「あ、いえ、いいです。ありがとうございました」


 わざわざおっちゃんを呼んでもらうほどでもない。本当に気になったなら直接松山さんに聞けばいいのだ。

 やはり麓は雪が降らなかったようで助かったとおばさんは言っていた。何かあれば手伝いにいきますからと言えば、昇ちゃんはいい子ねえとしみじみ言われる。いつもお世話になっているのだからそれぐらい当たり前だと思った。

 とりあえず今日は道の具合を確かめる為ユマを軽トラに乗せて麓まで行って戻ってきた。日陰の場所で雪が見えたところはあったが道ではなかったので気にすることはないだろう。たったそれだけのことなのだがユマはご機嫌だった。


「ドライブー」

「そうだな、ドライブだな」


 またTVか何かで覚えたのだろうか。ただ麓まで行って戻ってきただけなのだがそれでも楽しかったようだ。ユマは今日もとてもかわいかった。

 戻って家事をしていると松山さんから電話があった。


「今日の明日で悪いんだけど、友達とか呼べないかな。佐野君の他に、二、三人なら泊っても大丈夫だよ」

「聞いてみます。ありがとうございます」


 シカ肉を食べるのだ。当然酒も入るだろうから泊りは間違いないだろう。すぐに相川さんに連絡をしてOKをもらった。


「養鶏場の側でシカを狩ったんですか? 相変わらずニワトリさんたちはすごいですね」


 と感心していた。


「今回はタマとユマなんですよ」

「皆さん優秀ですねぇ」


 相川さんはとても楽しそうにそう言った。


「桂木姉妹も来れるようなら誘おうと思っているのですが」

「いいんじゃないですか、にぎやかで」


 相川さんは自分の隣に妙齢の女性が座らなければいいぐらいになってはきた。自分からススススと避けていくしな。桂木姉妹もなんとなく相川さんが距離を置いていることはわかっているから、それで楽なのかもしれなかった。

 桂木さんにはLINEを入れた。返事がなくてもいいや程度である。今の彼女たちの状況がわからないから猶更だ。

 そんなに待たずに返事があった。


「絶対行きます! リエも一緒です。松山のおばさんの料理、楽しみです!」

「わかった、伝えておくよ」


 もちろん松山さんのお客さんが来るということを相川さんにも桂木さんにも伝えておいた。ただその人たちが誰なのかは知らないとも。


「いい人だといいですねー」

「そうだね」


 相川さんと桂木姉妹も一緒かと思ったら少し気が抜けた。困った際のフォローは相川さんに一任することになってしまうかもしれないが、すごく心強いと思う。意外と俺って人見知りだったのかも。ってまだ会ってもいないけど。

 松山さんからは三時以降に来るようにと言われた。手土産は桂木姉妹が和菓子屋から買ってくるという。そういえば和菓子屋にもとんと行ってない。でも自分一人の為に買いに行くほど和菓子が好きというわけでもないのだ。本当は店がなくならない為にも買いに行った方がいいのだろうが、やっぱり寄るとしたら雑貨屋だ。

 松山さんちに行く朝はとても早かった。


「ぐえええっ! タ、タマッ、おもっ……どけーっ!」


 だからどうして起こす方法が乗ることなのか説明してほしい。いや、説明してもらっても断るが。

 今朝も今朝とてタマさんが胸の上にのしっと乗っかりましたよ。苦しくて起きるとか本当に勘弁してほしい。


「あー……タマ! 乗るなっつってんだろ! そろそろ死ぬぞ!」


 さすがに勢いをつけて乗られてるわけではないから死にはしないだろうが、そろそろけっこうな重さだ。小学生の……低学年ぐらいの重さはありそうだ。確か兄のところの子どもがタマぐらいの重さだった気がする。一年以上前に会ったきりだが。


「タマー、ダメー」


 ユマにダメ出しされてタマはそっぽを向いた。俺が起きればすぐどくからまだいいんだが。いや、よくない。

 そしてまだ世界は暗かった。


「勘弁してくれよ……」


 とりあえずしょうがないので朝飯の用意をすることにした。


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新婚さんが不思議な山に暮らすお話。隣村の夏祭りで手に入れたトラネコと、毎日作物が実る不思議な畑、でっかい犬を飼っている隣人等と送るスローライフです。

明日からは番外編を上げていきます~

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