398.何もない日はまったりまったり
ニワトリたちがなんかバタバタしているなーと表を見たら、雪がみぞれに変わってきていた。いきなり濡れだしたからびっくりしたんだろう。四阿の下でぶるぶる身体を勢いよく震わせながら雨宿りしている三羽がかわいいなと思った。別に寒いわけではなさそうだ。濡れたのが嫌だったのだろう。
そちらでホウキを外し、バスタオルでニワトリたちを拭き、足を洗ってから家の中に入れた。結果として屋根の雪下ろしまでは必要なくなった。よかったよかった。
でも夕方には道路の状況は見てきた方がよさそうだ。みぞれだと積もりはしないが凍るからな。中途半端にみぞれとかじゃなくて雨ならいいのにと思ってしまう。勝手なもんだ。
スマホを見る。桂木さんからLINEが入っていた。なんだろうと開いた。
「下はみぞれですけど山はどうですかー? やっぱり雪ですか?」
どうやら村の方はずっとみぞれだったらしい。
「さっきまで雪が降っていたけど、今はみぞれ」
と返した。すぐに返信があった。
「マジですか~」
「うん」
「じゃあうちの山も雪ーやだー」
「たぶん」
こんなやりとりをしていると電話の方が早いのではないかと思ってしまう。桂木さんは流れるように返してくるけど俺はそんなに打つのが早い方じゃない。向こうはLINEスタンプもすごい勢いで使いこなしてるし。
「いつになったら春になるんですかー!」
「もう春だよ」
「そうじゃなくてー」
「うん」
その後ありがとうのスタンプが返ってきたからこれで終りだろう。どうもこの会話っぽいLINEのやりとりの終り時がいつもわからなくて困る。
このまま雨に変われば明後日は普通に行けるだろう。気温は上がってきているから雪が降っても比較的早く溶けるに違いない。……積もらなければ。
希望的観測はやめておいた方が無難だと、俺は考えることをやめた。明日は晴れたらいいなと思いながら掃除をし、早めに夕飯の支度をした。
それにしてもでかいニワトリが三羽も土間でうろうろしていたら邪魔でしょうがない。本当にでっかくなったなぁと思う。ポチがやっぱり一番でかくてとさかも立派だ。タマもユマもでかいがポチほどではない。ポチはとさかの分もあるから余計にでかく見えるのかもしれなかった。肉を食いちぎる姿も日々凶悪になっているような気がする。いいかげん慣れてはいるが、たまに村で普通のニワトリを見ると子ども? とか誤認してしまうほどだ。本当に小さい頃は一瞬だったなと思う。
「なー、タマもユマも……毎日卵産んでくれるけどさ。ポチの子産む気はないのか?」
なんとなく聞いてから後悔した。三羽しかいないから選択肢がないのにそんなこと聞くのはどうかと思った。
「ワカンナーイ」
ポチが言う。うん、お前はわかんないよな。男だしな。
「ヒヨコー?」
「ニワトリー?」
「ニワトリの子どもはヒヨコだな。悪い、聞かなかったことにしてくれ。今のはなーし。ちょっと表見てくる」
タマとユマにきょとんとした顔で言われてバツが悪かった。ガラス扉を開けると冷気が一気に入ってきた。日が暮れると途端に寒くなる。今降っているのはみぞれのようだ。確認してすぐガラス扉を閉めた。寒い寒い。
翌朝、世界はそんなに白くは感じられなかった。みぞれはまた雪には変わったりしなかったようだ。俺はほっとした。
ニワトリたちはすでに起きていて、うろうろしていた。今日も卵が端っこに転がされている。無精卵なのはしょうがない。もし有精卵だったとしても本人たちがわかるもんなんだろうか。
「おはよう、ポチ、タマ、ユマ」
「オハヨー」
「オハヨー」
「オハヨー」
返事があるのは嬉しいものだ。朝飯の支度をして今日も松山さんのところで買ってきた餌とシシ肉を何切れかあげた。定期的に狩りをするからうちのニワトリの食料事情はなかなか贅沢だったりする。ごはんはおいしい方がいいだろう。
ガラス扉を開けて外を確認する。みぞれも夜のうちに止んだようだった。
TVをつけたらちょうどニュースだった。そのまま天気予報まで見て今日が晴れだと知ってほっとした。みぞれも雪も太陽の熱で溶ければいいと思う。明日も晴れるようだ。やっぱり春だな。
ニワトリたちは今日は元気に表へ遊びに行った。でもタマが走る度びしゃびしゃかかる水のおかげでなんだか走りづらそうにしていた。だったら走らなきゃいいのになと思ってしまうのはだめなんだろうか。ポチとタマはそのまま遊びに行った。帰ってくる頃には泥だらけだろう。今日はしっかり洗わないとな。
ユマは相変わらず俺の側にいてくれるようだ。
「ユマ、運動不足じゃないのか? 遊んできてもいいんだぞ」
「イカナーイ」
プイとそっぽを向かれてしまった。こんなところもかわいくてしょうがない。顔がデレデレしてしまうのがわかる。外では表情が崩れないようにしないとな。うちのニワトリたちをかわいいと思っていることはみんな知っているだろうが、緩んだ顔をしたら変態扱いされそうだ。でもうちのユマは特にかわいいと思う。(ニワトリバカ全開
家の前を掃いて少しでも水をなくすようにする。どうしても土だからぬかるんで歩きにくくなるし。普段だと土ってふかふかしていいんだが、こういう時が困る。そんなことを思いながら少し道路を見に行ったりしてのんびり過ごした。
もう明日は松山さんちだ。そういえばお客さんが来るようなことを言っていたけど、松山さんのところのお客さんってどういう方なんだろうか。
ーーーーー
レビューいただきました! ありがとうございます!!
これからもよろしくですー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます