395.宴会の予定は明後日だけどまだわからない

 秋本さんは息を整えるのも大変そうだったので、俺と結城君でシカを運ぶことにした。(元よりそのつもりである)

 ちょうどいい枝があったのでそれにシカの足を括り付けて運ぶ形だ。枝の形も悪くなかったので肩にかかったかんじもそれなりだった。もちろん重いことは重かった。


「これ、怪我してたんですかね」


 足が一部変な方向に曲がっているのを見て、結城君が呟いた。


「そうかもしれないけど、わからない。じゃあ、タマ、ユマ、頼んだぞ」


 ユマに先導を頼み、松山さんのお宅へ戻った。着いてからはテキパキと秋本さんも作業をし、じゃあ明後日になんて言って帰って言った。あまりにも手際がよくて俺はぼうっとしてしまった。シカを運んできて疲れたってのもある。


「佐野君、ありがとうなー」

「いえいえ、狩ったのはタマとユマですから」


 そう返して、気になったことを聞いてみた。


「足が曲がってた?」

「ええ、元から怪我でもしていたのかと」

「ああ、まぁそういうことはままあることだな」

「そういうのって、肉に影響するんですかね」


 松山さんは俺が何を言いたいのかわかったようだった。


「そういうのは内臓を見ればわかるはずだから、そこらへんはあきもっちゃんがわかってるよ。なにかあればすぐに連絡くれるだろうしね」

「そうですね」


 今までのところうちのニワトリたちが捕まえた個体に異常があったことはなかった。でもこの先も異常がないとは限らない。


「なんともなければ明後日の夕方に来てくれるかな」

「はい」

「シカはあんまりよくわからないんだけどねえ。赤身なんだっけ。下処理の仕方を改めて調べておかないと……」


 鶏ならば調理させたらおばさんにかなう人はいないのだろうが、他の肉はよくわからないという。イノシシもシカも、捕れたのは嬉しいがどう処理をしたらいいかおさらいをする必要があるらしい。でも、それぐらい真摯に生き物の命と食べ方に向き合ってくれるのはいいなと思う。俺なんかシシ肉をもらって帰ってきても適当だしな。

 ちょっと反省した。


「タマ、ユマ、お疲れ。シカは明後日だってさ。でもシカが病気だったりすると食べられなかったりするから、その時は勘弁なー」


 そうなったら豚か牛のモツをどっかから仕入れてこないとだなと思った。


「そんなこと言って、ニワトリたちにはわかるのかい?」


 おばさんが不思議そうに聞く。俺は苦笑した。


「うーん、多分わからないと思います。でもこっちがわかっているのに言わないのはいけないかなーって」

「佐野君は真面目だねえ」

「そうですかね?」


 真面目とか関係あんのかな。


「佐野君、肉に問題なかったら他の人を呼んでもいいかい?」

「ええ、それはかまいません」


 タマとユマが狩ったといってもたまたまだしな。大体秋本さんと結城君を呼んだって5人と三羽だ。とても食べ切れる量じゃない。

 保管してもらっていた冷凍物を受け取り、タマとユマを乗せて帰った。

 いろいろあったせいか、帰宅した時はもう夕方になっていた。どうにか暗くなる前に帰ってこられてよかったと思う。まだポチは帰ってきていなかった。


「ちょっと片付けてくるから、表にいてくれ」


 タマとユマにそう声をかけて買ってきたものをしまった。餌はもう少し台所に置いておいてもいいかな。

 そういえば今年はあんまり雪が降らなかったんだろうかと、不意に思った。

 表へ出るとちょうどポチが帰ってくるところだった。ひょこっと木々の間から顔を出している姿がかわいく見えるが、縮尺がおかしいようにも見える。ようはなんか違和感があるのだ。

 ま、これはポチがでかいせいなんだけど。

 そう考えると、ニワトリたちを写真に撮ろうとしたら広い原っぱぐらいでないと撮れないように思う。もう木々の側にいるニワトリを撮っても違和感に気づかれてしまうのではないだろうか。ますます親に送れる写真の種類が狭まるなと思った。それかもう遠近法を駆使して撮るしかないんだろうか。


「ポチ、おかえり~」

「タダイマー」


 タッタッタッと駆けてくる。うん、ジ〇ーズのテーマがぴったりだ。

 でかいニワトリが駆けてくる図はナチュラルに怖い。なんか最近いつもそう見えるなーと思った。

 タマが近づいてきたポチに何やら話しかけた。ポチが目を見開いた。キラーンという効果音が聞こえてくるようだ。


「シカー?」


 ポチがコキャッと首を傾げた。

 かわいくしているつもりなのかそれは。まぁ、うん。ポチがやってもかわいいんだけどさ。


「ああ、シカをタマとユマが捕った。でもまだ肉の状態がわからないから食べられるかどうかもわからない」

「ワカラナイー?」

「松山さんから連絡きてからなー」


 こればっかりは運だろう。撃った時はすごく元気そうに見えたけど、解体してみたら……なんて話はそれなりにあるのだ。秋本さんたちも毎回開ける時はどきどきだろう。俺はきっと何年経っても解体とかできないと思う。って、一般人にできることでもないか。

 どうか問題ありませんように、とかなり切実に祈った。

 モツ、買うとそれなりの値段がするんだよなー。


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330万PVありがとうございますー♪ これからもよろしくですー。

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