396.油断しているとそういうこともある
なんとなくそわそわしながらスマホを確認していたら、夜になって松山さんから連絡がきた。
シカは異常なしだったそうだ。よし、と思った。
とはいえシカは熟成させた方がおいしいらしいから、食べられるのは早くて明後日なんだけどな。松山さんとこのお客さんも呼ぶ予定だそうで、結局三日後に松山さんちにお邪魔することになった。
「でもニワトリたちが待ってるんだっけか?」
「話せば……まぁ大丈夫だと思いますけど」
「話して通じるならいいなぁ。内臓だけ先に欲しければ言ってくれ。届けさせるから」
「いえいえ、大丈夫ですよ~」
電話を切ってからニワトリたちに話した。
「三日後に松山さんちに行くことになったから」
「ミッカ?」
「シアサッテ?」
「ミッカゴー?」
やべえ、タマさんが完璧に理解してる。時間までわかるとかなんなんだ。スーパーニワトリか。スーパーニワトリってなんだ、個人商店の名前みたいだな。
「あー……タマ、説明してやってくれ……」
俺ではニワトリ語は無理だ。つかなんでこんな完璧にこっちの言葉わかってるわけ? タマってば恐ろしい子っ!(誰)
「……ワカッター」
返事はしてくれるものの、タマは俺をジト目で見た。使えない飼主だなとか思われてるんだろーな。申し訳ございません。タマさま、どうかよろしくお願いします。
タマから説明を受けたポチが「エー」とか不満そうな声を出していた。まぁ気持ちはわかるけどな。でもお前今回働いてないだろーが。
「ポチはシカ倒してないだろ?」
そう言ったらショックを受けたような顔をしていた。嘴が半開きになったから怜悧な歯が見えてとても怖いです。普通ニワトリにそんなギザギザの歯はねーだろ。ま、これは今更だが。
「いてっ! タマ、痛いってっ!」
タマに突かれた。なんでだ。
ポチが倒してないのは確かじゃん。あ、でも俺も運んだだけだしな。つか、みんなしてうちのニワトリたちに頼ってるって状況もどうなんだ? まぁニワトリたちが楽しんで狩ってくれてるみたいだからいいけどな。
「なー、ポチ、タマ、ユマ……嫌なことがあったらちゃんと言えよ?」
俺は飼主だから全力でお前らを守るからな。……気持ちの上では。
くっ……本気でコイツらを守れる力が欲しいな。大事な家族だしな。
ニワトリたちはみなコキャッと首を傾げた。
ポチはきょとーん、というかんじで。タマは何言ってんだ、コイツって雰囲気で。ユマもきょとーんとしてた。でもその後俺の側にトトトッと寄ってきて頭をすり寄せてくれた。とてもかわいい。頼む、ユマは、ユマだけはそのままでいてくれえええっ!
俺は苦笑した。特に嫌なことがなければいいんだ。
「明日の天気どーだろーな」
いろいろバタバタしていたせいかスマホでも明日の天気の確認をしていなかった。確か昨日の段階では明日は曇だったはず。
ちょうどニュースの時間だったのでTVをつけた。
「……マジか」
国内情勢とか、政治とか、国際情勢とか、俺には直接は関係ない。だが天気は別だ。
みぞれになるかもしれません、ってうちの山だったら確実に雪じゃないか。しかも朝方からだと?
また雪下ろししなきゃいけないかなと思い、げんなりした。
あ、墓参りは行ったけど神様に挨拶行ってない。すみません、四月まで待ってください。ってこっそり手を合わせた。
んで、朝になって。
土間の窓がなんか白っぽい。すりガラスの戸の外もなんか白っぽく見えた。
「あー……雪か。マジかよ……」
布団から身を起こしてため息をついた。なんで朝から疲れてるんだろうな、俺。
まだ寒い季節なので居間で寝泊まりしている。居間を下りた土間の部分にはニワトリたちが丸くなって寝ているという状態だ。もちろん俺の呟きでみんななんとなく起きたけど。
布団を畳む。作業着は昨夜のうちに部屋から持ってきてあるから寒い部屋に取りに行かなくてもいい。こちらに寝床を移してから何日かは朝の着替えを持ってきておくのを忘れて凍えながら取りにいったりしたものだが、今は大丈夫だ。ま、それでも油断するとすぐ忘れるんだけどな。
作業着に着替えて土間に下りた。
「ちょっと戸を開けるぞ」
断ってガラス戸を開けた。まだそれほど地面は白くなっていない。うっすらと、というかんじだ。でも降り方はそれなりだから、夕方までほっておくとけっこう積もりそうだ。
ガラス戸を閉める。冷たい空気が家の中に入ってきてぶるりと震えた。やっぱ寒いよな。
午後には道路の雪かきもした方がいいだろう。
ニワトリたちの朝ごはんを用意し、俺はタマとユマが産んでくれた卵を回収した。糞などをちりとりに集めて一度畑へ撒きに行く。ニワトリのフンもまぁ畑の栄養にはなっている。(作物が生えてない辺りだ。直接植物にかけたらだめになってしまう)
ちょうどニュースの時間なのでTVをつけた。かわいいかんじの天気予報のお姉さんが、今日は全国的に雨でしょうとか言っていた。
うちは雪なんだよなぁ。
北海道も一部は雪のようだ。日本列島全て雨か雪って珍しいよな。斜めに長細い形なのにさ。
麓はどうなんだろうと思いながら、冷蔵庫から冷や飯を出し、ネギを軽く切る。タマかユマの卵を使ってチャーハンにした。ものすっごくうまいんだけど、肉も入れればよかったなと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます