385.お疲れさん会。俺は何もしてないけれど
おっちゃんちの隣、と言っても西側の隣である。東側の隣とも付き合いはあるが山持ちではないのでこういう時は話に上ってこない。問題は東の隣のそのまた隣だ。隣接して山は持っているが年なので全く手入れができないようなことを聞かされている。年寄り夫婦だからしょうがないのだろうとは思う。山を買うなんて奇特な人はなかなかいないしな。
「でっけえイノシシだな。最近でかいのが多くないか?」
秋本さんが呆れたように言った。確かにそれは俺も思っていることだ。でも秋本さんがちら、とうちのニワトリたちを見たのはいただけない。ニワトリたちは無罪である。(自分で言っててもよくわからない)
「なかなか俺らも山に入るなんてこたあしねえから、それでじゃねえか?」
「確かにな。じゃあ明日の夕方に持ってくりゃいいのか?」
「んー、どうすっかな。明日も隣の山まで回るんだよ」
「じゃあ明後日の方がいいか」
「それでよろしく頼むわ」
話がついたようで、秋本さんたちはイノシシを軽トラに乗せると帰って行った。まだ寒い季節だからそんなことを話していられたが、気候が暖かくなってくると野生動物の処理は時間との勝負になってくる。そう考えると狩猟が冬というのは合っているのだなと今更ながら思った。
庭に戻り、縁側に腰掛けて俺はニワトリたちについている枯草やごみなどを丁寧に取り除いた。相川さんも手伝ってくれたので、ポチを任せた。丸一日駆けずり回っていたせいか、羽の中まで見ないといけないのが面倒ではあった。でもこれが生き物と暮らすことだもんなとごみ取りをがんばった。
「いやあ、本当にポチさんもタマさんもすごいですね」
毛づくろいをしながら相川さんが言う。だから、活躍シーンは教えてくれなくていいから。
「ポチとタマなんで」
そう言って話を終わらせようとした。
「あの雄姿は佐野さんも見た方がいいと思いますけどね」
そこは思いっきり遠慮させてほしい。悪いけど俺にとってはかわいいニワトリたちでいいのだ。偶然見てしまったなら仕方ないが、誰かに聞かされることでもない。
「いーんです。俺はうちのニワトリたちが世界一だってことは知ってます」
「そうですね」
そうしてブラシでごみを取っていると、障子が開いて呼ばれた。
「昇ちゃん、相川さん、ごはんよ~」
「はーい」
「ありがとうございます」
大体大丈夫かなと確認し、おばさんからニワトリたちの餌が入ったボウルを受け取った。
「ボウルの大きさは違うけど内容量は一緒だからねー」
普通は同じ大きさのボウルを三つとか持ってないよな。
「ありがとうございます。ポチ、タマ、ユマ、中身は一緒だってさ」
そう言いながら三羽の前に置いた。ポチに大きめのボウルを置き、タマとユマには同じぐらいの大きさのボウルを置いた。三羽は頷くように首を動かすと食べ始めた。
「終ったら呼んでくれよ」
そう言って俺たちは玄関の方へ向かった。玄関横の水道で手を洗い、おっちゃんちにお邪魔する。今夜の夕飯もごちそうだった。泊まりだからビールが並んでいる。糠漬け等の漬物が盛られた器に、食べやすい大きさのカツが大皿に盛られている。あとは煮豆に、大根の煮つけなど嬉しいものばかりだ。がんもどきの煮つけもうまい。ひじきの煮物やきんぴらごぼうもある。カツはシシ肉のようだったが柔らかくておいしい。
「カツ、すごく柔らかいですね」
「先にけっこう煮たからね~」
豚肉は茹でても固くなるが(茹で方による)シシ肉は煮れば煮るほど柔らかくなるというのだから不思議だ。よく煮た肉をカツにしているのだ。おいしくないわけがない。みそダレでいっぱいおいしくいただいてしまった。また太るなぁ。作業着のズボンがきつくならないことを祈る。
途中ポチに声をかけられておばさんからシシ肉をいただいたりした。せっかく新しいシシ肉が手に入るのだからとおばさんは大盤振る舞いをしてくれたようだ。
「ま、正直言うとイノシシもそろそろ飽きてきたんだよな~」
おっちゃんが言いながら苦笑する。確かに二人だけだと毎回シシ肉なんてことになってもおかしくない。それだけでなく揚げ物もしなくなるとかで、そうなるとレパートリーが減る分飽きやすくなるのかもしれなかった。
うちは元々そんなにもらっていかないし、それに半分以上ニワトリたちの餌になるから飽きていないのだろう。いつでもジビエが食べられるというのは贅沢だと思うが、それが毎日だとありがたみも薄れるかもしれないと思った。
ニワトリたちの嘴などを拭き、今日も土間で預かってもらうことにした。
陸奥さんはおっちゃんとけっこう豪快にビールを飲んでいたが、戸山さんは途中から船を漕いでいた。かなり疲れたに違いなかった。座布団を枕にして戸山さんが寝てしまったのでおばさんが布団を掛ける。
「今日はどういう風に回ったの?」
おばさんが聞いた。
「ああ……うちの山に上って、あんまり足を踏み入れてなさそうなところを回って……それから隣の山に入ったんだっけか」
おっちゃんが目線を上に上げて思い出そうとするように言った。
「そうですね。なかなか隣山は回れませんでしたが……なにせ藪が多くて……」
相川さんが苦笑する。手入れがされていない場所だと足を踏み入れるのも一苦労なようだった。
「それでも下の方は藪を切り払ってけっこう見回ったんですよ。そしたらポチさんがいきなり上の方へ向かって走り出しまして……」
またか、と思った。獲物に向かって一直線というのもどうなんだ。
明日はまた上の方を探す予定らしい。隣の家の畑を荒らしているイノシシが早く捕まりますようにと願った。
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