384.おっちゃんちの隣家のおじさんに会った

 畑の方へ駆けて行くと、天秤棒にけっこうな大きさのイノシシが吊られているのが見えた。それを陸奥さんと相川さんが持っている。俺は急いで陸奥さんと代わった。

 ちなみに、アナグマは11月頃から4月頃まで冬眠しているらしい。だから今の時期は見かけないものだと後から教えてもらった。ちょっと恥ずかしかった。とはいえアナグマも家の屋根裏で越冬していることもあるらしいので、そういうのは捕まることもあるのだとか。どうしても山と人の住んでいるところが近いとそういうことになってしまうようだった。

 それはともかくイノシシである。なんかここのところ捕まえるイノシシがかなり大きい気がする。そんなにうまいものをたらふく食っているのだろうか。


「あれ? おっちゃんは?」


 戸山さんの姿はあったがおっちゃんの姿がない。その質問には戸山さんが答えてくれた。


「ゆもっちゃんならお隣さんを呼びに行ったよ」

「あ、そうなんですか」


 となるとこのイノシシは隣の山で狩ったものなのだろうか。


「隣山との境で見つけたんですよ。雪解け水があったのかちょっとした水場がありまして」


 相川さんが聞いていないのに俺の疑問に答えてくれた。でもその先はあまり聞きたくない。


「……ポチとタマの活躍については、教えていただかなくてけっこうですから」

「それは残念です」


 相川さんがにっこりした。

 イノシシを駐車場まで運ぶ。そこへおっちゃんともう一人おじさんが駆けてきた。隣の人のようだった。見た目はおっちゃんと同年代のように見える。ニワトリたちは集まってまた庭の方へ行ってしまった。

 もう太陽は沈んでしまったようで、西の方角はまだ濃いオレンジに染まっているがその上部には夜の帳がかかっている。この夜になるかならないかという逢魔が時が意外と好きだったりする。


「こんばんは」

「ああ、こんばんは」


 隣のおじさんに挨拶をすると返してはくれたがそれどころではないようだった。おじさんはおっちゃんと共にイノシシを眺めてから首を振った。


「こんなにでかい奴じゃないな」

「ならまだ他にいるってことか」

「こんなにでかい足跡じゃないんだ。もう少し小さいがタヌキじゃねえ」

「全く、困ったもんだよな」


 おっちゃんたちは苦笑した。


「じゃあこれはいつも通り秋本に預けて、明日も回れるようならまた頼んでいいか?」


 おっちゃんが陸奥さんたちに声をかけた。

 陸奥さんが戸山さんと相川さんを見る。


「そうだねえ。今夜ゆもっちゃんちに泊めてくれるなら明日も回ってもいいんじゃないかな」


 戸山さんが答える。相川さんも頷いた。俺もどうせもう今日は帰れそうもないからニワトリたちさえよければかまわなかった。


「ニワトリたちに聞いてみます」

「ニワトリに?」


 隣のおじさんが不思議そうに聞く。


「ヤマカガシの時も散々世話になっただろ!」

「ああ、それもそうだったな。できれば頼んでもらえないか?」

「はい。俺は聞くだけですけど」


 大丈夫だろうが俺が勝手に判断していいことではない。うちの大事なニワトリたちに強要することがあってはならないと俺は思う。つか、強要したところで聞いてくれる奴らじゃないことも確かだ。

 庭へ向かいニワトリたちを呼んだ。


「ポチー、タマー、ユマー。今日はお疲れさん」


 ニワトリたちが近づいてくる。うん、三羽ともでかいからすぐ側まで来られると圧迫感がハンパない。


「今日はもう暗いから山に帰れないんだ。おっちゃんちに泊まることになるがいいか?」


 ポチが代表してココッと返事をくれた。かまわないらしい。


「ありがとな。それで、明日もおっちゃんちと隣の山を回りたいそうなんだ。付き添って上ってもらってもいいか」


 別に何か光る要素があったわけでもないのに、ニワトリたちの目がキラーンと光ったように見えた。再びココッとポチが鳴く。それは任せろ! と言っているようだった。


「そっか。行ってくれるか。じゃあよろしくな」


 断られるとは全く思っていなかったが念の為だ。よかったと思った。

 暗くてよく見えないが羽にけっこうゴミが付いているようだ。ブラシを持ってきておいてよかったと思う。あとでおっちゃんちに入れる前にブラッシングしておこう。

 ニワトリたちと連れ立って駐車場に戻ったら隣のおじさんが目を剥いた。


「ニワトリって……こんなにでかくなるものだったか?」

「ん? 先祖返りじゃねーのか? ほら、鳥の祖先は恐竜だっていうしよ」

「……相変わらず大雑把だな。以前見た時よりかなりでかくなってるが……そういうもんか」

「そういうもんだろ」


 おっちゃんが平然として言うものだから隣のおじさんもへんに納得したようだった。騙されているような気がしないでもないが、追及されても俺もわからないからそれでいいんだろう。でも今日の昼に会ったんじゃないんだろうか。結局会ってなかったのかな。


「じゃあ、すまないが明日もよろしくな。ニワトリたちも」


 隣のおじさんが苦笑しながら言うと、ポチがコッと返事をした。おじさんは一瞬目を見開いたがその目を細めた。


「頭のいいニワトリだなオイ。頼んだぞ」


 そう言いながら帰っていった。


「おっちゃん、今夜泊めてくれな」

「おう、わかってるよ。遅くなって悪かったな」


 山を下りた時にでも連絡したのか、秋本さんの軽トラがやってきた。イノシシを解体処理する為に持っていってくれるようだ。本当に助かるよなと思った。

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