373.宴会の口実はなんでもよかったりする
おっちゃんちに着き、ニワトリたちを下ろす。
「ちょっと聞いてくるな~。待っててくれ」
家の中に声をかけたら、ニワトリは畑に行かせるように言われた。ニワトリたちに畑へ行ってろってさと伝えて、相川さんと手土産を渡した。
「おー、悪いな。団子はいいよな~」
おっちゃんは意外と甘い物が好きなんである。
「あ、昇ちゃん。お寿司屋さんに頼んであるから受け取ってきてくれない?」
「わかりました」
お寿司を頼んだってことは今日の宴会は足が出るんじゃなかろうか。どう考えたって二万じゃ足りないよな。もっと用意すればよかったと反省した。
お寿司屋は村のちょうど中心辺りにある。もちろん軽トラで行かないといつまで経っても辿り着かない。村が広いのも考えものだ。
「すいません、湯本です。お寿司受け取りにきました~」
「はいはーい。って、ゆもっちゃんの息子さんじゃないよな?」
「湯本さんにお世話になっている、サワ山の佐野です」
「ああ、サワ山の! オマケしとくよ」
「ありがとうございます!」
お寿司の他に刺身のパックもいただいた。
「桶は……」
「明日にでも取りに行くよ」
「わかりました」
大きな桶に寿司がぎゅうぎゅうだ。これは相当高いんじゃないだろうか。冷汗をかきながらおっちゃんちに戻った。
「お寿司、受け取ってきましたよ~」
「ありがとうね~。ところで」
お寿司の桶を受け取ったおばさんは笑顔なんだけどなんか怖い。つい腰が引けてしまった。
「手土産もありがたいんだけどねぇ」
その低い声、怖いです。
「持ってくるなって言ってるでしょ!」
「そんな~。ただの気持ちじゃないですか」
「出禁にするわよ!」
「えええええ」
手土産持ってきて文句を言われるとかなんなんだよ。また絶対用意するけどさ。
いつも世話になってるんだから手土産なしとかありえないだろ。相川さんがコロコロ笑っている。くそう、イケメンめ。
「相川君もよ。あんな高そうなお茶持ってこなくていいんだから。もっと気軽に来てちょうだい」
「いえいえ。気持ちですから」
「もー!」
本気で怒っているおばさんがなんか微笑ましい。
「いーじゃねえか、もらえるものはもらっとけば」
「何言ってんのよ! だいたいアンタはいつもいつもそうやって……!」
おっちゃんが取り成してくれようとしてたいへんな目に遭っている。ごめんおっちゃん。おっちゃんの犠牲は忘れない。
そんなことを言い合っている間に陸奥さんと戸山さんもやってきた。
「真知子ちゃん、世話になるよ」
「あらいいのよ~。いっぱい食べていってね~」
「お邪魔します~」
「ゆっくりしてってくださいな」
やっとおっちゃんは解放された。
「……お前らなんで逃げてんだよ」
「おっちゃんありがとー」
「ありがとうございました」
相川さんと共に頭を下げた。
こういうのは日ごろの行いだとは思うんだよな。本人には言わないけど。
んで、とりあえず宴会が始まった。今日の宴会の口実はうちの四阿完成記念だ。
「……おっちゃん、足が出ただろ?」
こっそり聞くと、おっちゃんは目を反らした。俺の目を見ろっての。
「まぁ飲め!」
なんか誤魔化そうとしているのはわかる。でもきっと追及しても答えてはくれないだろうからそこでやめることにした。今後なにかを頼む時はもっと包まないとだめだなってことはわかった。
今日はおっちゃんが蕎麦を打ってくれたようで、寿司の他に山盛りの天ぷらと大盛りの蕎麦がどんどーんと出された。
「温かいおつゆがよければあるから言ってね~」
もちろん煮物もある。やっぱ大根の煮物は至高だ。
「本当はごはんのおかずなんだけどね~」
そう言いながらおばさんが出してきた料理は、こんにゃくと大根を短冊切りにして、麻婆豆腐っぽくした麻婆大根だった。
「ごはんも炊いてあるわよ~」
そんなこと言われたら乗っけて食べたくなるじゃないか。って寿司があるじゃん。
「冬の大根は水分を多く含んでるからこういう料理もいいですね~」
「でしょう? でもそろそろ大根の季節も終わりかしらね~」
相川さんとおばさんが主婦みたいな会話をしているのを横目で見ながらもりもり食べた。白菜の漬物がうまい。もちろん寿司もおいしかったし、天ぷらもおいしかった。あ、そばも。
……ああまた太る……。
ちなみにニワトリたちにはいつも通り庭にビニールシートを張って、その上に野菜のてんこ盛りと豚肉、そしてシシ肉も提供された。すっかりうちのニワトリたちは肉食である。(雑食か)
「昇平~、風呂は本当に作らなくていいのか~?」
「大丈夫ですから」
「大きいお風呂あるといいんじゃないですか?」
相川さんまでやめてほしい。
「毎日薪をくべるのがしんどいんですよ。メンテナンスもできませんし」
「プロパンだと金かかってしょうがねえだろう」
だから陸奥さんもやめてってば。
「山だと薪が取れるからいいよね~」
戸山さんまでこれだ。
「一番奥の部屋を潰して風呂にするならいいと思うんですけどね。まぁ、薪くべるのはどこにするのかとか換気とかの問題はありますけど」
そんなことをほろ酔いで言ったら何故かおっちゃんたちの目がキラーンと光ったように見えた。
だめだぞ。もう金は出さないぞ。そりゃあユマと広い風呂に入りたいとは思うが、その代償がたいへんすぎる。
「……お金は出しませんからね」
「そう言うなよ~」
本気で風呂に一緒に入れなくなってから考えよう。今はまだ自分の仕事を増やす気にはなれないのだ。
だって寒いし。
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