372.手土産に相変わらず悩んだりする

「和菓子でいいんじゃないですか?」


 相川さんが言う。


「そしたらそれに合わせたお茶も……」

「あ、今の時期だったら緑茶よりは紅茶がいいと思いますよ。身体も温まりますし、新茶の季節はまだ先ですしね」

「新茶の季節?」


 そういえば毎年いつかの季節に新茶とか見たような気がする。あれは何月ぐらいだったか。

 ちょっと考える。新緑って言うぐらいだから四月、とか五月ぐらいだろうか。


「だいたい……四月の終りから五月ぐらいですかね。緑茶だったらその時期に新茶を渡した方が喜ばれると思いますよ」


 今は二月の半ばだ。


「紅茶って時期はいつなんですか?」

「紅茶は全発酵茶なのと紅茶向けの茶葉の産地がインドとか暖かい気候なので、あまり時期を選ばないというのはありますね。一年を通して新茶があるかんじです。後はその時期の茶葉の好みですかね」


 なんか相川さんが難しいことを言っている。

 とりあえず、一年を通して新茶があるらしい。それならあまり新茶とかこだわらなくていいのかなと思った。


「今度ダージリンの飲み比べとかしてみましょうか?」

「ダージリン、って……一番よく聞きますね」

「名前はよく聞きますよね」


 つか、相川さんはなんでそんなにいろいろなことに詳しいのだろうか。やっぱりイケメンは違うのか。(イケメンに対する偏見です)


「たぶんあまり意識して飲まれたことはないと思うので、ダージリンの春茶を買ったらお声掛けしますね」


 もう本当にわからない。春茶ってなんだ。


「ありがとうございます」


 よくわからないので和菓子は俺が買うことにして、紅茶は相川さんに任せた。どーせヘタレだよ、ほっとけ。

 四阿に関していうと、ニワトリたちは完成したその日にはもう慣れたようだった。ただ走ってくる際に邪魔にはなるようで、避けたり眺めたりはしていた。ユマはコンクリの足跡が気になるらしく、ぽてぽてとコンクリの上を歩いて確認したりはしていた。もう足元がぐにゃっとしないのが不思議なのだろう。

 ぼうっとユマの様子を見ているのもなんか楽しかった。

 ユマが気づいて、


「ナーニー?」


 トットットッと近づいてきた。


「ユマがかわいいなと思ってさ」

「ユマ、カワイイ?」


 コキャッと首を傾げるさまがかわいい。でっかいけど。


「かわいいよ」

「カワイイー」


 バッサバッサと羽を動かして喜ぶユマ、めっちゃかわいい。

 そして落ち着いてからすりっと擦り寄ってくれた。本当にかわいい。

 俺の語彙力がなさすぎてつらい。このユマのかわいさを伝えたいのにかわいいしか出てこない。って、誰に発信するんだっての。発信しちゃだめだろ。規格外にでっかいんだし。


「あ」


 そういえば母さんにニワトリたちの写真を送れって言われてたっけ。撮るのけっこうたいへんなんだよな。遠近感とかで。下手に外で撮ると不自然にでかかったりするし。木とか建物からそれなりに離れた位置で撮ればうまくいくだろうか。でももう面倒なので今日は諦めることにした。

 しようと思ったことでもいろいろやっていない気がする。寒いからとか言い訳して、何もできていない。

 それから五日後、おっちゃんちで宴会をするからと呼ばれた。もちろんニワトリたちも一緒にこいと誘われた。

 和菓子を買うのは相川さんも一緒に来るそうだ。苦手だったらいいのに、と思ったけどそれを言うのはどこかはばかられた。


「いらっしゃいませ~」


 つい先ほどまでお客さんがいたのか、今日は珍しくすでに娘さんがカウンターに出てきていた。


「今日は何になさいますか~?」


 相川さんは少しカウンターから離れた位置にいる。そこから物色しているようだった。


「いくつずつがいいですかね?」

「十個ずつでいいんじゃないですか? 余れば真知子さんのおやつになるでしょうし」

「そうですね」


 またこんなに買ってきて! とおばさんに怒られそうな気もしたが、少ないよりはいいだろう。みたらし団子、あん団子、三食団子を十本ずつ買った。包んでもらって受け取る際、


「あのっ」

「はい?」


 娘さんに声をかけられた。


「今日は、そのっ、かわいいお嬢さんたちは一緒じゃないんですかっ?」

「?」


 かわいいお嬢さんたちというと桂木さんたちのことだろうか。


「ええ、一緒じゃないですけど……」


 へんな返し方をしてしまった気がする。この娘さんは何が聞きたいんだろうか。


「佐野さん」

「はい?」


 相川さんの声のトーンがなんか低い。もしかしたら機嫌が悪いのかもしれないとふと思った。でもなんでだろう? やっぱり、若い娘さんがいる空間にはあまりいたくないのかな。娘さん、けっこうちらちら相川さんの方見てるし。


「彼女たちが待ってますから、早く行きましょう」

「あ、はい。それじゃ」


 彼女たち? と思ったけどタマとユマのことかなと思って和菓子屋を出た。


「ありがとうございました~……」


 なんか娘さんの声に力がないように聞こえたけどどうしたんだろうか。でもニワトリたちの姿を見たらすぐにそんなこと忘れてしまった。


「ポチ、タマ、ユマ、お待たせ。じゃあ行こうか」


 ココッ! とニワトリたちが返事をする。そうしてみんなでおっちゃんちに向かったのだった。



ーーーーー

娯楽が少ないのでしょうがないのです。妄想ぐらいはさせてあげてほしいのです。悪い子ではないのです~。(謎

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