367.雪かきとまったり暮らし
ハクビシンの肉を少しいただいた。これはニワトリ用だ。
ジビエはどうもうまく調理ができない。シシ肉なら味噌漬けとか醤油漬けにすれば臭みも気にならなくておいしく食べられるんだが、他の肉はさっぱりだ。シカ肉は何日か置いた方がおいしくなると聞くし、下ごしらえの方法なども今はネットで検索できるがやはり難しい。って俺が不器用なのかもしれないけど。
「雪かき、手伝いますよ」
「慣れてきたので大丈夫だと思います。でも手におえなかったらお願いします」
「わかりました」
相川さんにも甘えすぎだ。
「うちはリンががんばるから大丈夫なんですけどね~」
雪嫌いで雪を駆逐しようとするリンさんが怖い。まさに重機だった。大蛇重機とかありえない。
「無理だと思ったら早めに連絡しますので」
「わかりました」
ぎりぎりまで粘るよりも判断力が大事ではある。重症になってから医者に行っても助からないことは多い。よしんば助かったとしても治療に時間がかかる。つまりはそういうことだ。
車が通ったであろう場所は雪がないので走りやすいが山に近づくともうダメだった。相川さんと別れて自分の山の入口に入る。木がある場所には雪はないがそれでも薄っすらと白くはなってきている。
「ユマ、雪かきできそうか?」
「スルー」
一度下りてポチとタマにもお願いして竹箒の頭を爬虫類っぽい尾に括りつけた。そして麓まで尾をフリフリしながら走ってもらい、麓から家までも同じようにしてもらった。まだ道にはそれほど雪はなかったから、降り出してからそんなには経っていないのだろう。それでも家に着いた時はほっとした。本当に、うちのニワトリさまさまである。
今日は雪が降っているのでニワトリたちも家の周りにいることにしたようだった。その方が気持ちの上でも助かる。
「あ~、帰ってきたな~」
オイルヒーターをつけて、片付けに勤しんだ。さすがに昨日の服は洗濯機に入れないで持って帰ってきた。一昨日の服は洗濯してもらえたので洗濯物の量はない。
「どーすっかなー……」
洗濯すれば電気代はかかるが水代はただだ。こういう寒い日は凍らないようにかえって水を使った方がいい。洗濯することにした。干す時が冷たいんだよな。
「今日はまだ暖かいんだよな……」
雪が降っている間はあまり寒くはない。止むと途端に寒くなるのがいつも不思議だ。
屋根の雪もまだそんなに積もっているかんじはないから夕方に一度下ろせばいいだろう。今夜あんまり降らないといいなと思った。
結果として雪はあまり降らなかった。夜中まで降り続いたようだが量はそれほどでもなかったのだ。
翌日の昼は一度道路の雪かきをニワトリたちに手伝ってもらい、それでもういいことにした。天気予報を確認すれば明日は晴れだったから買物に行けるだろう。それなりに備蓄はあるしニワトリたちの餌はばっちりだから大丈夫だとは思うが、大雪が降るなどして閉じ込められた時を想定しておかなければならない。だから備蓄できそうな食料は買っておかないといけないと思うのだ。
一応発電機もあるが電気が止まったら困るな、と電線も確認しておかないといけない。俺一人だからいろいろ確認することは多い。でもニワトリたちとこうしてまったり過ごす日々は楽しい。
雪だけでなくハクビシンのこともあってか、それから数日は穏やかに過ごした。
買物ついでにおっちゃんちに顔を出してまたお昼ご飯をごちそうになった。年寄り、というほどの歳ではないかもしれないがそれでも還暦は過ぎている。どうしているかなと気になってついつい顔を出してしまうのだが、すぐおばさんに捕まってしまう。冬の間はなんだかんだいってヒマなのだろうなと思った。
「今桂木さんたちは陸奥さんちにいるんですって?」
「まだあちらにいるんですか? ハクビシンをいただいた時はいましたけど」
「連絡は取り合ってないの?」
「雪でバタバタしていたので」
他愛のないLINEなら入ってくるが今どこの家にいるかは聞いていない。
「男ってダメねぇ」
「……そういうんじゃねえだけだろ?」
おっちゃんが苦笑してフォローしてくれた。
用事があれば今どこにいるか聞くしな。どちらにせよ俺の気がきかないのは間違いなかった。
「おばさん、きんぴらごぼうおいしいです」
「あら嬉しいわ。少し持って帰る? いつもいっぱい作っちゃうのよね~」
「ありがとうございます」
ニワトリたちはおっちゃんに頼まれて畑の周りの雪かきをしていた。
「昇平んとこのニワトリには助けられてばっかだなぁ」
「俺もすんごく助けられてます」
今考えると、ニワトリいなかったらマムシに噛まれてたいへんなことになってたんじゃないかな、俺。
考えただけで背筋が寒くなった。
また野菜やら缶詰やらいただいて帰った。ふらりと来た時の手土産は受け取らないと言われてしまったので持って行ってはいない。今度はなんか用事を作って顔を出すようだ。
でもそんな用事はなかなか浮かぶものでもない。これは相川さんに聞いてみるべきか、と考えてやっぱり頼り過ぎだと首を振った。
ニワトリたちがみんなしてコキャッと首を傾げてそんな俺を見ていた。
うん、かわいいな。
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