366.宴会の翌朝はいつだって梅茶漬け
今回もお酒より食べることに専念してしまった。
おかげでまた腹がぽんぽこりんである。身体が重いと思いながらビニールシートなどを片付け、ニワトリたちの羽や嘴を拭ってから土間に置いてもらった。
うん、ハクビシンもなかなかおいしかった。
満足して寝て起きた翌朝、また世界は白くなっていた。
「あー……」
また雪か。相川さんはいつも通り早く起きているらしい。布団はすでに丁寧に畳まれていた。どこにいてもちゃんと起きられるってすごいなと思う。
着替えて顔を洗い、台所に顔を出して挨拶した。
「おはようございます」
「佐野君、起きてきたのね~。おはよう。今日はニワトリさんたちお休みみたいね~」
陸奥さんの奥さんがにこにこしながら返事をしてくれた。お嫁さんは横でにこにこしている。
「ああ……卵を産まなかったんですね」
「せっかくだから今夜も泊まらない?」
「せっかくのお申し出ですが辞退させていただきます」
こちらも笑顔で返した。また泊まったりなんかしたら家に帰れなくなってしまう。明日ニワトリたちが卵を産む保証もないし。
「あら残念ねえ、桂木さんたちは泊まっていってくれるみたいなんだけど」
ちら、とこちらを見るのはやめてほしい。そういうのじゃないし。
「桂木さんたちはまだ山には帰らないからいいんじゃないですか」
しれっと言って玄関横の居間に移動した。
どうして男女がいるとそういう方向へ持っていきたくなるんだろうな? 不思議でしょうがないと思ったが、学生の頃はみんなそうだったなとも思い出した。
「おはようございます」
「佐野さん、起きていらっしゃったんですね。おはようございます」
相川さんがほっとしたような顔をして隣に置かれた座布団を手のひらで軽く叩いた。そこに座れということらしい。空いている座布団の隣は桂木姉妹である。早く起きてはみたものの、女性陣ばかりで困っていたらしい。
「佐野さん、おはようございます」
「おにーさん、おはよー」
平日ということもあってか中学生のお孫さんはもう登校したようだった。帰り大丈夫なのかな。
「今日はニワトリちゃんたち卵産まなかったみたいー」
「ああ、そういう日もあるんだよ」
「知ってるー。また機会があったら食べさせてねー」
桂木妹がにっこりして言う。
「ああ、機会があったらな」
図々しいと思われるかもしれないが、俺にはこれぐらいはっきり言ってくれる方がいい。俺は決して察しがいい方ではないから。
「佐野さんはお茶漬けでいいのよね?」
「はい、ありがとうございます。お願いします」
奥さんが確認に来た。
「昨日の残りで悪いんだけど唐揚げいる? トースターでチンするわよ」
「お願いします」
定番の梅茶漬けの他に漬物、厚切りのハムサラダ、シカ肉の唐揚げと目玉焼きをいただいた。なんだかんだいって豪勢な朝食だ。唐揚げは揚げたてよりは味が落ちるが、それでもトースターで温めてもらえたのでおいしく食べられた。
「あんまり日を置かない方がいいんだけどね~」
そう言いながら少しでも取っておいてくれたのが優しいと思う。
「お昼ごはんは何が食べたいかしら?」
「あ、そのことなんですけど……」
お昼ご飯まで用意していただけるというのは確かにありがたいのだが、世界が白くなっているので帰らないとまずい。念の為軽トラにはスコップと竹箒も詰んである。これで帰りがてら雪かきが多少はできるという寸法だ。
「そうね……また雪が降ってきちゃったわねぇ……」
「何もこんな時に降らなくてもいいのに」
お嫁さんも苦笑していた。
そういうことなので相川さんも早めに辞すことにしたようだ。陸奥さんが起き出してくるのを待って、俺たちは帰ることにした。
「なんでこのタイミングで雪なんか降るの~。佐野さんたちともっとおしゃべりしたかったのに」
桂木さんがぼやいた。
「LINEすればいいだろ」
「もー、佐野さんってば直接会って話すのとは違うでしょー」
「それもそうだね」
桂木さんが年甲斐もなく膨れた。これはこれでかわいいと思う。へんな誤解をされても困るから言わないけど。
「あー、おねーちゃんかわいくしてるー」
「なっ、しっ、してないわよっ!」
妹に指摘されて桂木さんは慌てて真っ赤になった。うん、確かにかわいい。
「おにーさん」
「何?」
「うちのおねーちゃん、かわいいよね?」
「……同意したらどうなるんだ?」
「べっつにー?」
桂木妹は口を尖らせた。若い子の考えることはわからん。それより雪の深さが気になった。
ようやく陸奥さんが起きてきたので挨拶して辞した。次は相川さんのところの炭焼きで会うかもしれない。
表へ出ると、やっぱり世界は白くなっていた。
ニワトリたちは先に外に出ていたが、あまり動いてはいなかったようだった。風はあまりないからそれほど寒くはないけど足元は冷たいよな。
天気予報は今夜遅くまで降ることになっている。平地はそうかもしれないが、うちは山だからもっと降り続くかもしれない。
「また雪かきかぁ……」
「困りますね」
相川さんと顔を見合わせて、俺たちは急いで山へ帰ったのだった。
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