368.西山のイケメンがごはんを持ってきた

 それから何日か経った。雪はまた一度降ったがどうにかなる程度だった。


「今日これからお伺いしてもいいですか? 昼食は持参しますので」


 朝相川さんからLINEが入った。昨夜陸奥さんからハクビシンの件は済んだという電話をもらったので、そのことかもしれなかった。


「かまいませんよ。みそ汁だけ作っておきますね」

「ありがとうございます。佐野さんの分のおかずもありますから」


 どうやら相川さんがケータリングしてくれるらしい。相川さんの作るごはんおいしいんだよな。


「嬉しいです。お待ちしています」


 と返して今日のやらなきゃいけないことを確認した。ポチとタマはすでにツッタカターと遊びに出かけた後である。

 洗濯機が終ったよーと知らせる音がしたのでとりあえず洗濯物を干すことにした。作業着はすぐ匂いがとんでもなくなるので定期的に熱湯に漬けるようにしている。60℃以上のお湯で漬ければいいらしいがそんな温度なんて測ってられないので沸かしたお湯を使っている。あんまり熱い湯に漬けると生地が痛むらしいが匂いだけは如何ともしがたい。もっと暖かい季節になったらN町のコインランドリーに行くつもりだ。お湯で洗ってくれる洗濯機があったはずである。

 洗濯物を干し終えた頃車の音がした。

 相川さんが来たようだった。ここのところ一人と三羽だったのでお客さんがちょっと嬉しい。


「こんにちは~」

「コンニチハ」


 ユマがそつなく挨拶をしている。


「相川さん、こんにちは」

「佐野さん、フライパン使ってもいいですか? 餃子を包んだのを持参したので」

「ありがとうございます! 使ってください!」


 餃子だなんて、すっごく嬉しいじゃないか。俺は二つ返事で相川さんを迎えた。

 餃子は冷蔵庫に入れてもらった。ごはんはおにぎりをわざわざ握ってきてくれたらしい。みそ汁は多めに作ってある。完璧だ。今日のみそ汁は小松菜と油揚げである。別にドヤ顔でいうもんでもない。

 漬物と煎餅をお茶請けに出してお茶を淹れた。


「ありがとうございます。これ、うちで漬けたのでよかったらどうぞ」

「ありがとうございます。いただきます!」


 白菜の漬物をいただいた。いくらでもごはんが入ってしまいそうだった。


「ハクビシンのこと、陸奥さんから聞きました?」

「終ったということだけは聞きました」


 やっぱり本題はそれだったようだ。


「ええ。昨日ちょうどお邪魔したので詳細を聞いてきましたけど」

「じゃあ教えてください」


 相川さんを促した。

 あれから貸家の天井裏を全戸点検したそうだ。林に近いところにある三軒の屋根裏にハクビシンが住んでいることが確認できたので、燻煙剤を使って追い出したらしい。その際に三匹捕まえたそうだ。残りは逃げてしまったが林の向こうへ行ったようなので様子を見るそうだ。


「結局何匹ぐらい逃げたんですか?」

「目視では四匹だそうです。林の方へ逃げたそうですが、もしかしたら戻ってくるかもしれませんと。ただもう屋根裏に上がれそうな隙間は全部塞いだそうです」

「ああ……確かに隙間があればまた入ってくるかもしれませんね」


 そうか、やっぱり屋根裏に入れるような隙間があるのか。


「古い家ほどどうしても隙間はできますから。ただ、これからは年に二回ぐらい点検することにしたそうです。それだけでもよかったと陸奥さんが感謝していましたよ」

「うちのニワトリがお役に立ててよかったです」


 相川さんが何故かにっこりした。


「それでですね、さすがに肉を丸ごと差し上げるわけにはいかないのですが、佐野さんも功労者ということで今回の餃子にハクビシンの肉が入っています」

「おお!」

「シカ肉の入ったものも用意しましたので味比べができたらと思ったんですが、混ざってしまいまして……」


 相川さんが頭を掻いた。


「え? ああ、そうなんですか。でもおいしく食べられればいいんですから……ありがとうございます!」


 はっきり言って利き肉ができる自信が全くないのでそれはそれでよかったと思う。

 桂木姉妹はとっくに陸奥さんのお宅を辞して、今は山中さんのお宅にいるらしい。何日かしたらおっちゃんちに泊まりに行くかもしれないとのことだった。それは陸奥さんちのお嫁さん情報だった。


「彼女たちもなかなか落ち着きませんね」

「春まではしょうがないかもしれません」

「妹さんて、これからどうするのかな……」

「ストーカーの元カレをどうにかしないと安心して帰ることもできませんしね……」


 そこらへん相川さんは同情的だった。自分も似たような経験があったからだろう。


「あまり長引かなければいいと思うのですが」

「そうですよね」


 桂木妹は若いから山での生活よりは町の方がいいだろう。もちろんこちらで暮らしたいと言われればサポートはするつもりでいる。

 ちょっとしんみりしてしまったが、久しぶりに相川さんとじっくり話せてよかった。

 リンさんはまだまだ山から下りる気はないらしい。ハクビシンの肉ももりもり食べたそうだ。


「そういえば相川さんの裏山の獲物って、どうなったんでしょうね?」

「三月になったらまた回るつもりでいますが……更に裏の山が国有林ですからもしかしたらそちらで大規模な駆除をしたのかもしれません」

「ああ……その可能性もありますね」

「それならそれで全然かまわないのですが、環境省のHPには載ってなかったんですよ。だからなんともいえません」


 相川さんはため息をついた。大蛇ってかなり食べるみたいだからやっぱりリンさんとテンさんで駆逐してしまったのではないだろうか。でもそうなると餌が困るよなとかちょっと思った。

 昼になって相川さんが餃子を焼いてくれた。フライパンだけは実は親が送ってきたいいものである。ダイヤモンド加工とか言ってたかな? 俺には宝の持ち腐れだったかもしれないが、相川さんは、「テレビショッピング恐るべし……」とか呟いていた。

 肝心の餃子? おいしかった! 味は違うといえば違ったかもしれないがよくわからなかった。

 白菜とニンニク、ハクビシンの肉かシカ肉のミンチが入った餃子はとにかくおいしかった!

 ごちそうさまでした。

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