344.猟師さんと西山の住人と話していた
踵を返して陸奥さんちの縁側に腰掛けた。座布団が出されていたから冷たくはなかった。寒いは寒いんだけど日が出ているからそれほどでもない。風もないしな。
お茶と、お茶請けに大福が出されていた。できればあん団子が食べたかったがなんだったらまた帰りに買って行けばいいだろう。
「寒くねえか?」
陸奥さんに言われて、「それほどでもないです」と答えた。山の上の寒さに比べればなんということもない。そうは言ったが陸奥さんが寒そうだ。
「でもちょっと寒いかな」
「だよな~」
というわけで縁側から上がった。
「あらあら、結局中ですか?」
「いや、ほら、佐野君が寒いっつーからよ」
奥さんに言われて陸奥さんがそう答える。
「あらあら」
わかってて言っているのだから微笑ましいと思う。相川さんもにこにこしている。俺は頭を掻いておいた。
「そういやニワトリたちを行かせちまったけど昼飯はどうくれてやりゃあいいんだ?」
しまったというように陸奥さんが困った顔をしている。秋ぐらいまでなら虫だの葉っぱだの勝手に食べているのだが、冬はさすがに外でごはんというわけにもいかないだろう。山だと土中の虫なんか見つけて食べているみたいだけどな。
「おなかがすけば戻ってきますよ。その時にあげていただければ十分です」
今年の冬は豊猟なので10kg単位でシシ肉があるらしい。近所におすそ分けをしてもなくなる量ではないそうだ。まぁいくら家族が多くたって毎食シシ肉を食べているわけではなさそうだし。しかも養鶏場に伝手もできたものだからおいしい鶏肉の確保もできて万々歳だという。それはよかったなぁと思った。
「相川君、炭づくりと四阿作りはどっちが先がいいかな?」
「そうですね。炭は急ぎませんからまずは佐野さんちを優先させましょうか」
二人ともしっかり覚えていたようだった。ちっ。
「じゃあニワトリの出張が終ってからだな。さすがに俺が出かけるわけにもいかねえだろ」
「そうですね。佐野さん、すみませんがもう少し待っててください」
「はい、ありがとうございます」
ちなみに四阿を作るのはそんなに時間はかからないらしい。冬、風などを遮る為にほしいと言ったら丈夫な柱を何本か立ててその上にトタン屋根を乗せる形にするそうだ。地面から確認して柱を立ててくれるそうで、本格的である。台風などもあるからその対策でもあるのだろう。あらかた材料は集まっているらしく、地面の確認作業によっては二日もあればできると言われた。だからどんだけでっかい工作が好きなのか。よくわからない会話もあったのでそこらへんは口を挟まず大福を食べた。
昼過ぎにニワトリたちが戻ってきた。陸奥さんの奥さんがシシ肉を食べやすい大きさに切り分けたのと野菜を出してくれた。ニワトリたちはご機嫌で午後の見回りに向かった。こちらもお昼ご飯をごちそうになってしまった。昼食付というのは俺のごはんも込みだったらしい。一週間丸々俺が付き添う必要はないが、ずっといてくれてもかまわないと言われた。さすがに家事がおろそかになるから明日は送ってきたら家に戻る予定ではいる。
「あ、そういえば……」
和菓子屋でのやりとりを思い出した。
「今日和菓子屋に行った時お友達は? って聞かれてしまいました」
「そうでしたか」
相川さんが苦笑する。陸奥さんがわははと笑った。
「相川君はハンサムだもんなぁ」
「あらやだ、今はイケメンって言うのよ~」
と奥さんが訂正していた。確かに最近あんまりハンサムって聞かない気がする。
「今日は別行動だって言ったらすごくがっかりされてしまって」
「まぁ、佐野さんだって……」
奥さん、そこはがんばらなくてもいいところです。イケメンでは決してないし、不細工と言われたことはないけどフツーですので。
「ははは! そりゃあ災難だったなぁ!」
災難ではないかもしれないけどちょっとな、とは思う。気にしてないけど。
「それと、和菓子屋のおじさん? にニワトリたちをUMAと間違われてしまいまして」
「ゆーま? UFOか?」
「それは未確認飛行物体ですよ。確かにあの尾は素晴らしいですよね!」
相川さんが訂正しつつキラキラした目で言う。大蛇を飼っているぐらいだ。爬虫類っぽいところが好きなのかもしれないと思った。
「そりゃあ……大丈夫なのか?」
「獣医さんに診てもらってると言ったらほっとされました」
「今後は新しい店にはニワトリさんたちは連れて行かない方がいいかもしれませんね」
「ですねー」
ちょっと反省した。
「佐野さん」
「はい?」
「桂木さんたちっていつぐらいにこちらに戻ってくるか聞いていますか?」
「え?」
相川さんが桂木さん姉妹を気にするなんて珍しいこともあったもんだ。
「えーと、残すところ最終試験のみらしいんでそれは地元で受けるって言っていたから……早ければ来週には一旦顔を出すんじゃないですかね?」
「そうですか」
「どうかしたんですか?」
思わず聞いてしまった。
「いえ、ちょっとした思いつきなので気にしないでください」
にっこりして相川さんが言う。その目が笑っていないように見えてちょっと怖いなと思った。いったいどうしたんだろうなと疑問に思った。
ーーーーー
もう明日から8月! ってことで近況ノートに明日以降の予定を上げました。
「8月の予定 & 7月の成果」
https://kakuyomu.jp/users/asagi/news/16817139557280464064
よろしければご確認ください。そして作者が腐りすぎててごめん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます