343.ニワトリ部隊、再び!
そんなに日は経っていないが、和菓子は女性陣に好評だったということで和菓子屋に寄ってから陸奥さんちに向かうことにした。なので今日は朝早くではなく、店が開く時間に合わせて山を下りた。ニワトリたちには和菓子屋の駐車場の側にいるように言った。
今日は相川さんとは別行動である。相川さんも向かうことは向かうが適当に行くそうだ。若い娘さんはやっぱり苦手のようである。
「こんにちは~」
「はーい、いらっしゃいませ~」
今日も出てきたのは娘さんだった。
今日はお萩があった。食べづらいけど俺は好きなんだよな。でも手土産だからおまんじゅうとかにしておこう。
大福を10個とあん団子を10本にさせてもらった。
「今包みますのでお待ちください。……あのぅ」
「はい?」
包みながら声をかけられた。
「その……今日はお友達は一緒では……」
「ああ……」
苦笑した。相川さんのことだろう。
「今日は用事があるみたいです」
「そうですか」
あからさまにがっかりすることはないんじゃないかなと思うけど、ろくに娯楽もない山間の村だ。イケメンぐらい見ても罰は当たらないだろうと思う。
代金を払って和菓子を受け取り、店の表へ出たら白い服を着たおじさんがすごい顔でニワトリたちを見ていた。確かこの店の店長さん? である。
あ、やヴぁいと思った。
「すいません、うちのニワトリたちが何か?」
「あ、ああ……お客さんのニワトリでしたか……いやあ、あんまりでかいもんで何が起きたのかと……」
「驚かせてしまってすみません。なんか突然変異みたいで……今連れて帰ります。ポチー、タマー、ユマー、行くぞー!」
呼んだらトテトテと戻ってきてくれた。走って戻ってこなくてよかった。おじさんが三歩ぐらい下がってしまっている。近くにくると余計にでかいかな。
「UMAかと思いましたよ……」
「あはは……でかいですけど、いい子たちですよ」
クリプティッドに間違われてしまったようだ。確かに村外の人からしたら得体が知れないよな。もう村外の人ではないみたいだけど。そう考えるとこの村の人たちのおかしなものに対する耐性がすごすぎる気もする。ま、共存できればいいよな。
「一応獣医さんには診てもらっているので」
「ああ、そうなんですか」
おじさんはほっとしたようだった。
「いつもおいしい和菓子をありがとうございます。また寄らせていただきますのでお願いします」
「はい、ありがとうございました!」
おじさんに頭を下げられながら軽トラを発進させた。和菓子屋のおじさんのような反応をされたことがほとんどなかったから忘れていたけど、気をつけなければいけないなと思った。
村の西の外れから東の外れまで移動する。直線距離にしたらそれほどではないが、近いとは言い難い。
陸奥さんの敷地は相変わらず広いなと思った。北東方面に広がる林はそれなりの面積があるようだ。林の北側には川があるらしく、その川は北にある山から流れてきているのだそうだ。林の東側も山である。その辺りの山は養鶏場がある松山さんの裏山の並びで、国有林なのだと聞いている。つまりうちのニワトリたちが回るのは山とのキワまでだ。
「こんにちは~」
相川さんの軽トラは先に着いていた。陸奥さんも出てきていたので挨拶をしてさっそくニワトリたちを下ろした。陸奥さんがニワトリたちを見て相好を崩した。
「佐野君、ありがとうな。調子はどうだ?」
「ニワトリたちは絶好調ですよ。手土産を持ってきたんですけど……」
「おいおい、そんな気を使うこたあねえよ」
そう言いながらも陸奥さんは嬉しそうだ。手招きされて家に向かう。相川さんがニワトリたちに挨拶してくれた。
「おーい、佐野君が手土産持ってきてくれたぞー!」
家の中に陸奥さんが声をかける。パタパタと足音がしてお嫁さんが出てきてくれた。
「佐野さん、いつもありがとうございます」
「この間と同じで和菓子なんですけど」
「まぁ、嬉しいです。気を使ってくださってありがとうございます」
お嫁さんはにっこり笑んで包みを受け取ると持って行った。
「縁側に茶あ淹れてくれ! 三人分だ!」
「はーい」
返事を聞いてからまた表に出た。
相川さんがポチの羽を撫でていた。なんか珍しい光景だなと思った。
「待たせて悪かったな。ポチ、タマちゃん、ユマちゃん、さっそくあっちの林の見回りを頼みたいんだ。そんなに広くはねえが山からなんか下りてくることがある。イノシシとかシカはできれば倒して呼んでくれ。山には上らないでくれ。いいかな?」
陸奥さんが具体的な指示を出す。
ココッ! とニワトリたちが返事をした。
「見回りは日が落ちる前に止めてくれ。無理して狩る必要はねえ。ただ帰りにイノシシとかシカを見たかどうか聞くからそれに答えてくれりゃあいい。絵を出すから、見つけていたら鳴いてくれ。わかったかな?」
サーイエスサー! と返事をするようにニワトリたちが再びココッ! と鳴いた。
「じゃあ試しに一週間ぐらい頼むわ。日が少しでも陰ったら帰ってくるように。よろしくな~」
クァーッ! とポチが代表して返事をし、ツッタカター! とニワトリ部隊が出発したのだった。
つか、あんなとんでもないスピードで走ってって大丈夫なんだろうか。まだ雪残ってるのに。
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