340.雪かきも少しは慣れてきた

 昼飯をいただいた後ぐらいにニワトリたちは戻ってきた。クァーッ! と庭でポチが鳴いたので気づいたのだ。


「お? 戻ってきたか?」


 陸奥さんがフットワーク軽く玄関から出て行く。雪降ってるんですけど。


「戦利品はなしか~。また頼むぞ~」


 そんな連日戦利品とか勘弁してほしい。


「おかえり、そろそろ帰るか。今日も雪かきだな」


 ニワトリたちの雪を払ってやりながら苦笑した。うちの山はどれだけ積もっているんだろう。チェーンは持ってきてあるのですでに軽トラの車輪に巻いてある。村の道に雪だまりのようなところがなければ山の麓までは帰れるはずだ。

 ポチとユマがココッ! と鳴いて羽をバサバサさせた。雪かき好きなんだよな。かわいいやつらめ~。


「すいません、ニワトリたちも戻ってきたのでそろそろ帰ります」


 家の中に声をかけた。荷物はすでに軽トラに積んである。今回もニワトリたち用に少しシカ肉を分けてもらった。俺はどうもシカ肉はうまく調理ができないから自分で食べる分はもらっていない。下ごしらえがシシ肉よりも手間なんだよな。(個人の感想です)


「おー、気をつけて帰れよー」

「はーい」

「僕も帰りますね~」

「僕も帰りまーす……あー、一人つらい」


 相川さんと川中さんも帰るようだ。ちなみに戸山さんはまだいるようだが、畑野さんはもういない。朝食をいただくとすぐに帰っていった。


「雪かきをしないとな……」


 と呟いていた。一晩留守にしたからがんばらないとということだろう。一家の長はたいへんだ。

 ちなみに陸奥さんちの周りの雪かきはニワトリを待っている間にみんなでした。奥さんと嫁さんに恐縮されてしまったが、「いつもお世話になっていますから」で押し切った。ウエストがきつくなるのはいただけない。運動も兼ねてである。汗をかなりかいたので予備で持ってきた下着に着替え、でもお茶を飲んだら戻ってしまった気がした。雪かきで消費するのは水分だけなのか?(そんなことはないと思う)

 途中までは川中さんも一緒だったが、俺たちは山沿いの道を進むのでそこで手を振って別れた。川中さんの家は村の西側にある。山の下の方だからそれほど雪の被害はないだろうと思った。


「雪かき、手伝いますよ?」


 相川さんの申し出はありがたかったが、ここで頼ってしまうとダメな子になってしまう。


「本当に困ったら声をかけてくださいね!」


 と約束させられて山に戻った。俺ってどんだけ頼りなく見られているんだろう。麓まではそれほど積もっているかんじはなかったので気になったところだけ雪を道から落としておいた。


「雪かきを頼んでいいか?」


 ニワトリたちに聞くと、ココッ! と返事があった。他の人の気配でもしたのだろうかと不思議に思ったが、まだ麓にも着いていないからだったのだろう。うちのニワトリたちは俺なんかよりよっぽどしっかりしている。

 下りてもらい、尾に竹帚の頭を括り付ける。それで何度か振ってもらって調整した。

 麓まで移動し、柵を越えて鍵をかけ、


「よろしくな~」


 と頼んだ。木々があるのでそれほど道に雪が落ちているかんじはなかったが、ニワトリたちはすごい勢いで山を駆け上って行った。ありがたいけど、ありがたいけど……。


「なんであんなに元気なんだ……」


 ちょっとたそがれてしまった。俺もニワトリたちが掃いた雪を道から落としたりしながらうちに戻った。掃いては軽トラに乗って進み、というノロノロ仕様だ。それでも家までそれほど時間はかからなかったから慣れてきたのだろう。麓から40分ぐらいで家に着いた。汗だくである。洗濯をするのはいいが乾くのかちょっと心配だ。


「ポチ、タマ、ユマ、ありがとうな~」


 ニワトリたちの尾がぶんぶん振られている。近くに寄ったらとてもひどい目に遭いそうだった。


「おーい、そろそろ落ち着け~」


 ユマが一番最初に落ち着いてトットットッと近寄ってきてくれた。


「ユマ、ありがとうな~。外していいか?」

「イイヨー」

「ありがとう」


 ユマの尾から竹箒の頭を外す。これも随分役に立っている。頭だけとはいえお疲れさまだ。


「ユキカキー、オワリー?」


 ユマがコキャッと首を傾げた。


「ああ、後はまた様子を見て明日かな」

「ワカッター」


 家の屋根を確認する。思ったより積もっていないから暗くなる前に一度雪下ろしをすればいいだろう。ポチとタマはそれからもしばらくぶんぶんと尾を振り回していたが、ユマがおとなしくしているのに気づくと近寄ってきてくれた。労って竹箒の頭を外させてもらう。そうしてやっと家の中に入れた。

 ……寒い。

 雪の降り方は麓と変わらないようだったので、「遊ぶなら遊んできていいぞ」と声をかけた。

 ポチとタマはためらいもせずツッタカターと遊びに出かけてしまった。体力あるなと苦笑した。ユマは家の周りでのんびりするようだ。


「ユマ、片付けとかしてるからな」


 声だけかけてさっそくオイルヒーターをつけて片付けをした。洗濯物は乾かないだろうけど洗濯しないわけにもいかない。俺の隣の部屋に干して、寝る時になったら居間に運ぶことにした。

 作業着がなかなか乾かないんだよな。もう何着か買った方がいいかもしれない。それぐらいの投資は必要だろう。

 雪が降っている間の方が寒くないので今のうちに倉庫からニワトリたちの餌を運んだりもした。倉庫から脚立とマットを持ってきて雪下ろしをする。マットはかび臭いが万が一落ちた時用だ。今度晴れた日に干そうと思った。

 結局また汗だくである。

 こんなに動いたんだから少しは痩せないものだろうか。

 ポチとタマが帰ってくるまでいろいろ作業をした。足と腰が痛くなった。

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