329.聞いてみたけどよくわからなかった

 帰宅してから羽などの汚れを落としたりと甲斐甲斐しくニワトリたちの世話をした。今日は特に抵抗もなく、ニワトリたちはされるがままだった。素直に委ねてくれるのが助かるけど、素直過ぎるのもちょっと心配ではある。


「今日は何があったんだ?」


 夕飯の後改めて聞いてみた。


「デッカイノー」

「タベチャダメー」

「ヒト、イター」

「……お前らに聞いた俺がバカだった」


 断片すぎて全くわからない。唯一ユマの言ったことだけが情報といえば情報だった。人がいたというとその山には所有者がいるわけだよな。


「松山さんちの裏山まで行ったのか?」


 となると隣村の管轄になるんだろうか。いやだぞ俺は、ニワトリたちのせいで隣村と喧嘩なんて。


「ウシロー」

「オクー」

「ヤマー」


 裏山まで言ったらしい。そのままどうにかこうにか話を聞くこと十分。


「裏山の先になにかでっかい生き物を見つけたから狩ろうとしたけど狩れなかった。知らない人がきたから逃げたってことでいいのか?」


 うちのニワトリたちに狩れない生き物ってなんだよ。でかいっていったらクマぐらいしか思い浮かばないぞ。


「ま、いっか。その生き物には今度遭っても狩ろうとするんじゃないぞ。心配だからな」


 そう言って三羽の羽を撫でる。今日はタマも特に嫌がりもせず撫でさせてくれた。いつもこうならいいんだけどな。

 いつも通りユマと風呂に入った。足が伸ばせないのがつらいけどユマと一緒に入る方が大事だ。気持ちよさそうに目を細めてくれるところなんか最高にかわいい。


「やっぱうちが一番だよな~」


 相川さんちでも風呂は使わせてもらえるけどさすがにちょっと気を使う。そういえば大きい風呂の作成はどーすっかな。作らなくてもいいんだけど、ユマがこの先も育つどうかが問題なんだよな。

 次の日はいつも通り過ごした。

 相川さんからLINEが来た。

 川中さんがずるいずるいとうるさいらしい。しょうがないだろ、うちのニワトリがイノシシ捕まえちゃったんだから。

 宴会に誘われなかったと文句を言っているようだが知ったことではない。陸奥さんは養鶏場が気になっていたみたいだから戸山さんも合わせて声をかけただけだ。大体、泊れないのにどうするつもりだったんだろう。


「今度お知らせだけ事前にすることにしましょうか」


 よほど文句を言われたらしく相川さんからこんなLINEが入ってきた。


「そうですね」


 お誘いは特にしないけど。こういうことがあったというのを先に知らせるぐらいはいいだろうと思った。

 今日はポチとタマが遊びに行っている間に、ユマに付き合ってもらって炭焼き小屋の近くで枯れ枝などを集めていた。一応鉈やのこぎりなどを持って木々の余分だなと思う枝は切っていく。枝が重なってたら光が届かないだろうし。


「間伐って大事だよな」


 木々を見上げて呟いた。この辺りは常緑樹が少ないから太陽の光が届いているが、夏もこんなに枝が重なっていたらだめだろう。腰に負担がこない程度に枝などを切っていった。


「相川さんにも見てもらわないとなー」


 なにせ自己流だからよくわからない。ネットは見てるんだけどピンとこない部分もある。そこらへんは実践している人に聞くのが一番だと思った。

 そういえば、と頼まれていたことを今頃思い出した。昨日ニワトリたちがボロボロになって戻ってきたことで頭から吹っ飛んでいたらしい。

 いかんいかんと思いながら夜ニワトリたちに聞いてみた。


「相川さんちの裏山なんだけど、お前たちも行くか? 陸奥さんたちが来てほしいんだって」

「イクー!」

「…………」

「イカナーイ」


 珍しくタマが返事をしなかった。どうしたんだろうと思ってから、リンさんたちが苦手だったなと思い出した。


「相川さんの裏山ではリンさんにもテンさんにも会わないよ。陸奥さんたちもリンさんのことは知らないし、テンさんは冬の間は眠ってるしな」

「……イクー」


 それならば、とタマも返事をした。ユマは興味がないらしい。


「ユマは?」


 トトトッと近寄ってきて、


「イルー」


 と言う。


「俺の側にいるのか?」

「イルー」


 ユマさんがかわいすぎてやヴぁい。絶対この子は嫁に出さない。(誰にだ)

 相川さんにさっそくLINEでポチとタマが相川さんちの裏山に行くことを知らせたら電話がかかってきた。


「いいんですか!?」

「え、ええ……」


 なんで食い気味なんだろう。ちょっと引いた。


「……すみません、今年は全然何も見つからなくて……シカは見かけたんですけど逃げられてしまって……。川中さんには文句を言われまくるしたいへんなんですよ……」

「お疲れ様です」


 それはひどいと思った。主に最後の理由が。


「それで、いつからにしましょうか」

「明日からでもいいですか? 陸奥さんたちに連絡しておきますので」

「ええ……まぁ特に予定はないのでいいですけど」


 よほど堪えているらしい。そんなわけで急きょ明日、相川さんちの裏山に行くことが決まった。


「明日行くからなー」


 と伝えたら、


「イクー」

「イクー」

「イルー」


 ニワトリたちから即座に返事があった。ユマは俺の助手席に納まってればいいんだよ。かわいいなと思った。

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