328.ニワトリの卵は今日も大人気

 松山さんちに初めて泊めてもらった。起きた時おっちゃんちと勘違いしてぼーっとへんな方向へ歩いて行き、壁にゴインとぶつかったりした。それをたまたま土間にいたポチに見られてフイッと顔を背けられてしまった。ひどい。

 ニワトリたちは先に朝ごはんをいただき、食べ終えていた。飼主が寝坊助で申し訳ない。

 朝ごはんは炊き込みご飯だった。そんなに飲んでいなくてよかったと思った。

 人参と油揚げ、鶏肉の炊き込みごはんである。幸せだ。豆腐と白菜のみそ汁が胃に優しい。おかずは親子丼ならぬ親子炒めだった。卵はタマとユマが産んだものを使ったらしい。大皿いっぱいになっていた。ニワトリたちの卵については昨夜のうちにおばさんに伝えてあったので遠慮せずに使ってくれたようだった。産んだら、という話だったから産んでくれてよかったと思った。


「卵、使わせてもらったわよ~」

「はい、調理していただいてありがとうございます」


 別に俺の分はなくてもよかったけど、あったらあったで嬉しいものだ。

 その親子炒めだが、一口目をみんな食べた途端目の色が変わった。鶏肉が最高で卵も最高なのだ。朝から奪い合いになってしまった。卵と鶏肉は危険である。


「な、なんだこの卵は……濃厚で、それでいてもっと食べたくなる……」

「目玉焼き? 次は目玉焼きね……佐野君」


 松山さん夫妻の目の色がまだ変わっている。


「一日一個しか産みませんし、うちのニワトリたち以外にでっかいのは見たことはありませんから」


 二人の肩が落ちた。


「そうだよなぁ……」

「そうよねぇ……」


 相川さんはマイペースにもりもり食べている。この人も大概元気だよな。ちなみにニワトリたちはすでに表へ出て遊びに行ってしまっている。寒いというのにとにかく元気だ。


「衛生管理もきちんとできてませんから、量産は難しいと思いますよ」

「でっかいニワトリかぁ」

「真面目に探してみる?」


 それでも二人は諦められないようだった。鶏屋さんだもんな。でも卵は扱ってないわけで。


「メスもってなったらたいへんじゃないですか? それにうちのは毎日山を回ってないとすぐに運動不足で眠れなくなりますよ」

「身体が大きいもんなあ」

「そうねえ」


 納得はしてくれたようだった。おっちゃんちにニワトリたちを貸したことはあるけど、運動不足で眠れなくなって夜に騒いだっつってたもんな。広い畑を三軒分ぐらい駆け回ったってそうだったのだ。卵の為とはいえ複数飼ったらとても手に負えないに違いない。


「じゃあ佐野君、たまには泊まりに来てね。ニワトリたちも一緒に」

「佐野君、よろしくな」

「わかりました。おいしいごはん、期待してます」


 現金だなぁと思いながら俺は笑った。相川さんは幸せそうな顔で、更に確保した親子炒めを食べていた。


「ここの鶏肉で作る親子丼、最高でしょうねぇ」


 相川さんが呟く。冷凍肉ではやったことがあるけど、絞めてそんなに時間がたたないうちの肉ってのは扱ってない。


「佐野君、今夜も泊っていきなさい!」

「佐野君、是非!」


 だからなんて現金なんだ。


「帰りますよ~。近々陸奥さんたち来るんでしょう? その時にニワトリたちがよければ派遣しますから」

「もーわかってて言ってるわね~」

「それも大事だけどそれだけじゃないんだよ~」


 朝からわいわいと楽しく過ごした。今日もいい天気だ。

 土間などの掃除を手伝い、おじさんとおばさんが養鶏場に行っている間まったりした。


「相変わらず松山さんたちって面白いですね」

「ですね~」


 商売人というかんじで、でも素朴で。いつまでも続いてほしいから次はいつ来るかなと考えた。餌も蒸し鶏も沢山買ってあるからしばらくは持つだろう。

 そういえばニワトリたちに何時に帰ってくるようにとか言うの忘れた。畑程度ならすぐに飽きて戻ってくるのかもしれないが相手は山だしな。


「ニワトリたち、いつ帰ってくるかな……」

「山ですもんね」

「山なんですよね」


 また他の動物とか狩ってこなきゃいいけど。ちょっとばかり心配になった。



 夕方になる前に戻ってきた三羽は、何故かボロボロだった。


「……いったいどうしたんだ?」


 何かに突っ込んだ、というかんじでもない。言ってしまえば別の動物と格闘してきたのかと聞きたくなるような出で立ちだった。

 三羽とも何故か不機嫌そうだし。


「ちょっと怪我してないかどうか見せてくれな?」


 相川さんも一緒に三羽の羽を少し持ち上げて確認したりしたが特に怪我はしていなかった。俺はほっとした。ただ、羽や尾に黄色い毛のようなものがついていたり、灰色の毛のようなものも見えた。


「なんでしょうね?」

「なにかの生き物に遭って一緒に転がった、とかですかね?」


 松山さんにも一緒に確認してもらったが、イノシシでもシカでもなさそうだった。かといってクマでもなさそうである。黄色、というとキツネだろうか。でもキツネにしては色合いがもっと明るいような気もする。灰色の毛を見て、「オオカミ?」と呟いたけどまさかなと一蹴した。


「なんだったんだ?」


 疑問は尽きなかったが、のんびりしていると日が暮れてしまう為相川さんも一緒に松山さん宅を辞した。


「ユマ、なにかあったのか?」


 助手席でお餅のように丸くなっているユマに声をかけたが、家に着くまで口を聞いてはくれなかった。

 不思議なこともあるもんだと思った。


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松山さんちの東側の山は?(謎

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