330.ニワトリたち、出張再び

 相川さんちの裏山は、相川さんちの山の西側から車で入れるようになっている。舗装された道ではなく、砂利の道である。


「舗装はあえてしていません」


 と相川さんは言っていた。勝手に入ってこられても困るからだろう。走った先は山だしな。西側からぐるりと上がったところで相川さんたちが待っていた。


「おはようございますー」

「おはよう、悪いなぁ来てもらっちゃって」

「おはよう~。ありがとうね~」

「おはよう……すまんなこのバカが」

「おはよー! またバカって言ったー!」

「おはようございます、佐野さん。わざわざ連れて来ていただいてすみません」


 俺が挨拶するとみんなにこやかに挨拶してくれた。陸奥さん、戸山さん、畑野さん、川中さん、相川さんの順である。ニワトリたちを軽トラから下ろした。


「おお~、ポチ、タマちゃん、今日もよろしくな~」


 陸奥さんがすごく嬉しそうだ。二羽はココッ! と返事をした。もうなんでもありだよなと思う。


「ええと、今日はポチとタマを預けて行けばいいですか? 帰りとかは……」

「帰りは僕が送りますよ。本当に頼ってばかりですみません」

「ええ? いつも頼ってるのは俺の方じゃないですか」


 相川さんの中での俺の株が上がりまくってて怖い。


「何も獲れなかったら獲れないで納得するので、何日かはお願いすることになると思います。ですから送るぐらいはさせてほしいんです」

「じゃあお言葉に甘えますけど……ポチ、タマ、帰りは相川さんが送ってくれるってさ。それでいいか?」


 コッ! とすぐに返事があった。それでいいらしい。


「暗くなる前にはお送りできると思います。事前にLINEは入れるようにしますね」

「すみません。よろしくお願いします」


 頭を下げ、ユマを再び軽トラに乗せた。


「ユマちゃんは佐野君が大好きだなあ」


 陸奥さんが楽しそうに言う。


「そうだよね~」


 戸山さんもにこにこしていた。


「ええ、ユマは俺が寂しがるから一緒にいてくれるんですよ~」

「ノロケたぞ」

「ノロケたね」

「…………」

「僕もなんか飼おうかなぁ……」

「いいですね~」


 せっかく出てきたので雑貨屋に寄り、不足したものを買ってから山に帰った。今日は卵を買った。

 今朝は珍しくタマとユマが卵を産まなかったのだ。そういう日もたまにはあると知ってはいるががっかりしてしまうのはしかたないことだろう。普通の卵も好きだから二羽の卵以外にも買ってはいるのだ。ぶっちゃけ卵かけごはんで十分だし。

 今朝は朝ごはんを食べただけで慌ただしく出かけたから、家の周りの見回りは全然できていなかった。そう考えると雑貨屋はよくやっていたなと思う。でも確かあそこの時間って9時ー5時じゃなかったっけ。暗くなったらお休みである。それぐらいの方が長く続くのだろう。

 畑を眺める。まだ収穫できる状態にはなっていなかった。


「今日はどーすっかなー……墓参りついでに山の上に行けるかどうか見てくるか」


 先日の雪の量はそれほどでもなかったし、あれから降る気配もない。なんというか不義理をしているのも申し訳なくて見に行った方がいいと思ったのだ。

 墓までは普通に軽トラで行けたし、掃除をして線香を供えて手も合わせた。まだ春は遠いけれど、春になったらあなた方の子孫が来ますとお知らせしておく。

 その後が本命だ。


「ユマ~、上に上れそうなところってあるか?」


 供える為の水は持参している。掃除をする為の雑巾なども持った。だけど何故か上に上れそうな場所は見つからなかった。


「? なんでだ?」


 以前はそんなことはなかったはずなのに、木が鬱蒼としている。冬なのに緑が沢山ということは常緑樹が生えているということだ。この間もこうだっただろうか。何故か記憶が曖昧だった。

 ユマはあっちこっちと回ってくれたが、


「ダメー」


 と言った。ニワトリでも上がれないってどうなってるんだ? 木々の向こうを見ても特に倒木などは見当たらない。なのに上がれない。


「……上がっちゃいけないってことか?」


 ようやくそのことに思い至った。


「ユマ……ダメなのか?」

「ダメー」

「そっか」


 理由はわからないけどだめらしい。危ないからなのかなと勝手に思った。少し離れてみる。


「いつも見守っていただき、ありがとうございます。また春になったらご挨拶に参ります」


 そう言って両手を胸の前で合わせ、心の中で精いっぱい感謝した。

 家に戻ってから、やっぱり早めに神棚を買わなければいけないだろうなと思った。秋までは山の上に参拝できるだろうが、冬になるとまず行くことができない。それでも神様は気にしないかもしれないが、なんか悪いような気がするのだ。

 そういうことを気にしないようにと教えてくれたのだろうか。

 ユマと一緒に昼ご飯を食べる。

 ユマにはシシ肉の切れ端も乗っけてみた。とても嬉しそうな姿を見ると癒される。ポチとタマにお弁当を持たせてやればよかったかと今頃思った。相川さんが準備すると言っていたから甘えてしまったのだ。つか俺、甘えすぎ。

 いろいろよくわからないことが多いけど、守られてるなとなんとなく思った。

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