325.フラグはそんなに早く回収しなくてもいいと思う

 噂をすればなんとやらというヤツだったのか。それともニワトリたちが追い込んだ先がこちらだったのか。

 何故か家のすぐ近くで尾を振り回しているニワトリとブオー! と断末魔の叫びを上げたイノシシが。

 ……ニワトリの狩りの様子とか見たくなかったよ、ママン(誰)


 クァーーーッッ!!


 勝利の雄叫びなんだろうか。倒れたイノシシの頭にも尾をバシン! と当ててトドメを刺し、ポチがどうだ! と言わんばかりに鳴いた。


「おおー、やっぱポチさんカッコイイですね~」


 相川さんは平然として、にこにこしていた。みなでギギギと首を動かして相川さんを見た。

 あれはいったい……。


「ああ、そういえばニワトリさんたちの狩りの様子って佐野さんも見ていませんでしたね。イノシシをこちらまで追い込んで狩るなんてさすがですよね。秋本さんに連絡してもいいですか」

「あ、ああ、かまわないよ? なぁ、お前……」

「いいんじゃ、ないかしらね……?」


 松山のおじさんとおばさんが顔を見合わせて返事をした。どうしたらいいのかわからないようである。相川さんはスマホを出すとすぐに秋本さんに電話をした。

 東の山の養鶏場でニワトリたちがイノシシを狩ったということを相川さんが伝えたら、秋本さんの笑い声がこちらにも届いた。


「今倒したところなので何もしていません。雪を被せておけばいいですか?」


 相川さんの言葉にはっとした。獲った獲物はすぐに冷やした方がいいはずだ。俺と松山さんは急いでそこらへんの雪を取りに行き、キレイに見える雪をバケツいっぱいに入れてイノシシに被せていった。本当は倒れた反対側にも敷いた方がいいのだろうがでかすぎて動かせそうもなかった。

 ニワトリたちが何をする!? とばかりにクァッ、クァーッ! と鳴く。


「冷やさないと食べられなくなるんだよ! 内臓食べたくないのかよっ!」


 と周りを跳びまわっているポチとタマに怒ったらおとなしくなった。正確には食べられなくはならないが生臭くなったりしてまずくなるのだ。なにせ血抜きもしてないからな。

 ユマと三羽して少し離れたところでもう何かをつつきはじめた。おばさんがはっとしたように野菜をニワトリたちにくれた。


「ありがとうございます」

「いやあ、たまげたねぇ……」


 白菜の葉をニワトリに渡しながらおばさんが呆然としたように呟いた。本当に魂消た、という様子だった。

 雪はそこかしこに残っていたからイノシシはすぐに雪に埋められた。そうしてから道路の方の雪を持ってくればよかったなと思った。


「相川さん、ついでに、いいですか?」

「ええ、道の方もしてしまいましょう」


 松山のおじさんとおばさんに恐縮されながら、道の雪ももう少し丁寧にどけた。ニワトリたちは近くにきて、しきりに首をコキャッと傾げていた。


「箒じゃもう払えないぐらい固くなってるからその辺にいてくれ」


 手伝いたそうな様子だったからそう言って家の側にいてもらった。そうしているうちに秋本さんの軽トラが入ってきた。運転は相変わらず結城さんがしている。軽トラが停まった。


「佐野君、ニワトリやるねぇ! って君のところのニワトリでいいんだよな?」

「ええ、養鶏場の鶏では倒せないと思います」

「だよねぇ、思わず笑っちゃったよ~。養鶏場の鶏が参戦してたら、こちらが捌く前にヤられそうだもんなぁ。解体費用とかの話はどうすればいいかな」


 秋本さんがかなりやヴぁいことを言う。


「あ、じゃあ僕が行きますよ。佐野さんに負担させるわけにはいきませんから」

「ええ? うちのニワトリが狩ったんですよ?」


 どこまで相川さんは俺に対して過保護なんだろう。


「佐野君はここで雪かきしててくれ。相川君と話するから」

「そんな~」

「よいようにしますからお願いします」


 にっこりと笑んで言われてしまっては聞かざるをえない。なんでだよ、って思いながらそれからも黙々と雪かきをした。意外と集中してやってしまったらしく、秋本さんの軽トラが戻ってきてはっとした。


「お~けっこうキレイになったね~。またイノシシとかシカを狩ったらよろしく。詳細は相川君たちに聞いてくれ。またねー」


 秋本さんは上機嫌でイノシシを持って帰って行った。

 雪かきが一段落したところで戻ったら、相川さんと松山のおじさんとおばさんがまだ何か話しているところだった。


「一応雪かき終りましたよ~」

「あらあ、いろいろしてもらっちゃってありがとうね~」

「佐野君、すまんなぁ」

「それより、イノシシってどうなったんですか?」

「そのことなんだけどね、明日の夜こちらに持ってきてもらおうと思っているのよ。でもけっこう大きなイノシシだったから残りは持って帰ってもらうことになっちゃうんだけど……」


 おばさんはとても嬉しそうだ。


「ああ、そうなんですね。でも、解体費用とかは……」


 きょとんとした顔をされた。俺別におかしなことは言ってないと思うんだが。


「うちの山で獲れたイノシシだろう? もちろんうちが払うし、ニワトリたちには内臓だっけ? 思う存分食べてもらわないといけないな」


 狩ったのはうちのニワトリだけど、畑を荒らしているだろうイノシシが退治されたことでとても喜んでいるようだった。とはいえ畑を荒らしているのは一頭だけとも限らないんだけどな。


「あら? それともイノシシ全部ほしかった?」


 おばさんが口に手を当てた。


「いえいえ、そんなことは全く思ってません! ただ、うちのニワトリたちが勝手に狩ってしまったので……」


 ダジャレではない。断じてダジャレではないぞ。


「あらぁ、そんなこと気にすることないわよ。むしろ狩ってくれてありがたいわ。本当に、佐野君ちのニワトリはすごいわねぇ」


 酒が入ると泊まりになるのだがそこまで人を泊めるスペースがないということで、俺と相川さんは泊めてくれるがそれ以外の人は自己責任だと言われた。一応何人誘ってもいいらしい。

 酒が入ろうが入るまいが俺たちは暗くなったら帰れないので泊まるしかない。相川さんと顔を見合わせて考えることにした。その日はそこで辞し、ニワトリたちには明日が宴会だと伝えた。みなウキウキして身体が揺れ始めたのが面白かった。

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