324.養鶏場でおもてなしされました
結局あれはなんだったんだろう。
松山さん宅に着いてから改めて和菓子屋の娘さんの反応について相川さんに聞いてみたが、「さあ? どうしたんでしょうね?」とはぐらかされてしまった。重要なことではなさそうなので忘れることにした。
松山さんの山に続く道はもうかなり雪が溶けていた。山に入ると雪はそこかしこに残ってはいたが進めないというほどでもない。ただちょっと雑なかんじはした。
「……雪かき、してった方がいいですかね……」
「そうですね。気になったところだけでもしていきましょうか」
そうは言ってもあれから何日も経っているのでホウキでは掃けないだろう。安請け合いはできないのでとりあえず松山さんに聞いてみることにした。
「こんにちは~」
家の方に声をかけると、
「いらっしゃ~い」
というおばさんの声がした。
「佐野と相川です。ニワトリは好きにさせてもいいですかー?」
「養鶏場の方にだけ行かせなければいいわよー」
「ありがとうございますー」
おばさんは手が離せなさそうだったので、ニワトリのことだけ聞いてみた。ニワトリたちに養鶏場の方には行かないように言い、帰る時間もあるから明るいうちに戻ってくるように伝えた。腕時計を渡してもよかったが、その時間、と言ったらその時間まで本当に遊んでいる可能性もあったからやめた。ニワトリたちはみんなツッタカターと遊びに行った。
「みなさんいらっしゃるなんて珍しいですね」
「ですよね。雪とか降らなきゃいいんですけど」
「佐野さん、それフラグですよ」
あちゃー、と思った。これで本当に降ったら恨まれそうである。くれぐれもリンさんにはないしょにと言ったら笑われた。くそう。
おじさんは養鶏場の方で作業していたようだった。養鶏場から出てきて、
「お! 佐野君、相川君来たか!」
嬉しそうな顔をした。
「ご無沙汰してます」
年末にお邪魔したっきりである。すでに1月も終わりだ。
「ご無沙汰ってほどご無沙汰でもないがなぁ。来てくれて嬉しいよ。なかなか人とも会わないからねえ」
と大歓迎された。
蒸し鶏とニワトリの餌の代金を聞いて先に払う。受け取りは帰りにすることにした。
「うちのが張り切って料理しているから食べていってくれよ」
「はい、いただきます」
家にお邪魔して手土産の和菓子を渡したらとても喜ばれた。和菓子を売ってる店なんてなかったもんな。
「わざわざ町まで行ってきたのかい?」
まだ和菓子屋の情報はきていないようだった。
「村の西の外れに和菓子屋ができたんですよ」
「へ~。でも西の外れっていったらけっこう遠いんじゃないか?」
「うちがほぼ西の外れなのでそれほどでもないですよ」
相川さんがそう言って、みんなで笑った。
「あら、和菓子なんていただいたの? も~気を使うことなかったのに~」
おばさんが嬉しそうに仏壇へ供えに行った。いただきものはまず仏壇に捧げるっていいよなと思う。そういえばまだ神棚を用意してなかったことを思い出した。春になったらホームセンターで買ってこよう。
お茶と漬物が出された。
「もうちょっとだけ待っててね~」
「おかまいなく」
蒸し鶏はやはりサラダチキンを見たことで思いついたらしい。サムゲタンが作れるのだからといろいろ試行錯誤したそうだ。でもまだ冬の間しか出せないと言われた。夏の間どれだけ持つのか保証ができないからだろう。
その蒸し鶏を食べやすい大きさに切って上に載せたサラダが出てきた。サラダのドレッシングは自家製のようだった。
「今日はいろいろ試してみたから食べてね~」
「はい、いただきます」
定番の唐揚げ、天ぷらの盛り合わせだけでもおなかいっぱいになるのにポトフも鍋いっぱいに出てきた。ひじきに大根の煮物、里芋の煮っころがし等もとてもおいしかった。やっぱり煮物はいいよな。
「鶏がうまい……うますぎる……」
日本人なら唐揚げだろうってぐらい唐揚げが好きだとこの家に来ると思う。やっぱり自分で育てているだけあって、どうやったらおいしくなるのかよくわかっているようだ。村のおばさんたちが作る料理には抗えない。相川さんと顔を見合わせた。
「足りなければまだ作るけど~?」
「いえ、十分すぎるぐらい足りています。大丈夫です!」
相川さんと必死で止めた。いいかげんにしないと腹が破裂しそうだ。
「そーお? どうだった~?」
「すっごくおいしかったです!」
食べ終えて、食休みがてら雑談をする。今年は雪がまだ思ったより降らないせいかイノシシが近くまでやってくるそうだ。
「畑を荒らされるのも困るんだが、養鶏場に突っ込んでこられたら困るからな」
「それは確かに困りますね。猟友会には?」
「まだちょっと悩んでいるんだよ」
頼まれないことには相川さんも動けないだろう。本当にイノシシは困るなぁと言い合っていた。そろそろ雪かきの話をした方がいいかなと思った時、表からクァーックァックァックァッ! とニワトリの激しい鳴き声がした。
「!?」
俺たちは慌ててガラス戸を開けて表へ出た。
「えええ!?」
そこでは、どんなフラグだよと言いたくなるような光景が広がっていた。
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