323.ニワトリは大人気らしい(別の意味でも)

「陸奥さんが、ニワトリが欲しいと言っています」


 1月の最後の週のある日、相川さんからわけのわからないLINEが届いた。

 うん、まぁ……なんとなく言っていることはわかるけど。久しぶりにニワトリ出張か。どうしようかなと思ったら養鶏場の松山さんから電話があった。

 例の蒸し鶏が大量に用意できたから買いにこないかという話だった。買いにくるついでに昼飯を食べて行けという。おばさんが腕によりをかけて料理を準備してくれるそうだ。

 ちなみに先日の雪で被害はそれほどなかったらしい。二日ほど続けて降ったけど量が思ったより少なかったから自分たちだけで雪かきが済んだようである。毎回そんなかんじで済むならいいんだけどな。


「相川さんに声をかけてから連絡しますね。そうだ、もらった電話ですみませんがニワトリの餌も買わせていただいてもいいですか?」


 こちらの用件も伝えたら準備しておくと言ってくれた。それで一旦電話を切った。


「ニワトリの件は詳しくお願いします。松山さんちの蒸し鶏の準備ができたそうです。ごはんに誘われましたけどいつ行きますか?」


 相川さんにLINEを返したら電話がかかってきた。やっぱ電話の方が楽だよな。


「ご無沙汰してます。蒸し鶏いいですよね」

「ですね」


 松山さん宅には二日後以降の日程で伺うことにして、ニワトリをどうしようという話になった。


「なんというか……贅沢を知ってしまったらってかんじで。やっぱり僕たちだけだと効率が悪いんですよねー……」

「つってもうちのニワトリたちがそちらにお邪魔していいものなんでしょうか? リンさんは?」

「リンはかまわないそうです」

「でも土地勘ないですよね」

「それは僕も言ったんですけどね」


 どうしても、という話ではないらしい。


「いるはずなのに見つからないっていうのもありますね。もしかしたら昨年のうちにテンが根こそぎ狩ってしまった可能性はあります」

「ああ……」


 小さめのイノシシぐらいなら丸飲みしそうだしな。だとしたら親イノシシはどこへいってしまったんだろう。


「ポチさんとタマさんてすごく勘がいいんですよ。僕たちが見つけてない痕跡とかも簡単に見つけてしまうんです。情けない話ですけどね」


 図体はでかいけどよく地面はつついてるからな。それで周りは見えやすいんだろうと思う。


「そうですね……あとは聞いてみないことには」


 今はまだ山の中を駆け回っているので帰ってきてからになるだろう。


「松山さん宅に行く際に聞いてもいいですか」

「ええ、どうするか決めるのはニワトリたちですから」


 自主性に任すというのは聞こえはいいがただの放任である。でもせっかくの機会だからいろいろな山に行ってもいいのではないかと思った。松山さんに二日後以降の日程ならいつでも、と伝えたらじゃあ三日後にという話になった。

 松山さんちに行くと伝えてどうするかニワトリたちに聞いたら、今回は珍しく三羽とも付いてくることになった。雪でも降らなきゃいいけどと思った。


「手土産どうします?」

「また和菓子を買っていきますか」


 というわけで村の端から端へ移動することになった。店がやってなかったらどうしようかなと思っていたけど開いていた。今回も真っ先に出てきたのは若い娘さんだった。


「こんにちは~」

「いらっしゃいませ~。あ、この間のお兄さんたち! 先日はいっぱい買っていただいてありがとうございました!」

「いえ。売ってくれてありがとうございます」


 覚えていてくれたようだった。相川さんイケメンだしな。え? 俺は平凡だから覚えてもらえることなんてあまりないよ。自分で言ってて切なくなってきた。


「今日は何をどれだけお包みしましょうか?」

「どうします?」

「そうですね。いろんな種類を五つずつというのはどうでしょう」

「そうしますか」


 仏壇へのお供えと松山のおじさんとおばさんが二つずつ食べられるといいかなと思った。


「じゃあ、まんじゅうと、大福と、お団子を買っていきますか」

「わからないからみたらしとあん団子を両方買いますか」

「その方がいいですね」

「ありがとうございます! 今お包みしますね~」


 包んでもらって受け取る。それを相川さんに手渡したら、


「あ、ああああのっ!」


 娘さんがなにかに動揺したような声を上げた。顔が赤い。もしかして具合でも悪いのだろうかと少し心配になった。


「はい?」

「お二人は、その……いつも一緒に行動されてるんですかっ!?」

「? いえ? 今日はたまたまだけど?」

「そ、そうなんですか……」


 娘さんががっくりと肩を落とした。すると何故か奥からおばさんが出てきた。


「これっ! またこの子はっ! あ、これよかったらお友達と食べてね!」


 おばさんは何故か娘さんにげんこつを落とすと、俺たちにまんじゅうを一個ずつオマケだと言って渡してくれた。


「? ありがとうございます?」

「どうぞこれからもご贔屓に~」


 なんだったんだろうと首を傾げた。相川さんは何かに気づいたようで、苦笑していた。一度軽トラから下ろしていたニワトリたちを回収して、松山さんの山に向かった。

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