322.まったりと過ごしてみる
……寒い。ものすごく寒い。ハロゲンヒーターまで手を伸ばそうとしたのだが、布団から寒くて手も出せない。ああでもニワトリたちの飯が……。
ガタガタ震えながらどうにかハロゲンヒーターをつけた。
布団の中から出たくない。某ペンギンの赤ちゃんではないが、そんな気分である。
布団から出るってどうやるんだっけ?
真面目に考えてしまった。
ハロゲンヒーターのおかげで布団の前面が温かくなってきたので勢いをつけて起きた。……寒い。
今度から作業着も布団の中に入れて寝ようかと思うぐらいである。
ニワトリたちのいる土間兼台所兼居間は春のように温かった。いいんだ。ニワトリ大事だし。でもそろそろ俺もここに布団敷いて寝ようかなと思った。さすがにあの部屋は寒すぎる。
「おはよう、ポチ、タマ、ユマ」
「オハヨー」
「オハヨー」
「オハヨー」
挨拶を返してくれる存在がいるというのはいいことだ。思わず笑顔になる。ニワトリたちの餌は倉庫から何日か分取ってきてあるので今朝は倉庫に向かう必要はない。雪が降っている間に運んできておいてよかった。やっぱ止むと途端に寒くなるんだよな。倉庫の中はちょうどいい冷凍庫状態だろう。夏もひんやりしているからいろいろ保管するのにいい場所だ。
タマとユマの卵を回収して感謝をする。例え卵を産まなくなったとしても大事にするからなと思う。
それにしても、有精卵は産まないのだろうか。ポチは異性として見られていないということなのだろうか。それとも時期とか関係するのかな。この寒い時期にひよこが生まれても困るので考えるのは止めた。
朝飯を食べ終えて、さあどうしようか。
ポチとタマは表へ出かけるようである。
「外すっごく寒いけど大丈夫か? すぐ帰ってきてもいいからな?」
「デルー」
「デルー」
「イルー」
はいはい。ポチとタマは予定通り遊びに行くようだ。ガラス戸を開けたら二羽共普通に出ていった。大丈夫かな、と思ったら戻ってきた。
「ポチ、タマ?」
「シメルー」
「シメルー」
「あ、行くのやめたのか」
さすがに今日はニワトリにとっても寒かったらしい。今日はどうやら、一日家でのんびり過ごすことに決めたようだった。TVをつけたら、「本日は今年一番の寒さです」と言っていた。さもありなん。
「今日はのんびりするか」
こたつに入ると眠くなる。昨日雪かきもしたことだしと、今日は完全に休暇日にすることを決めた。
まったりと思い思いに過ごし、昼飯を用意して食べ終えたらまた出かけるという。
「大丈夫か?」
ガラス戸を開けてやったら表へ出て、そのままポチとタマは駆けて行ったので気温が少し上がったようだった。
「ユマは出かけなくていいのか?」
ユマにツーンとされた。なんでだ。
スマホを確認したら桂木さんからLINEが入っていた。そういえばN町の方はどうなっているのだろう。
「雪降りました。そちらはどうですか? リエが雪道を走るのは嫌だと泣き言を言っています」
気持ちはわかる。まだ教習の段階で雪道はとても怖いだろう。ましてこの辺りは雪が多い。どうせ免許を取るならやっぱり地元の自動車学校に通えばよかったのではなかったかと思ったが、地元にはストーカー元カレがいるわけで難しい。追いかけてこないことを祈るばかりだ。
「こっちも雪は降ったよ。10cmぐらい積もってる。妹さんについては長い目で見てやりな~」
そう返してあくびをした。寒い時期っていつもより寝なきゃいけないんだったか。
「ユマ、ちょっと昼寝するから、ポチたちが帰ってきたらよろしくなー」
「ワカッター」
「頼んだ」
やっぱりニワトリが一羽は側にいてくれると助かるなと思った。そこをうちのニワトリたちも見越しているんだろうか。俺がどれだけ頼りない飼主なのかわかろうというものである。
昼寝をけっこうしたのだが、夜眠れないということはなかった。やはりそれなりに疲れていたらしい。ポチとタマは近くを散策していたようだった。それで気分転換ができたならよかったと思う。
その週はまったり家事などをして過ごした。翌日はそれほど寒くはならなかったので、ポチとタマが揚々と出かけて行った。運動不足が敵であるようだった。相川さんからLINEが来た。火曜日から相川さんの山の裏山を陸奥さんたちと回ることにしたらしい。
「宴会の際は声をかけますので是非きてくださいね」
「ありがとうございます」
と返した。桂木さんもヒマなのか一日一通はLINEをよこした。俺はそれに適当な返事をするぐらいである。これからまだまだ雪が降るから、いつ山に戻れるかわからないというぼやきがあった。
「町にいる方が安全だよ、たぶん」
と返した。少なくとも雪の重みとかで木が倒れて孤立するなんてことはないだろう。
せっかくなので昼間は薪を作ることにした。切りやすい太さの枝打ちをして、使いやすそうな長さに切る。まだ薪というほどではないが千里の道も一歩からと考えることにした。枝打ちをして隙間を作ることが山を生かすことに繋がる。ユマに近くにいてもらいながら少しずつ枝を増やしていくことにした。
まだ雪の残る場所を眺めながら、山は平和だなとしみじみ思った。
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