326.ニワトリたちの圧がすごい

「陸奥さんたちに声をかけてもいいですか?」

「いいんじゃないですか? 陸奥さんち、ここから近いですよね」

「ええ」


 なんだったら俺は飲まないで陸奥さんたちを送って行ってもいいと思った。いつもお世話になってるし。


「今日は休みにしたので、ありがたいです」

「ああ……裏山ですもんね」

「ちょっと勝手に入ってもらうわけにはいかないんですよねぇ。西側から山を回るようにして車で入れはするんですけど、僕がいないとさすがに……」

「そういえば裏山ではなにか見つけました?」

「イノシシの巣の跡っぽいのはあったんですけど壊されてたんですよね……」


 思わず顔を見合わせた。やはりリンさんやテンさんが食べられるだけ食べてしまったのだろうか。


「害獣がいないのはいいことなんですがいやはや……」


 相川さんは頭を掻いた。今日はもうアレなのでニワトリたちには後日頼むかもしれないと相川さんは言い、今日のところは帰宅した。

 ……尾を洗うのがたいへんだった。んなに興奮スンナ。

 翌朝相川さんからLINEが入った。

 陸奥さんと戸山さんが参加するらしい。二人がお酒を飲むようなら俺が送ると言ったが、今日に関しては陸奥さんの息子さんが迎えにくるらしい。大丈夫なんだろうかとちょっと心配になったけど近所といえば近所だから改めての顔合わせも兼ねているのではないかという話だった。行きは相川さんが迎えに行くという話でまとまった。

 出かけるまでは家事をして過ごした。洗濯とか掃除とかは気が付いた時にやらないと溜まっていくものだ。ニワトリたちには太陽があの位置まで来たら帰ってくること! と指さし確認して送り出した。ユマは例のごとく残ってくれたが、なんであんなに元気なんだろうなと遠い目をしてしまった。


「……あれ? 相川さんが迎えに行くって言っても、助手席ってどうしたんだっけ?」


 確か相川さんちの軽トラも助手席の部分は座席を外しているのではなかったか。それに助手席を付けていたとしても二人は乗れないのではないかと思った。


「一応声を掛けた方がいいのかな?」


 でもうちもニワトリが三羽乗るわけで。養鶏場にニワトリたちを置いてからなら迎えにも行けるけど向かうついでに、というのは無理だと気づいて困った。

 まぁ、何かあれば声を掛けてくれるだろうととりあえず考えることを放棄した。ヘタレとでもなんとでも言うがいい。無理なものは無理だ。

 泊まりの準備をして昼飯を食べ、どーせ落ち着かないからと家の周りをユマと歩いて確認した。川の方まで行ったが、かなり手前で戻るのを余儀なくされた。川の側はまったく雪かきしていなかったのでかなり凍っていて危なかったのだ。こういうのも考えなければいけないと思った。水、凍って出なくなったら困るし。

 ポチとユマは思ったよりも早く戻ってきた。


「イノシシー」

「ハヤクー」


 二羽でせかすなっての。羽をバサバサと動かし、足踏みしているような動きが面白い。


「まだ行っても食べられないと思うぞ。松山さんちに行っても奥まで行かれちゃ困るしな……」


 暗くなったら帰ってこいと言えばいいんだろうか。じいっと睨まれて根負けした。俺も大概弱いよな。


「ニワトリがうるさいから出ます」


 相川さんにLINEを入れ、松山さんに一応電話をしてから山を下りた。ポチとタマが嬉々として荷台に飛び乗ったのが面白いなと思った。

 今日は手土産はいらないだろうか。後日持って行けばいいだろうと思い、一路松山さんの山へと向かった。


「すいません、早く来てしまって……」

「そうでもないぞ。もう秋本君たちがシシ肉を運んできてくれたからな。うちのが今台所で奮闘してるよ」

「ありがとうございます」


 松山さんはご機嫌だった。ニワトリたちは準備ができるまで遊んでいていいらしい。もちろん養鶏場には近づかないように言っておいた。


「日が落ちる前にはここに戻ってこいよ」


 ココッ! とニワトリたちは返事をし、北の方向へ駆けて行った。

 あ、と思った。


「もう何も狩ってくるんじゃないぞー!」


 返事がない。ただのニワトリのようだ。

 一抹の不安を覚えたが走られたら連れ戻すこともできない。あとは哀れなイノシシだのシカだのに遭遇しないことを祈るばかりである。


「……たぶんイノシシはまだいそうだけどねえ」

「そうですね……」


 あの一頭だけということは考えづらい。ニワトリが向かった先を松山さんとぼうっと眺めていたら、軽トラが入ってきた。相川さんだった。


「こんにちは」


 軽トラの荷台に珍しく幌をかけているなと思ったら、幌の中から陸奥さんと戸山さんが出てきた。


「松山の! 佐野君、この間ぶりだな」

「こんにちは~」


 俺は相川さんをじっと見た。相川さんは照れたように笑った。

 まぁ、村のお巡りさんは見てみぬフリをするだろうからいいけどさ。メンバーは揃ったがまだまだ料理ができる気配はない。秋本さんは今日は参加しないようで、肉だけ運んで帰って行ったらしい。


「そういえば、またイノシシとかシカを捕まえたら連絡してくれと言っていたよ」


 松山さんがにこにこしながら俺に言う。


「なんで俺に言うんですかね……」


 みんなではははと笑った。

 全く、うちのニワトリたちは……。

 えらいと言えばえらいんだけど、アイツらは欲望のままだからな。

 油断しないでおこうと思った。


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270万PVありがとうございます!! ニワトリたちががんばりすぎててやヴぁいです!(ぉぃ

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