318.降らなきゃ降らないで困るんだろうけど

 嫌な予感はしていたんだ。たまたま昨夜は天気予報を見なかった。

 寒い、というのか、朝起きた時暗くて、なんとも空気感が不思議ではあった。冬は元々静かなのだけど、本当に音がしなくて……。


「……マジか」


 玄関の、すりガラスの戸の向こうがやけに白い。やだなぁと思いながら開けたら世界は果たして白くなりつつあった。


「雪……雪、かぁ……」


 困ったなと思う。とりあえず寒いので閉め、TVをつけた。時間的に天気予報に間に合ったようだ。


「えええええ」


 ニュースで言ってる天気予報は平地のものだが、それでも明日いっぱいまで降り続くようだった。昼ぐらいに一度雪下ろしをして、雪かきをしながら出かけるようだろうか。何もない日なら夕方雪下ろしをすればいいんだが。


「困ったなぁ……」


 せっかくの宴会なのに。


「酒飲まないで明日は朝一で帰ってくればどうにかなるか?」


 雪は積もると厄介だ。雨に変わってくれればいいんだが、この寒さでは雨は降らないと言われているようだった。朝食を用意してから考えることにした。

 朝食を終えてスマホを確認すると相川さんからLINEが入ってきた。


「雪けっこう降りそうですが大丈夫ですか?」

「ちょっとどうするか考えているところです」


 と返して念の為出かける準備をしておく。シシ肉はあるんだよな。でも内臓とかどうなるかな。

 今日中止にした場合、明日も一日中降るみたいだから宴会は早くて明後日になるだろう。明後日になっても動けるかどうかは雪の降り方によるだろう。下手したら何日も山から出られなくなるかもしれない。


「どうしたもんかな……」


 判断が難しい。ネットで天気予報を眺めた。

 経験の少ない俺が判断することの方が危険だと思い直して、相川さんに電話した。


「もしもし、すみません。予報だと雪が明日いっぱい降り続くようなんですけど、この場合山を下りた方がいいですかね?」

「下りた方がいいと思います。うちはリンが雪を投げ飛ばしていますが佐野さんちはそうはいかないでしょう」

「一番のネックは屋根の雪下ろしなんですよね」

「そうですよね……じゃあ」


 相川さんの提案は、どこまで俺が彼におんぶにだっこなのかよくわかるものだった。


「いや、あの……上まで来てもらうのはさすがに……」

「でもそうしないとぎりぎりまで家にいられないでしょう。うちの屋根は熱で雪を溶かすからいいですけど、佐野さんちはそういう設備がありませんし」

「ニ、ニワトリたちに頼みますから、できれば麓まで来ていただけると……」

「わかりました。そうしましょう」


 ということで、どちらにせよ甘えていることに変わりはないが麓までは迎えに来てもらうことにした。


「おーい、昇平大丈夫か~?」


 その後すぐにおっちゃんから電話があった。


「うーん、大丈夫ではないですけど今日は行っても大丈夫ですか?」

「ああ、秋本もこれるっつーしよ。昇平もアレだから山はできるだけ早く下りた方がいいぞ。木とか倒れて道が通れなくなったなんつったらたいへんだからな!」


 言われてみればそういう問題もあった。台風の時に倒木があったじゃないか。


「……それもそうですね。酒は飲まないで朝一で帰るつもりではいるんですけど」

「ああ、明日は朝飯食ったら帰りゃあいい。それでなんか困ったことがあったら連絡してくればいいさ」

「おっちゃんちだって雪下ろしたいへんだろ」

「どーにかなるもんだ」


 昔ながらの知恵みたいなものがあるんだろうか。身体には気をつけてほしいと思った。

 おっちゃんちに行くことは決まったのでほっとしたけど、ニワトリの飯はどうしたものだろうか。家の中で食べさせたりしたら掃除がたいへんである。そこらへんは行ってから相談することにして、ホウキだのなんだのを用意した。行きはポチたちに先行してもらって道路の雪を払ってもらうことにした。


「ポチ、タマ、ユマ~、また雪降ったんだけどさ、後で出かける時に雪かき頼んでいいか?」

「イイヨー」

「ヤルヨー」

「イイヨー」


 なんか、タマのヤルヨーが殺るよーと言っているように聞こえて怖いなと思った。ヘタレだって? ほっとけ。昼飯をしっかり食べさせ、二時過ぎに屋根にうっすら積もった雪を落とす。思ったより降る量は多くないようだ。それでも二日間も降り続いたらたいへんなことになるだろう。あまり量が降りませんようにと山の上の方に向かって祈った。

 そうしてからポチ、タマ、ユマの尾に竹ホウキの頭をくくりつけていく。これで尾を振れば雪が掃けるという寸法だ。でも尾だから、最初のうちは後ろ向きに進んでもらうようなんだよな。つかニワトリって後ろ向きでは進めないんじゃ? 雪で滑らないといいけど、とちょっと心配した。


「よーし、じゃあ気を付けながら行くぞー!」

「オー!」

「オー!」

「オー!」


 雪が少し積もってきた。このまま降り方が変わらなければいいが、量が増えてくると厄介だ。

 酒は飲まないこと、と自分に言い聞かせ、相川さんに「これから出ます」とLINEを入れた。相川さんからは「気をつけてきてください」と返答があった。相川さんのところも大丈夫かな。あちらはリンさん頼みだし。

 そんなことを思いながらニワトリに先行してもらい、ゆっくりと軽トラを動かした。それほど道には積もっていなかったので拍子抜けするほど早く麓に着くことができた。よかったなと思った。

 相川さんがちょうど着いて、「大丈夫でしたか?」と声をかけてくれた。


「今のところはほとんど積もってなかったので。明日が心配ですよね」


 相川さんが笑う。


「それは明日心配しましょう」


 それもそうだ。ニワトリたちを軽トラに回収して、おっちゃんちに向かった。

 雪は全く止みそうもなかった。



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