300.獲物を見つけたらしい

「イノシシが確実に捕まえられるならどちらでもいいですよ。サワ山と裏山、両方見に行きましょう」


 相川さんからの返事は簡潔明瞭だった。

 そうだよな。狩りをしたくて山巡ってるんだもんな。なんかよくわかんなくなってたなと思う。彼らの目的を忘れてはいけない。


「いつもありがとうございます。よろしくお願いします」


 LINEを返してからユマと共に川を見に行った。先日雨が降ったせいか、まだ水量が多いように見えた。川って確か、浅いからって入るとすぐ足を取られたりするんだよな。流れがあるから20cmぐらいでも危ない。少し離れたところから全体を見て木など倒れているところがないかどうか確認する。流れが詰まったり、変わったりする場所がないかどうかも見ておかなければならない。そろそろ確認必要箇所チェックシート的なものを作った方がいいかもしれないな。


「ユマ、ありがとう。ちょっと炭焼き小屋を見に行ってもいいか?」

「イイヨー」


 ユマに断って炭焼き小屋を見に行った。炭焼き小屋の隣に薪が積んである。細い枝などは紐でくくっておいておいたのがよかったようだ。雨風の被害はあまり受けていないようである。


「そういえば……炭焼きやるみたいなこと相川さんが言ってたな……」


 いつなのか聞いておくのを忘れていた。以前はここでおっちゃんと炭焼きをし、お互いたいへんだと学んだ。おっちゃん自身は昔炭焼きをしたことがあったが、かなり前だったからたいへんさを忘れていたらしい。全然寝れなくてひどい目にあった。煙などで臭かったのか、ニワトリたちは全然近寄ってきてくれなかったし。眠れる眠れないうんぬんよりもそっちの方がつらかったな。っと、いけないいけない。ここでは電波が入ったり入らなかったりするので家の方へ戻り相川さんに「そういえば」と炭焼きのお伺いを立てた。


「最初一月中にする予定でしたが、二月にしようかなと思っています。その時はお声掛けしますね」

「はい、よろしくお願いします」


 まだ先の話だったようだ。聞いておいてよかった。

 そうは言っても一か月なんて飛ぶように過ぎるかもしれない。年が明けてからの三か月は特に。毎日丁寧に暮らさないとなと思った。

 その日、ポチとタマはイノシシを狩ってはこなかった。二羽をよく洗ってから聞いてみた。


「ポチ、タマ、イノシシは見つけたのか?」

「ミツケター」

「ミツケター」


 おおう。痕跡さえ辿ればってやつか。相変わらず仕事が早い。人と違ってどこへでも走っていけるというのが強みだとおもう。


「そっか。明日陸奥さんたちが来てくれるらしいんだ。そうしたら狩るのか?」

「カルー」

「タベルー」


 タマさん、直接的なのは怖いっす。それにしても、ニワトリに餌としか見られていないイノシシとはいったい……。

 まぁしょうがない。深く考えてはいけないのだ。……たぶん。


「わかった。連絡しとくなー」


 そう言って忘れないうちにと相川さんにLINEを入れたら電話がかかってきた。


「すみません、今いいですか」

「はい、大丈夫です。たびたびすみません」


 電話口に向かってついつい頭を下げてしまう。


「とりあえず明日はサワ山を回ります。そこでイノシシが獲れたらどうしますか?」

「うーん。俺としてはおっちゃんちが大丈夫なら宴会してもらうのが一番嬉しいんですけど……でもそうするとおばさんに負担がかかっちゃうのかな……」


 宴会は楽しいが今頃になっておばさんのことが気になった。


「そこは真知子さんに聞いてみましょう。まだイノシシは獲れていませんから、獲れてから改めてどうするか話しましょうか。裏山の件もありますし」

「そうですね」


 まだ捕まえてもいない段階では取らぬ狸のなんとかだ。裏山でもイノシシが獲れるといいなと思う。なにせうちのニワトリたちはよく食べるからな。さすがにイノシシだのシカだのを狩りつくすってことはないだろうが、暮らしていくうちに少なくなっていくに違いない。それを言ってしまうと、マムシの大繁殖とかアメリカザリガニの大繁殖についてもそうなんだけどな。

 アメリカザリガニだけは絶対に駆逐したい。

 話が脱線してしまった。また明日、と相川さんと確認し合って、電話を切った。

 その途端三羽が輪唱するように嘴を開いた。


「イノシシー」

「イノシシー」

「イノシシー」

「……俺はイノシシじゃないからな……」


 うちのニワトリの肉食っぷりがハンパない。思わず遠い目をしてしまう俺だった。


「あ、天気予報……」


 思い出してTVをつけ確認する。明日雪とかいったら誰も来られなくてニワトリたちにヤられそうだ。幸い明日も晴れらしい。どこまで信用できる情報なのかどうかは不明だが。

 念の為おばさんに電話してお伺いを立ててみた。


「あら、またイノシシなのね~。持ってきてくれれば鍋にするわよ」

「みなさんを呼んで、とかも大丈夫ですか?」

「騒がしいのは大歓迎よ~。宴会用に使っていい量を事前に教えてもらえたら作りやすくはなるけど」

「わかりました。捕れたら聞いてみます」

「まだ獲れてないのね~」


 笑われてしまったがいきなりよりはいいんじゃないかと思う。おそらく一週間以内には結果が出るだろう。もちろん相手は野生動物なので病気になっていて食べられないなんてこともある。それは俺が言うまでもなく、おばさんもわかっているだろう。

 明日もいい天気になりますように、と祈って寝たのだった。

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