301.マテができるのは素晴らしい

 301話ってなんだよ。


 ん? 今のはいったいなんだ?

 ああ、夢か……。

 朝はとても寒い。布団の中から出たくない。出たらえらいよな、絶対。某コウテイペンギンの赤ちゃんじゃないけどさ。

 どうにか手を伸ばしてハロゲンヒーターをつける。これで少しはましになるはずだ。寝室は昔ながらの部屋ってのが解せない。元々あった家を山ごと買い取らせてもらったから文句は言えないけれど。

 どうにかタマが来る前には起き出せた。いつも通りタマとユマの卵を土間から拾って拭く。大きめの卵がとてもありがたいと思う。

 朝ごはんを準備してニワトリたちに食べさせてから、自分の朝ごはん作りに取り掛かった。


「今日は陸奥さんたちが来るからそれまでは出かけるなよ」


 きちんと釘を刺しておかないと勝手に走って行ってしまいそうだ。


「エー」

「エー」

「エー」


 ユマよ、お前もか……。


「来てもらわないと運べないだろ?」


 陸奥さんたちを人足扱いするのはどうかと思うが、ニワトリでは運べないのだからしかたない。俺一人では到底イノシシ一頭なんて運べそうもないしな。その前の解体とかは論外だ。そういえば川中さんもできれば解体はしたくないみたいなことを言っていたなと思い出した。あの人はどちらかといえば罠師で、自分が設置した罠に獲物がかかるのが楽しいらしい。もちろんそれが害獣ならば秋本さんのような人に預けて解体してもらうと言っていた。

 罠師、なんだよなぁ。ってことはおっちゃんちの近所のイノシシ問題は川中さんに頼めばいいんじゃないか? とふと思った。


「ワカッター」

「ワカッター」

「ワカッター」


 自分たちで運べないということはわかっているようだ。それならまぁいい。でも家の中にずっといろとは思わないので、家の周りにいてもらうことにした。俺はその間に昼飯用のみそ汁を作ることにした。今日は小松菜とシイタケのみそ汁にした。シイタケかぁ、俺もそろそろ栽培してみようかななんて思っている。確か、クヌギの木を使うといいんだっけか。今度ネットで真面目に調べてみよう。

 味噌漬けのシシ肉と白菜を炒めてごはんに乗っけて食べた。シシ肉はちょっとクセがあるから飽きる、なんて人もいるけど俺は肉さえ食えればいいので全然気にならない。野菜もうまいと思うけど冬になってから肉ばっか食ってるなと思った。うまいんだからいいのだ。

 食べ終えて今日は何が必要だろうかと考えていたら軽トラが入ってきた。相川さんだった。その後からあまり間を開けずに陸奥さんたちの軽トラが続く。


「陸奥さん、戸山さん、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

「ああ、こちらこそよろしくな」

「おめでとう~。こちらもよろしくね」


 今日は相川さん、陸奥さん、戸山さんが来てくれた。ニワトリたちも陸奥さんたちに気づいて寄ってきた。


「おお、ニワトリは相変わらずでかいな。今日からまたよろしくな」

「よろしく~」


 ニワトリたちは陸奥さんと戸山さんの言にコッ! と返した。まんまニワトリ部隊だなと思った。


「で? イノシシを見つけたんだって? どの辺りだ?」


 一度うちに招いて荷物などを置いてもらう。お茶を淹れるとそう聞かれた。

 そうだよな。普通ニワトリが言うなんてことはないよな。相川さんがすかさずフォローしてくれた。


「陸奥さん、多分ニワトリたちが知っていると思います。一緒に出かければ連れて行ってくれるのではないでしょうか」

「そうか。この山だっけか。ポチ、タマちゃん頼んだぞ」


 陸奥さんの声かけにまたポチとタマはコッ! と返事した。こっちの言葉が通じるってだけでおかしいのにしゃべるとか、うちのニワトリたちはいったいなんなんだろう。(今更か)

 ま、かわいいからいっか。

 時には思考放棄することも必要だと思う。

 陸奥さんたちは準備を整えると、ニワトリたちと共に出かけて行った。一応昼には今まで通り戻ってくるらしいので、みそ汁はありますよと言っておいた。


「いやあ、みそ汁は嬉しいよねぇ」


 戸山さんが嬉しそうに言ってくれた。まぁあとはせいぜい漬物と煎餅ぐらいしか出ないんだけどな。みんなが出かけてから洗濯物と布団を干した。

 そういえば、イノシシを見つけたとは聞いたけど、この山のどこで見つけたんだろうな?


「ユマー、イノシシはどこで見つけたか聞いたかー?」

「ココー」

「うん、この山だってのは聞いたけどさ。上か、下か、とか」


 指をさして示しながら聞いてみた。ユマは首を上げた。


「ウエー?」

「上か……」


 それはちょっと厳しいなと思った。銃と杖みたいなものは陸奥さんたちは持って行ったが、イノシシの大きさによっては大きい枝のようなものが必要になるだろう。


「ま、そこらへんは臨機応変にだよなー……」


 俺が心配しなくてもうまくやるんだろうし。

 ちょうどいい枝とか意外と見つかるものだ。山の中だし。

 食料品の在庫などをチェックする。賞味期限切れのものがあったら早めに食べないといけないしな。え? 切れたら食べられないんじゃないかって? そこらへんはものによる。消費期限だったら過ぎたら食べちゃいけないけど。

 そんなことをやっていたらあっという間に時間が過ぎた。

 今日も戻りが遅い。

 ってことはー……?


「イノシシ」


 相川さんからLINEが入った。よかったと思った。

 後は解体してからの状態だ。まずは捕まえられたことを祝わなくては。

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