284.おいしいんだけど多すぎる

 里芋の煮っころがしも、おでんもうまい。シカ肉の唐揚げがすごいスピードで消えていく。自分の皿に確保しておかないと切ないことになりそうだった。みんな各自自分たちの分を確保しつつ大皿から取って行く。子どもじゃないんだからと笑ってしまった。


「佐野さん、何がおかしいんですか?」

「いや……みんな自分の皿に取ってあるのに大皿から取ったのを食べていくので……」

「……確かに。子どもと一緒ですね」


 相川さんがふふっと笑った。そういう相川さんもシュババッと自分の分をしっかり確保している。とても子どもには見せられない光景だった。

 それでいて陸奥さんやおっちゃんはしっかり酒を飲んでいるんだからそのスピードたるや、というかんじである。

 もう辺りはすっかり暗くなった。冬は日が落ちるのが早くて困る。おかげで寒い時間も長いし。


「遅くなりまして」

「あ、畑野さん! 遅いよ~、こっちこっち!」


 縁側からぬっと畑野さんが現れてびくっとした。一応縁側の窓は一か所だけ開けてある。寒いけどニワトリの様子を見る為だ。足りなさそうなら野菜を少し追加してあげないといけない。文句も言わず開けさせておいてくれるおばさんに感謝である。

 川中さんが自分の隣を叩いて畑野さんを呼ぶ。なんだかんだいって仲いいんだよな。その間もおばさんがいろんな料理を運んでくる。天ぷらも刺身も出てきたし、最後は鹿肉のカレーが出てきた。いや、少しずつだってこんなには食べられないです。


「たくさん食べてね!」

「はーい……」


 お子さんたちも帰省しないから張り切って作ってくれたみたいだった。ごちそうのオンパレードですごいなーと感心する。料理の量がすごくてみなそれほど飲めなかったようだ。

 でも川中さんにはまた絡まれた。


「佐野く~ん、桂木さんはあ~」

「町ですよ。冬の間はあちらにいるみたいです」


 前にも言ったと思うのだが、この間来ていたから今回もくるものだと思ったのだろうか。さすがに雪が降ったからこちらにはこられないようだ。あとは雪解けまで戻ってこないだろう。山間の道は危ないしな。


「そんな~」

「家が山の上なんだからしょうがないだろう」


 畑野さんが呟いた。


「えー、だったら下りてくればいいじゃん。うちとか、来てくれればちゃんと面倒看るし……いてぇっ!」


 はははと乾いた笑いをしながら聞いていたが、案の定川中さんは畑野さんにチョップされた。


「ぼーりょくはんたーい!」

「セクハラは重罪だぞ」

「えー? セクハラじゃないよ。コンカツだよ、コンカツ! 出会いがほしい~~~!」

「ここで出会いを求めるなっ!」


 うん、桂木姉妹はだめだ。俺が兄みたいなもんだしな。ここに住んでいる間はやっぱ俺が見張っている必要があるらしい。うんうんと頷いた。


「桂木さんたちに声をかけたいなら、佐野さんの許可を取らないとだめですよ~」


 相川さんが苦笑して言ってくれた。川中さんが驚いたような表情をする。なんだよ、それは。失礼だな。


「ええっ……もしかして姉妹共々……」


 エロビデオじゃないんだからそんな想像は勘弁してほしい。


「いいかげんにしろっ!」


 畑野さんが我慢ならんというように川中さんを蹴る。


「いてえっ! いつもいつも殴ったり蹴ったりしやがってっ! もう今日という今日は勘弁なんねえっ! 畑野っ、表へ出ろ!」

「望むところだ!」

「おー、いいぞー、やれやれー!」

「やっちまえー!」


 おっちゃんと陸奥さんが赤い顔をして二人を煽る。

 えええ、こういうのいいのか。大丈夫なのか? と内心おろおろしてしまう。俺はこういうの全然慣れてないし……。ヘタレと言われればそれまでだけど。

 おばさんは呆れた顔をしている。止めなくてもいいようだった。

 二人は腕まくりをすると窓を開けた。途端に冷たい空気がザア……と更に入り込んでくる。さーむーいーぞー。

 そして二人は庭に目を向けて、固まった。


「?」


 なんだろう、と思って二人の視線の方向を見たらニワトリたちが頭を上げていた。その嘴は赤黒くなっており、目はこちらからの明かりを反射して炯々と光っているように見えた。

 あいつらでかいからこう暗くなった時に見るとホラーっぽいなと思っていたら、


「……すまん、ふざけすぎた」

「……わかったならいいんだ」


 川中さんと畑野さんは冷静になったらしくおとなしく席に戻った。なんというか、すごすごという効果音が似合うかんじだった。


「なんだなんだやらねえのか?」

「情けねえな!」


 おっちゃんと陸奥さんが煽るが、二人はひきつったような笑みを浮かべた。おっちゃんと陸奥さんは奥の方にいるので庭の様子が見えなかったようだった。


「おーい、まだちゃんとあるかー?」


 せっかくなのでニワトリたちに声をかけると、ユマがトットットッと近寄ってきた。どうやら足りないらしい。羽を撫でた。


「じゃあ野菜持ってくるから、待ってろよー」


 そう声をかけて先ほどと同じように窓を閉める。


「……佐野君は大物だな……だからあの姉妹も……」

「いいかげんやめておけ……」


 川中さんの想像はピンクなものから離れられないのだろうか。俺は内心ため息をつきながら台所へ野菜を取りにいったのだった。



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