274.実はクリスマスだったとか今日になって思い出した
桂木さんからのLINEには、N町でも雪が降ったということと、そのおかげで妹が教習を怖がってたいへんだと言っていた。確かに怖いだろうなと思う。この辺りだとタイヤにチェーンを巻く練習みたいなのもしてくれるんだろうか。
「雪の中で積極的に乗る必要はないだろうけど、せっかく先生が隣にいるわけだから雪道での運転のしかたを教えてもらえると思えばいいんじゃないかな」
そう返事をしたら、「そうですよね」と返ってきた。またなんかえらそうなこと書いちゃったかな。でも俺は教習で雪道の運転のしかたを教えてもらう機会はなかったから、ある意味羨ましいと思う。そういう運転しづらいところを教えてもらえるといいよな。教習がうまくいかなくて、結果的にお金は余分にかかってしまうかもしれないけど。
布団を取り込み、まだ冷たいかな~と思いながらも洗濯物を取り込んで俺の寝室に干した。ここだと寒すぎて外じゃなくてもカチンコチンになってしまうから、みんなが帰ったら改めて居間に干す予定である。
ユマは俺が家の中にいるから家の周りをパトロールしている。玄関を出たら、首をコキャッと傾げて雪だるまを見ていた。
「ユマ、どうした?」
「ヒト、チガウー?」
「ああ、雪だるまを人だと思ったのか? 人じゃあないなぁ」
雪でだるまを模したものを作ったのが雪だるまだよな。だるまといえば達磨大師の座禅姿を模したもので……って説明ができない。
「うーん、雪で作った人形みたいなものかな」
「ニンギョー?」
人形でもわからないかな。うちにも人形なんて置いてないしな。
「人の形をしたものだよ。でも人じゃない」
説明するのって難しいな。ユマの首はまだコキャッと傾げられていた。
こういうのを気にするって面白いなと思った。
畑を眺める。明日は雪をどけて収穫してみようかな。あんまり育ってないかもしれないけど。
あれ? とふと思った。
今日はクリスマスじゃないかって。降ってはいないけどホワイトクリスマスだなと思った。誰も指摘しなかったから特に興味もないんだろうな。だいたいクリスマスなんて独り身には何も関係ないし。うん、今日はただの金曜日だ。恋人たちの本番は日本ではクリスマスイヴだからもう過ぎたし。自分に言い訳をしていてなんか寂しくなった。
去年の今頃はまだ彼女がいて……とか思い出したらだめだ。
ちょっとだけ落ち込んだ。
いいんだ、女子ならタマとユマが……って今度は目から汗がっ!
考えちゃだめだ。
というわけで日付を考えるのはやめることにした。考えない考えない考えない。
ちょっと切ないので昼寝することにした。うん、少し考えただけでつらい。どーせヘタレですよーだ。(意味不明)
みんなが帰ってくる前には起きることができた。
今日は相川さんも帰るらしい。二晩も泊まってもらえてありがたかったな。って何も持たせるものがない。お礼はまた改めてしよう。
今日は案の定何も獲れなかったようだ。
「明日明後日で何かまた狩れるといいんだがなぁ」
なんだかんだ言って山は広い。
「相川君ちの山は年明けだな」
とか言っている。
「うちはいつでもいいんで、陸奥さんに従いますよ」
相川さんはそう言って笑んだ。
そうか、年明けはみんな相川さんちの裏山にシフトするのか。寂しくなるなと思ったけど、よく考えなくても今の状態が普通ではないのだ。またいつも通りに戻るだけである。
「佐野さん、何か必要なものがあれば言っておいてください。明日買ってきますから」
「ああ、今日のところは大丈夫ですよ。こんなこともあろうかといろいろ買い込んでおいたので。でもお気遣いありがとうございます。なんのおもてなしもできませんで……」
「慣れない雪じゃないですか。困った時はお互いさまですよ。こちらこそありがとうございました」
相川さんと頭を下げ合い、陸奥さんたちにもありがとうございますと頭を下げる。朝は道が凍って危ないかもしれないが、一応麓までの雪はなくなったのだ。これで明日は様子を見て買物にも行けるだろう。本当にありがたいことである。
ニワトリたちが、不思議そうに俺たちを見ていた。うん、何をしているのかわからないかもしれないけど、これが人の習慣てものなんだ。ここまで頭を下げ合うのは日本人特有かもしれないけど。
ニワトリたちを拭き、みんなを見送ってから夕飯をどうしようかと思っていたら電話がきた。また桂木さんだった。
今度はなんだろう?
「もしもし?」
「あ、おにーさん? メリクリ~」
桂木妹からだった。
「ああ、うん。ええと……」
「おにーさんノリ悪いよ~。おねえに聞いたよっ。雪の中の練習も確かに貴重だよね。がんばってみる!」
「え? ああ、うん。がんばってくれ……」
俺、なにか言ったっけ?
「あー! おにーさん覚えてないんでしょー? そーゆーとこだよー。免許取ったらおにーさんを一番最初に乗せてあげる!」
「……遠慮しとく」
「ひどーい!」
あははっと笑って、
「おにーさん、またね!」
と言うだけ言って電話は切れた。まるで嵐のようだった。
「あ。メリークリスマスってだけ送っとくか……」
言い損ねた。
なんだったんだろう?
夕飯はどうしようか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます