271.雪だるまを目の敵にしなくてもいいと思う

 麓から先は明日以降という話になった。明日はもう降らないみたいだし。もちろん屋根から雪おろしもした。雪、雪、雪である。やけくそで雪だるまもつくってみた。もっと雪が深いとかまくらも作れそうだ。


「雪だるまなんて……小さい頃以来ですよ」

「こっちだと毎年作れますよ」

「あー、やっぱりー……」


 相川さんが笑顔だ。相川さんも作るんだろうか。ニワトリたちよりも大きく作ったせいか、ニワトリたちがじーっと見ていた。


「壊すなよー」


 なんか攻撃しそうで怖かったので注意はしてみた。


「ワカッター」

「エー」

「ワカッター」


 ちょっとタマさんそこへお座り。


「生きてないからな? 食べられないし。飾りだから! そのままにしといてくれ」

「エー」


 なんかタマは雪だるまが気に食わないらしい。

 そういえば、リンさんは雪が嫌いと言っていたな。


「相川さんのところでは雪だるまとか作ったりするんですか?」

「最初の年に作ったらリンに壊されました」


 雪が嫌いだから雪だるまも破壊されたようだった。


「タマ、リンさんはこの雪だるまを壊したことがあるらしいぞ。タマも壊したら、一緒だよな?」


 そう言ったらタマにめちゃくちゃつつかれた。一緒にするんじゃないわよ! と言われているようである。


「タマ! いたい! いたいって! だって壊したら! 一緒じゃん! いたいっ、いたいいたいっ!」


 足元雪だから逃げるのがたいへんなんだぞ。なのになんでそんなにタマはフットワークが軽いんだよっ。相川さんは腹抱えて笑ってるしっつっても助けを求めることなんてできないけど。(相川さんがかわりにひどい目に遭いそうである)


「ユマー、助けてー!」


 とうとう耐えきれなくなったのでユマに助けを求めてしまった。

 ユマがタマの尾をツンツンとつついた。タマがしぶしぶ俺から離れる。これで済んだんだろうか。


「雪だるまは壊さないでくれよ?」


 改めて言ってみた。別に壊されてもいいんだけど、一応俺が作った物だしな。


「ハーイ」

「……ハーイ」

「ハーイ」


 相川さんがまだ笑っている。


「相川さん、笑いすぎです」

「くくっ、はい……すみません……佐野さんちのやりとりが漫才みたいで……」

「漫才好きなんですか」

「好きですね」


 そうなのか。

 そんなことをしている間にすっかり身体が冷えてしまった。急いでうちに入って改めて風呂に入った。昨日うちの中で干した洗濯物はすっかり乾いている。また着替えて洗濯機を回した。寒い日に汗で濡れたままでいると風邪を引いてしまうからな。


「いやー……でもあんなに雪が掃けるなんて思ってもみませんでした……」

「頼んでみるものですね~」


 お茶を飲んで煎餅を食べたら眠くなった。あくびをしながら洗濯物をうちの中に干してから、スマホで目覚ましだけセットして相川さんと昼寝した。

 ポチとタマはまだ体力があまっているらしくパトロールに出かけてしまった。ねえ、なんなの。うちのニワトリっていったいなんなの?

 ユマも土間に座り、もふっとなって昼寝に付き合ってくれた。なんとも幸せな時間である。

 そういえば明日はどうするんだろうな。しばらく晴れが続きそうではあるけれど。そんなことを考えながら意識が落ちて、目覚ましで目が覚めた。やっぱこの居間は幸せだと思う。すぐに土間も台所もあるし、それにオイルヒーターがよくきいて暖かい。

 ぐぐーっと伸びをしたら相川さんとユマも起きたようだった。


「あー、昼寝なんて久しぶりにしました……」


 相川さんが呟く。


「ああ、ずっと狩りしてましたもんね」

「それもあるのですが、元々昼寝が苦手なんですよ。なんだかいろいろさぼっているような気になってしまって……」

「冬は余分に寝た方がいいなんて聞きますけど」


 ここらへんは眉唾だけどな。日照時間が短くなるから単純に睡眠時間が伸びるだけかもしれないし。


「……俺からしたら相川さんは働きすぎだと思いますよ。俺なんか気が付いたら昼寝してたりしますけど、相川さんはそんなことなさそうですし」


 ユマに寝起きのおやつで白菜をあげた。おいしそうにしょりしょり食べているのがかわいい。


「そうなんですかね……今、何時でしょう」


 そう言いながら相川さんが時間を確認する。


「そろそろポチさんとタマさんが帰ってこられますかね」

「そうですね」


 噂をすればなんとやらだ。ポチとタマが雪まみれになってどどどどどーっ! と帰ってきた。ちら、と玄関の横を見る。雪だるまはまだ健在のようだった。


「ポチ、タマ、おかえりー!」


 玄関の側でぶるんぶるんと身体を振られたものだから俺が雪まみれになってしまった。


「ポチ、タマ……」


 いや、不用意に二羽の側に立った俺が悪いんだけどな。それでもこの雪まみれはどうかと思う。相川さんとユマもそれを見ていたのか、また相川さんが笑いをこらえているのを感じた。どーせコントのような人生ですよ。さすがに二羽も俺のすぐ前で身体を振ったのを悪いと思ったのか、またツッタカターと逃げて行ってしまった。


「おーい! 暗くなる前に帰ってこいよー!」


 大声で伝える。なんか今日の声は少し響いたらしく、やまびこが微かに戻ってきた。さぁ、俺はまた着替えだ。どうせ夜も風呂に入るからいいんだけどな。

 慣れない雪だ。いろいろある。そう、いろいろ。

 とりあえずはーっと大仰にため息をついた。

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