272.晴れても寒いから全然溶ける気配がない

 あれからポチとタマはそれほど時間をおかずに帰ってきた。一応玄関から少し離れたところでぶるぶる身体を振っていたことから、そこは学習してくれたのだろう。でももしかしたら明日は忘れてまた同じことするのかもしれないけど。

 翌日は晴天だった。

 しっかし寒い。

 玄関のガラス扉の下は案の定凍っていた。ぬるま湯を流して開ける。これから毎朝こんなかんじなのかもしれないなと思った。


「おはようございます。陸奥さんたちは村の道の状況を見て、来るかどうか決めるようです」


 相川さんは電話で陸奥さんたちに確認してくれたらしい。


「ああ……村でもけっこう積もったんですかね?」

「ところどころ雪かきができてない場所があると思います。それによって、でしょうね」

「それもそうですね。今回の雪ってこの辺りからしたらどれぐらいのレベルなんでしょうか。まだまだ序の口ってかんじですか?」


 尋ねると相川さんは難しそうな顔をした。


「うーん……特別多くはありませんが、かといって少なくもありませんね」

「そうなんですね……」


 もっと雪は多く降るらしい。リンさんがぷりぷり怒りながら雪かきをしている姿が浮かんだ。


「リンさんがたいへんですね」

「ふふ……みなさんたいへんですよ。なので、10時になっても着かなければ今日は中止ということにしてほしいとのことです」

「わかりました。いらっしゃる時は十分気をつけてきてくださいと伝えて下さい」


 相川さんはさっそく誰かに電話をかけ、少し話してから電話を切った。


「麓から下も掃きましょうか。僕の軽トラでもニワトリさんたちは乗れますね。でも陸奥さんたちが来るとしたら……」


 相川さんがいろいろ考えているようだ。俺じゃあんまりうまく考えられないのでそこらへんは一任することにした。丸投げともいう。

 朝食を軽く準備し、食べてから二台で麓まで向かった。もちろんニワトリたちも一緒だ。タイヤにチェーンは巻いてあるがすごく慎重に下りて行ったのでとても時間がかかった。柵の向こうの広くなったところに軽トラを止めて、みんなで雪かきを始めた。


「尾を振りながら下りて行って、橋の近くまで掃いたら戻ってきてくれ」


 どうせニワトリたちはどんどん先に行ってしまうから、聞こえないと困るので言っておいた。とはいえ昨日と比べれば雪はけっこう固まってきているから掃けない場所も多々あった。やっぱり昨日のうちに全部掃いておけばよかったかと後悔した。

 雪用のスコップと箒を駆使してどうにか10mぐらい雪をどける。


「……こうなってくると重機がほしいですね」

「……あ……」


 相川さんが何か思い出したようだった。


「陸奥さんが貸してくれればどうにか……」


 そういえば陸奥さんちには重機があるんだった。なんで廃屋の解体とかで手伝ってもらったのにもう忘れているんだろう。


「でもきっと家の周りで使っているでしょうから、さすがに持ってきてはくれないでしょうね」


 相川さんとそう話し合った。

 だけど。


「ん? なんか工事車両っぽいような音がしますね」


 先に気づいたのは相川さんだった。出かけて行ったはずのニワトリたちが戻ってきて、みんなでキョロキョロと辺りを見回す。うちに続く道は一本しかないんだけどなぁ。他のところから現れたらそれはそれで問題だ。そうしているうちにショベルカーがゆっくり近づいてきた。


「お? 佐野君じゃねえか。出迎えにきてくれたのか。ありがてえなぁ」


 ヘルメットを被ってニヤリとした顔をしたのは陸奥さんだった。作業着でくわえ煙草。うわ、なんかすごくカッコイイ。


「おはようございます。重機をだしてくれたんですね」


 相川さんが嬉しそうに声をかけた。


「山だと雪かきもままならねえだろうと思ってな」


 これはしっかりお礼をしなければなるまい。


「おーい、どう?」


 クラクションが軽く鳴った。後ろから軽トラがきていた。戸山さんだった。


「ああ、この辺は手付かずだがこの先は大丈夫そうだぞ。佐野君も相川君もかなりがんばったんじゃないか?」

「いえ、その……うちはニワトリが……」


 正直に答えてユマの尾につけた箒の頭を見せたら、さすがに二人ともあんぐりと口を開けた。陸奥さんがユマの尾を凝視して、唸るように呟いた。


「……ニワトリ、すげえな」


 どこのニワトリにもできることではないだろうってことは俺にだってわかる。この辺りで暮らすニワトリへのハードルが上がってしまったことは申し訳ない限りだ。

 そのまま陸奥さんを先頭にうちへ戻った。


「……出番がないことはいいことなんだが……なんか複雑だなぁ……」


 陸奥さんと戸山さんはまだ衝撃を受けているようだった。まぁなんていうか、うちのニワトリはいろいろ規格外なんですみません。


「ショベルカーで来ていただけて助かりました。いくら三羽で雪を掃いてくれたとはいっても麓の柵のところまでだったんです。その先をどうしようかと途方に暮れていたんですよ」


 本音でそう言ったら、「ああ、そうか。ならよかった」と陸奥さんたちはやっと笑顔になった。うちのニワトリたちはどうも例外みたいなんでいろいろ比べてはいけないんだと思う。

 うちでお茶と漬物を出して少し休んでもらい、それから準備をして、陸奥さんたちはポチとタマと共に出かけて行った。今日はまんま調査だ。もちろん相川さんも出かけた。

 かなり雪はどかしたが、それでも寒いからなかなかなくならない。雪だるまもまだまだ健在だ。


「みそ汁でも作るか……」


 今日は来るかどうかよくわかっていなかったから大鍋では作っていなかったのだ。鍋を移し替えて、改めて多めに作ることにした。


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