270.雪かきは楽しんでくれたらしい

 朝起きたらひどく喉が渇いていた。かなり乾燥してるのだろう。電気ポットからお湯を出して冷蔵庫に入れた水を少し足して飲んだ。うちの水道は川から引いているからそのままの飲用は適さない。一応くみ上げたところで濾過はしてるんだけどね。それを一度沸騰させたものを冷まして冷蔵庫にしまっている。夏の間は手間なのでペットボトルをケース単位で買っているが、冬は寒いからペットボトルの出番はそんなにない。出かける時は魔法瓶が大活躍だ。


「おはようございます。お湯をもらってもいいですか?」

「おはようございます、お茶を淹れますよ」


 お茶葉ももらいものだ。おっちゃんちの一角に茶の木が植わっている。そんなに量は取れないらしいが、うちに分けるぐらいはできると言われたのでもらってきている。


「ポチ、タマ、ユマおはよう。卵、今日もありがとうな~」


 土間に転がっているのを拾ってよく洗う。


「シシ肉の味噌漬けと目玉焼きでいいですか?」


 相川さんに聞いたら笑顔で頷かれた。


「ごちそうじゃないですか!」


 みんなうちのニワトリの卵好きだよな。もちろん俺は大好きだ。相川さんがお土産で持ってきてくれたえのきと小松菜でみそ汁を用意した。ニワトリたちのごはんは養鶏場で買ってきた餌とシシ肉、そして小松菜である。


「ニワトリさんたちの食事ってけっこう豪華ですよね」

「身体が資本ですからね。なんたって大きいですし」


 おかげで食費がえらいことになっているが、食費を削ることはできないからな。それでもシシ肉はおかげさまでまだまだあるし、野菜も選ばなければ倉庫に積んである。今は雪に埋もれているが青菜だったら畑でも収穫できる。全部買ったらかなりの金額だがどうにかこうにかやっていけている。

 光熱費ばっかりはどうにもならないけどな。


「電気代がなぁ……」


 とぼやいていたら、薪作りませんかと言われた。


「薪ストーブは怖いんですけど」

「ニワトリさんたちがいますしね。でも余分に作っておいてくれれば僕が買い取りますよ。うちの風呂は薪なんで」

「そういえばそうでしたね」


 薪かぁ、薪……。確かに電気もガスも使わない。昔の煮炊きは全部薪だったもんな。だから土間があるんだが。


「斧とかろくに使ったことがないんで、使い方を教えてください」

「それぐらいお安い御用ですよ」


 よし、これで空いた時間に薪作りができるかもしれない。

 朝食の後はポチとタマがすぐにそわそわし始めた。


「ポチ、タマ、ユマ、雪かきの手伝い頼んでもいいかな?」


 改めて聞いてみた。ちなみに昨夜のうちに雪は止んだみたいだった。ガラス扉の向こうが足元から20cmぐらい真っ白くなっているのがわかる。昨日どけたはずなのに20cmも積もってるのかよとげんなりした。


「イイヨー」

「イイヨー」

「イイヨー」


 今日もいいお返事です。うちのニワトリたちマジ天使である。


「これ、扉開きますかね……」


 一応引き戸なんだけどな。


「うーん……開かなかったらぬるめのお湯をかけて溶かしていくぐらいですかね。少しでも開けば対処はしやすいですけど」


 とりあえず開けようとしてみた。レールの部分も固まっているらしくどうにか五センチぐらいは開いたのでぬるま湯を流すことで玄関の扉が開いた。


「これって、明日も凍結しそうですね……」

「お湯は常に持ち歩いた方がいいかもしれませんね」


 あんまり寒い日だと帰ってきた時に凍結してて開かない恐れもあるのか。怖いな。

 また倉庫からほうきを持ってきてヘッドを更に二つ用意する。すでに外に出てざっくざっくやっているポチとタマを呼んで尾につけていいかと許可を取った。


「その状態で尾を横に振るんだ。ポチは尾を下げてくれ。うん、それで。……すごいな。さすがポチとタマだな!」


 すぐに二羽は飲み込んで、その場で何度も横に尾を振っている。みるみるうちにその場の雪がなくなっていった。下の方の雪はもう固まっているみたいだから地面が見えるまではいかなかったが、それでも道路でやってくれたら相当効率よく雪かきができるのではないかと思われた。

 というわけでさっそくニワトリ雪かき部隊出動である。俺たちもほうきと雪用のスコップを持っていったのだが、なんというか、すごい光景を見た。

 最初のうちは歩きづらいので慎重に行っていた三羽だったが、何故かどんどんスピードが上がっていきすぐに三羽が見えなくなってしまった。


「おーい! 走っていくなよー。大丈夫かー?」


 俺たちは三羽が雪を払ったところを慎重に下りていく。そうして、いつもなら車で十分ぐらいで着く麓まで一時間以上かけて下りた。雪の中の下りは非常に神経を遣う。上る方がもっと時間はかからないに違いない。三羽はそこでガッサガッサと雪を払っていた。


「ポチ、タマ、ユマ、お疲れ! どうだった?」

「タノシー」

「タノシー」

「タノシー」


 楽しかったらしい。よかったよかった。

 もちろん道路に雪はまだ残っているが、尾で雪かきしてくれたせいか大分厚みはなくなった。俺たちがついたらそのまま戻っていこうとしたので、リュックに入れてきた白菜をおやつにあげたらすごく喜んでくれた。ご褒美ってほどのものでもないけど必要だよな。

 上る時は一時間弱でどうにか上れた。行きと帰りで雪かきをしてもらえたからかなり助かった。


「ニワトリさんたちさまさまですね」


 相川さんも感心していた。とはいえ今日このまま帰るのも危ないので今夜も泊っていってくれるらしい。


「年末は是非うちに来てくださいね」

「はい、楽しみにしてます」


 うちに戻って遅めの昼食にした。明日は晴れてくれるといいなと思ったけど、それはそれで道が凍ってしまうんだろうか。たいへんだなとしみじみ思った。

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