252.なにごとも学びが必要だと思っている

 炭焼き小屋は全然使っていない。隣に薪を積んでいるから(もちろん屋根付き)、全くこないってことはないけど手入れはしていなかった。

 近くから枯れ枝を集めてきて束にする。薪を作るのは乾かす期間も必要だからたいへんだ。その点枯れ枝はいい。もう枯れてるからそのまま使える。でも木によっては跳ねたりするらしいから焚火などで使う時は注意が必要だろうと思った。


「ハチー」

「ん?」


 ユマがぴょん、と飛び上がってぱくり、と何かを食べた。

 え? もしかして?

 もうごっくんと飲み込んでしまったからユマが何を食べたのかはわからなかった。スズメバチってことはないよなと思いたい。ただ、前にここで陸奥さんたちがスズメバチの巣を見つけたんだよな。でも、こんな時期に飛んでいるものだろうか? だいたいもう死んでるはずでは?

 疑問に思ったけど確認はできなかった。たまたまだと思おう。作業中にスズメバチに遭うとか勘弁してほしいしな。

 とにかく集められるだけ枯れ枝を集めた。薪を作るのは相川さんに教えてもらおうと思っていてすっかり忘れていた。薪なんか簡単に作れるだろ? と言われそうだが斧の持ち方とか、力の入れ方によって効率が違うし、正しい薪割りができたら身体を痛めることもないと思うのだ。荷物の持ち方ひとつとってもそうだ。しっかり腰を落としてから持たないとすぐに腰をおかしくしてしまう。相川さんが忙しそうだったらYout〇beで探そう。動画サイトって便利だよな。

 枯草もついでに刈ったりしてから戻った。


「そういえばおっちゃん、スズメバチの巣を取りに行くっつってたな……」


 まだ中に少しは残っているんだろうか。それとも全部出た後だろうか。先日は陸奥さんがでかいのを嬉々として持って帰ったけど、家にでも飾るんだろうか。女王バチを獲りたいようなこと言ってたな。

 そんなことを考えながら家の中を片付けていた。都度都度片付けるようにはしているんだが、元庄屋さん家族が残していったものが多い。さすがに賞味期限切れの食品などはないが、古い扇風機とか黄ばんだうちわとか、でっかいラジオとか出てくる。このラジオって年代物かな。もしかして売れるかな。この家も中のものも好きにしてくれればいいと言われたけど、売れたらそういうわけにはいかないと思う。まぁ、現時点では獲らぬ狸のなんとやらだ。

 ごみと、もしかしたら何かになりそうなものを分けている間に時間が経っていたらしい。少し日が……と思った頃、


「タダイマー?」


 廊下の向こうからユマの声がした。もしかしたらみんなが戻ってきたのかもしれない。作業を中断して玄関に向かう。ユマが出入りするからと玄関のガラス扉は開けてあった。そこから外を覗くと、陸奥さんを先頭にしてみんなが戻ってくるのが見えた。玄関の外に出て、「おかえりなさーい!」と手を振った。

 んで、おっちゃんは大きな透明ビニール袋を持って帰ってきた。中には……立派なスズメバチの巣が入っていた。おっちゃん、上機嫌である。


「うわぁ、すごいですね。これ、中にハチが残ってたりするんですか?」

「そりゃあいぶしてみねえとわかんねえな。女王バチがいりゃあいいんだがよ」


 大きくても空のこともあるらしい。この時期であればそれが普通のようだった。残っていることもあるから用心は必要というだけで、基本はハチがいないそうだ。この間陸奥さんたちが獲ったのは運がよかったのか悪かったのかわからない。


「女王バチがいないとしたらどこにいるんでしょうね」

「近くで冬眠するんだ。巣の中にいるのが一番いいんだがな。周りは探してみたが見つからなかったんだよなー」


 おっちゃんが少しだけ難しい顔をした。ちなみに、中にハチが残っている場合は巣を動かしている間に出てくるらしい。しばらく運んでいても出てこない場合はいないようだ。そうはいっても0ではないから最終的にいぶした方が確実だと言っていた。そこまでしてハチの巣……俺には理解できない世界だ。


「雰囲気的にはあと二つぐらい巣が見つかりそうだな」

「……回収するんですか?」

「見つけたら処分しといた方がいいしな」

「それは確かにそうですね」


 他の虫とか生き物の巣になってしまっても困るしな。


「ありがとうございます」

「好きでやってんだから気にすんな!」


 そう言っておっちゃんはガハハと笑った。ついでに背中をばんばん叩かれる。ちょっと痛い。


「じゃあ明日はまたスズメバチの巣を探すんですか?」

「あー、まぁ適当だな」


 おっちゃんはあさっての方向を見やった。なんかあやしいぞ。


「そろそろイノシシだのシカだのを狩ろうって話にはなってるぞ。ポチとタマちゃんがやる気だからなー」


 陸奥さんがアハハと笑う。確かにポチとタマは表にいて足をタシタシしている。


「ポチ、タマ、洗うぞー」


 沸かした湯を水を張ったタライに入れて二羽をガシガシ洗った。もう今日は終りだというのを知らせておかないと今にも駆けて行きそうだった。全くうちのニワトリたちは好戦的で困る。だから陸奥さんたちが一緒に出かけて行くんだろうけどな。


「明日一応足跡などを追おう。捕れれば捕るが深追いはしない方向で考える」


 陸奥さんが明日の予定を告げる。ポチとタマがコッ! と返事をした。ホント、何言ってんだかわかってて困る。


「明後日は休む」

「あ、そうなんですね」


 土曜日は休むようだ。


「そろそろ大掃除を手伝わないと家から叩き出されそうだからな」

「ははははは~」


 戸山さんが頭を掻いていた。年末だしな。遊んでばっかりいないで家のこともやれということのようだ。


「明日は俺、ごみ捨てに行く予定なんですけど……」


 粗大ごみがそれなりに出たから一度ごみ処理場に行こうと思っている。


「そんなにいっぱいあるのか?」

「まだ出そうなかんじもありますけど、行ける時に行っておこうかなと」

「それもそうだな~」


 だっていつ雪が降るかわからないし。

 お茶を飲んで明日の予定をお互い確認してから、みな帰って行った。本当に暗くなるのが早いよなと思った。



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サポーター連絡: 15日なのでサポーター限定番外編を近況ノートに載せています。

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