251.この時期もいるなんて知らなかった

 夏に比べればペットボトルを買うことも減った。大は小を兼ねるから大きい方がいいのだろうか。一応500mlのも用意した。蓋は別にしちゃったんだよな。どこだっけ。

 そんなことをしていたら、わいわいと人の声が聞こえてきた。みな戻ってきたらしい。

 蓋がやっと見つかった。ペットボトルの側に置いて玄関のガラス扉を開けて外を見たら。


「……は……?」


 俺は一瞬自分の目を疑った。目を見開いてみても光景は変わらない。疲れてるのかなと目をこすってみた。でも変わらなかった。


「えええ……?」


 帰ってきたのはおっちゃんが先頭だった。その両手には、なんか長い物を持っている。俺の視力は普通だ。つまり。


「おーい、昇平。ペットボトル二本くれ!」

「……嘘だろ」


 大きいペットボトルが二本あったので出した。おっちゃんを手伝って無言でマムシを二匹、それぞれペットボトルに収めた。


「……どこで捕まえてきたんですか。それも二匹も……」


 顔を上げたら戸山さんと相川さんが苦笑していた。陸奥さんは平然としている。おっちゃんは上機嫌だ。ニワトリたちはそっぽを向いていた。ってことはもしや……。


「あのぅ……今更なんですけどこの時期もマムシっているんですね?」

「ああ、いるぞ。今日は比較的暖かいからな。雪でもふりゃあもう出てこないだろうが、マムシが冬眠するのは一番後なんだ」

「そうだったんですね……知りませんでした」


 陸奥さんに教えてもらい、初めて知った。普通は11月ぐらいには冬眠するらしいのだが、今年はまだそれほど雪が降っていないので、寝ぼけた状態で出てきているのかもしれないという話だった。ということはポチやタマは道中おやつを食べるのを楽しみにしていたんだろう。今日はおっちゃんに獲物を取られて不機嫌ってところか。

 手を洗ってもらい、家に上がってもらった。


「おっちゃんはマムシを捕まえにきたのか?」

「いいや? コイツらはついでだな。スズメバチの巣を取りにきたんだ」

「そうなんだ……で、巣は?」

「午後に回る。いやー、マムシが集まってる場所があってよ。ポチとタマが喜んで食べてたぞ。俺も二匹もらってきたんだ。いやあ、本当に山はいいな!」


 うわあ。

 まぁ、ポチとタマが食べたならいいだろう。さっきはユマも食べてたしな。

 それなら昼食はそんなにあげなくてもいいだろう。白菜をこっそり一枚減らしてみた。


「俺、この山にいてマムシ見たのって夏ぐらいまででしたけど……」

「そりゃあニワトリたちが気合入れて狩ってたからだろ?」


 やっぱりそうだったのか。もうマムシ酒はいいだろうと思って、もうマムシは取ってこなくていいとは言ってあった。だから自分たちで好きなように食べていたんだろうな。

 ということは。


「今日川沿いを回ったらマムシが出てきたんですよ」

「ああ、川沿いにはまだいたのか」

「ユマが捕まえて食べたんで大事はなかったんですけど、そういうことが今まであってもおかしくなかったってことですよね?」

「ああ、特にマムシは水辺の近くにいたりするからな。今まで遭わなかったんだとしたら、ニワトリ共が定期的に狩ってたんだろう」


 陸奥さんに言われて納得した。確かにポチとタマは最近裏山に出向しているからこの山を見回っていない。そのことから今まで俺が意識していなかったものが出てきたと考えるべきだろう。山暮らしも慣れてきたなと思っていたけど、それはニワトリたちの奮闘ありきだったんだな。内心ちょっと落ち込んだ。


「まぁでもそろそろマムシも冬眠に入るだろうし、裏山は本当に手付かずだったわけだしな。そりゃあマムシも増えるわけだ。いくら冬眠前は動きが鈍くなるっつってもさすがに驚いたな」

「本当にびっくりしたよね~」


 陸奥さんと戸山さんがフォローしてくれた。ううう、情けなくて申し訳ない。


「昇平、明日も来ていいか?」

「陸奥さんたちがよろしければかまいませんよ……」


 少し落ち込んでいる俺とは裏腹におっちゃんは上機嫌だった。その元気を少しでいいから分けてほしい。いや、本当に少しでいい。みそ汁と漬物を出してニワトリたちにも昼食を出す。ごはんを出したらポチとタマもいつも通りだった。やっぱごはんって重要だなって思う。


「ゆもっちゃんなら大歓迎だぞ! まだ調査中だしな」

「しらみつぶしに探すのは時間がかかるよな」

「大体の場所は把握してるんだがな。川中かわなかに罠を設置させたくてよ」

「罠猟の練習みたいなもんか?」

「川中は誘導するのがうまい。猟銃を使わないで捕れるならそれもありだ」


 陸奥さんとおっちゃんがなんか難しい話をしている。川中さん、そういえば罠猟をしてるって言ってたっけ。それなら平日でも楽しめるからって。毎朝毎晩確認するのはたいへんだろうけど。


「大型のは罠だと難しいけどな」

「やっぱり大型がいるか」

「おそらくは」


 大型のイノシシとか、狩ってこられる分にはいいけど生きてるのがこっちに来るのは勘弁してほしい。引かれたら間違いなく死ぬし。


「今裏山の更に裏側を見回っているんですよ。だからちょっと時間がかかります」

「そうなんですね」


 相川さんとしゃべりながら食休みをした。そうしたらまた午後も回ってくるようだ。


「みそ汁はいいな」

「ごちそうさま~」


 おなかがいっぱいになって落ち着いたところで狩猟チームはまた出かけて行った。すごいなぁと感心したが、マムシ入りのペットボトルが棚の上にあるのがなんか落ち着かない。ユマがじっと見てるのがとても困った。


「ユマ、炭焼き小屋の方へ行こう」


 家にいるとマムシを狙われそうなので、俺はユマを連れ出すことにした。まいったまいった。


ーーーーー

昨日は200万PV記念SSをお読みいただきありがとうございました!

コメントが500を超え、ニワトリたちは愛されているのだなぁと実感しました。

これからもどうぞよろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る