253.隣町に行くことにした。桂木さんの様子はどうだろう
翌朝も雪が降っていなかったのでほっとした。
ここまで降らないと、今年の冬はあんまり降らないんじゃないかって気になってしまう。こういうのを油断って言うんだろうな。今年中は降らないかもしれないが、新年明けた途端どか雪ってこともありそうで嫌だ。
そういえば年末年始は相川さんと過ごす予定だ。相川さんちに行けばいいんだろうか。その際は念の為ニワトリたちも連れて行った方がいいだろう。車動かなくなるほど降って帰ってこられなくなったら困るし。飢えたニワトリとか想像しただけで怖い。
相川さんからLINEが入っていた。
「こんにちは。図々しいとは思いますが、うちのごみも運んでいただくことは可能ですか? 軽トラ三分の一ぐらいあります。内容は主に粗大ごみです」
荷台に三分の一ぐらいってことだろう。昨夜のうちに積み込めるだけ積んだけどスペースはまだある。
「大丈夫です。持ってきてください」
「ありがとうございます」
ごみ処理場まで持って行くのはたいへんだよな。あそこまで行くと半日潰れるし。さすがにごみ処理場だからユマも留守番しててもらおう。裏山へみんなと一緒に行ってくれるはずだ。
でもなんかユマ、出かける気満々じゃないか?
「今日は、ユマはみんなと裏山へ行ってきてくれな~」
ユマが目を見開いた。がーん、という効果音が聞こえてきそうである。ホント、ドライブ好きだよな。
「今日はごみ出しもそうなんだけど、桂木さんたちの様子も見てくるつもりだから」
「オデカケー」
羽をバサバサ動かしておねだりしているユマ、かわいい。でもだめだっつーの。
「お土産買ってくるからな? それにスズメバチの巣、見つけるんだろ?」
「スズメバチー」
フイッと向けられた背中がとても寂しそうだった。俺も切なくなるじゃないか。
お土産買ってくるって言ったから忘れないようにしないとな……ニワトリのお土産……豚肉か? それともここでは買えない野菜とか? 帰りはスーパーに寄ってくる予定だから考えてみよう。
今日のみそ汁は小松菜と豆腐だ。小松菜は長く切ると食べづらい。2~3cmがいい気がする。こういうちょっとしたことも生活する上で気づいていくことなんだろうな。ユマかタマの卵炒めをおかずにして朝食を終えた頃、まず相川さんがやってきた。
「おはようございます。すみません」
「おはようございます。軽トラに乗ればいいんですけど……」
相川さんが運んできたごみを荷台に乗せ換えたらちょうど収まった。よかったよかった。
「処理費、先に渡しておきますね」
と一万円を渡されてしまった。
「いや、こんなにかからないでしょう」
「手間賃も兼ねてですよ」
「じゃあ買い出しもしてきましょうか? 桂木さんたちの様子を見てくるつもりなので戻りはそんなに早くはないでしょうが」
「助かります。足りない分は後で請求してください。お釣りはいりませんから」
太っ腹なことを言っている。買い出しリストは後でLINEで送ってくれるらしい。なかったら気にしなくていいという話だった。そうしている間に続々と軽トラが入ってきた。
陸奥さん、戸山さん、おっちゃんである。
「おはよう。相川君、早いな」
「佐野さんにごみの運搬を依頼したんですよ」
「そっか。そうしてもらうって手もあるんだねー」
「荷台に空きがあればですけどね」
そんなことをわちゃわちゃ言い合う。おっちゃんは今日もでかいザックをしょってきた。
「今日はユマもお願いします」
「おう、任せとけ!」
おっちゃんは今日も張り切っていた。家の鍵は開けてあるので昼は勝手にみそ汁を飲んでくれるように言う。冷蔵庫の下から二段目には漬物も入れてあるから自由に食べてくれとも。
「佐野君、いつもありがとうな~」
「いえいえ」
こうして来てくれているのが嬉しいし。まだしばらくはうちの山を回るみたいだけど相川さんの山も回るみたいだし、こうして人が来ている期間も限られていると思っている。うまくすればイノシシやシカの肉もいただけるんだし(シカはニワトリの分だけでいいです)、そう考えたらみそ汁や漬物程度安いものだった。
出かける前に桂木さんにLINEを入れた。基本は妹の教習所への送迎をしているぐらいで、特に用事もないと言っていたからまだ連絡をしていなかった。俺も随分不義理だよな。あっちは遠慮して連絡してこないんだろうに。
「今日N町に行くけど、何か用事ある?」
この書き方だと俺に対して用事がありそうだな。
「なんにもないです! 昼頃お会いできますか? 妹を送ったら連絡します」
返信は超早かった。
「ごみ処理場にごみを運んでからだから、こちらも終わったら連絡する」
そう打ってから、一応着替えも持って行った方がいいかなと思った。ごみ処理場へ行ったからって匂いはつかないとは思うけど念の為だ。例え妹同然でも、女性に会う時は一応身だしなみを整えないとな。
一杯お茶を飲んでからみなを見送った。ユマはおっちゃんの横で進むらしい。振り返ってくれなかったのはちょっと寂しかったけど、連れて行くわけにはいかないからな。
みなの姿が見えなくなってから俺もまたN町へ出かけた。やっぱりユマが隣にいないと寂しいなと思った。
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