248.ニワトリは好奇心旺盛なようです
……プラスチック製とか関係なかった。
朝俺の寝る部屋に来たタマが、障子の模様が気になったらしくつついて……。
ガササッ
「えええ?」
のりでしっかりくっつけていたはずなのだけど、穴は開かなかったが障子紙がまんまバリッと外れて、落ちた。
つついたタマの方がが驚いたらしく、ココッ! と声を上げ、まだ布団の中にいた俺を踏みつけて駆け戻っていった。
「タマぁあ~~~~っっ!!」
逃げるなー!! 今のすっげえ痛かったぞ!
「いってええーーーっっ!」
顔とか胸を踏まれなかっただけまだましか。一応そこらへんは避けて行ったんだろうか。つっても、足がめちゃくちゃ痛いんだが……骨折れてないよな? 廊下に続く襖は開いたままだ。それにしても寒い。障子紙が付いている部分は半分だけなのだが(下半分はガラス障子である)上の部分がなくなったことで冷気が入側縁の方から一気に流れてきた。もちろんだが入側縁の向こうは雨戸を閉めてある。一枚仕切りがあるとないでは全然体感が違うのだなと、とりあえずハロゲンヒーターをつけた。
「タマめええええ~~~~」
聞こえるように大声を上げ、襖の向こうを見たらユマの顔が心配そうに覗いていた。
「ユマああああ!」
やっぱりユマは俺の癒しだ~とうるうるしてしまう。寒いけど再度布団から手を出した。抱きしめさせてもらいたい。
「タマー」
「うん」
うん? ユマがタマの弁明にきたのか? ごめんなさいは本人がすべきだぞ。
ほんの少しだけいらっとした。
「オコルー?」
「ああ、怒る。でも、タマがごめんなさいしたら許してやる」
少し冷静になってみると、正直怒ったってしょうがない。
「ゴメン、ナサイー?」
「ユマじゃない。ごめんなさいを言うのはタマだ」
「ワカッター」
ユマが頷くように首を前に動かして、とてとてと戻って行った。できれば襖は閉めていってほしかったが、それは無茶というものだろう。
……それにしても寒いな。ヒートショックが怖い。ヒート〇ックを着て寝るようだろうか。
障子紙は改めて昼頃つけることにして、寒さに震えながらどうにか着替えて居間に行ったら卵が二個、端っこに置かれていた。踏みそうで危ないなと思った。ちなみにタマに踏まれた場所はあざみたいにはなっていたけどもう特に痛みはない。
「タマ」
タマが近づいてきて、居間の、俺から手が届きそうな位置で立ち止まった。
「……ゴメン」
なんか時代劇で誰かが去っていく時みたいな「ごめん」だったけど、タマにしては上出来だと思った。俺も大概ニワトリに甘い。
「タマ、障子はつついたらだめだ」
「ワカッタ」
「俺を踏んだらだめだ」
「……ワカッタ」
なんでそこで間が空くんだ?
「タマ」
手招きして、抱きしめた。本当にしょうもないツンデレニワトリだ。でもかわいい。そのまま羽を優しく撫でていたら、ココッ! と怒られた。もういいでしょっ! とばかりに身体を離されてつつかれた。痛いっつーの。
やっぱりタマはタマだった。そのことにほっとする。
ポチとユマがそんな俺たちを見ながらコキャッと首を傾げた。その姿が揃っていてつい笑みを浮かべてしまう。やっぱ癒されるよなぁ。……すげえでかいけど。
「ごはん作るな。卵ありがと」
台所で支度を始める。こんな規則正しい生活ができるのもニワトリたちのおかげだ。きっと俺だけだったら布団の下にカビが生えるまで転がっていたに違いない。
キャベツと豆腐でみそ汁を作り、シシ肉のみそ漬けを焼いて食べた。もちろん白菜とか蕪の漬物もある。たくあんもこの間いただいた。ごはんが進むというものだ。ニワトリたちには養鶏場で買ってきた飼料と白菜、そしてシシ肉をつけた。朝からしっかりしたごはんである。
朝ごはんは食べないと頭が働かない! という母親の教えだ。特にニワトリたちは山の中を駆けずり回っているからしっかり食べさせないといけない。もちろん途中で虫だのなんだの見つけておやつは食べているだろうからそれほどの心配はないんだけどな。
陸奥さんたちが来てから今朝の話をしたら大笑いされた。
「つつかれて外れちゃったのか~。それはびっくりだね」
「ええ、なので後でまた張り直します」
戸山さんがひーひー笑っている。
「でも穴が開かなくてよかったですね。一つでも穴が開くとそこから冷気が入ってきますから……」
「ですよね」
「タマちゃんは好奇心旺盛なんだな!」
陸奥さんがわははと笑った。
そうしてまたみんな調査に向かった。明日はどうやらおっちゃんが来るらしい。頻繁に来るようなことを言っていたけど、そんなに家を空けたらおばさんに怒られるんじゃないかな。
今朝も家の外は白っぽかったけど、それは霜によるものだった。今日もいい天気である。
でも確実に雪は降るだろう。ここに来た時、意外と雪があって少しだけ後悔したもんな。でもそれで後悔していたら山には住めない。雪が降ったらニワトリたちはどうするんだろう。もし、積もるほど降ったなら。この間少しだけ降ったけど平気で駆けて行った。
積もった雪ではどんな反応をするのか、少しだけ楽しみだった。
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