235.山の見回りをしてくれるそうです
こたつは年寄りと女性陣に明け渡し、俺と相川さんは奥から運んできた座卓で昼飯を食べた。なお、みそ汁と漬物は出した。
「これだけありゃあ上等じゃねえか!」
家から持参したおにぎりを頬張って陸奥さんはご機嫌だった。実際昼なんてこんなもんでいいんだよな。日曜日は人数が多くなるみたいだから、なんかおかずぐらい作ろうかなって思うけど。
「こたつ、占領しちゃってすいません……」
桂木さんが恐縮していた。
「女性は特に身体冷やしちゃいけないだろ? 気にしないで入っててくれ」
「おにーさんて何気にポイント高いよね~。それ素?」
「は?」
桂木妹にわけわからないことを言われた。ギャルはわからん。
「……佐野さんに他意はないんだよねー……」
「天然さんだー」
失礼な。当たり前のことを言ってるだけだろう。相川さんが苦笑していた。
そんなわけのわからないやりとりを終えて、お茶を飲んで落ち着いてから動き出した。
「ポチ、タマ、今日陸奥さんたちはこの山の中を見回ってくれるそうだ。狩りをするによさそうな場所を重点的に案内してくれ」
コッ! と二羽が返事をする。なんか俺難しいこと言った気がするけど本当にわかっているんだろうか。
「ポチさん、タマさん、よろしくお願いします。今日は狩りはしないで見回りのみです」
相川さんが改めて挨拶をした。そうかそう言えばいいのか。わかりやすく言うって難しい。
「私たちも見に行っていいですか?」
桂木さんがおそるおそる聞く。陸奥さんて黙ってると不機嫌そうに見えるんだよな。
「ああ、かまわねえがそっちの足には合わせねえから、適当なところで戻るようにしてくれ」
「わかりました。邪魔にならないようにします」
「山の中だから電波が届くかどうかはわからないけど一応GPSはオンにしといてくれよ」
はぐれて遭難したなんてことになったらたいへんだ。歩きなれた山でも方向がわからなくなれば簡単に遭難する。うちのニワトリたちはフットワークが軽いから探してくれるだろうが、そうなった時必ず見つかるとは限らないのである。山はなめてはいけない。
「懐中電灯も持って行きますね」
「そうしてくれると助かる」
この辺りの山は日が落ちるとすぐ真っ暗になるから、もし遭難したとしても懐中電灯の明かりが見えればすぐに見つけることはできるだろう。
「じゃあ行ってくる」
「よろしくお願いします」
ユマと共に陸奥さんたちと桂木姉妹を見送った。無事帰ってきてくれますように。
ガサガサと、みな北側から下りていくことにしたようだった。この山で迷ってる分にはいいけど裏の山なんか行ってしまおうものなら見つからなくなってしまうだろうなと思った。
「どーすっかな……」
さすがに今日は昼寝をするわけにもいかないし。とりあえず家の中の掃除を改めてすることにした。いつ桂木さんたちが戻ってくるかわからないし。
というわけでユマには家の周りにいてもらうようにした。
誰かがこなければこないでぼへーっとしていたりするのに、誰かが来ていると思うと働かなければいけないような気になるなんて不思議だな。風呂場を掃除したり(トイレは昨日掃除した)、寝室に使っている部屋とその奥の座敷を掃いたりした。どうせなので外に出て倉庫の中も整理したりする。日中はまだ動けるけど、もう少ししたら出るのもおっくうになるだろう。
そんなことをしていたら陸奥さんたちが帰ってきた。
「おかえりなさい。どうでしたか?」
「生き物は豊富だし、植生も悪くない。イノシシを見つけたら狩ってもいいか?」
陸奥さんに問われて頷いた。
「ええ、こちらの山でも見かけたら狩ってください」
うちに戻ってお茶を淹れる。桂木姉妹はさすがに疲れたような顔をしていた。でもしっかりくらいついて行ったんだな。すごいと思った。
「ポチ、タマ、ありがとうなー」
白菜の葉っぱを洗ってニワトリたちにおやつを出した。もちろんユマにもだ。ガツガツと食べている姿はそれほどかわいくは見えない。
「イノシシはこの山で見つけても狩っていいんだよな。そうなるとあとは……解体は基本あきもっちゃんに頼むんだろ?」
「ええ、そこらへんはお任せします。俺にはできないので」
「ニワトリ共が手伝ってくれるなら内臓のほとんどはニワトリたちの取り分だ。肉は三分の一を渡す。解体に関してはわしらが持つ、でいいな」
「えええ?」
そんな破格でいいのだろうか。すでにけっこうな量のイノシシの肉をもらっているからそれほどは必要ないと思う。
「あの、うちの肉の分量は減らしてくれてかまわないですよ? 狩るのは俺じゃないんで……うちの分は五分の一ぐらいでお願いします」
「欲がねえな。わかった、四分の一だ。それ以下にはしねえ」
「……ありがとうございます」
裏山の調査もしてもらうような形になるのにそんなにもらっていいのだろうか。まぁいろいろ作って還元してもいいなとは思った。
「見回り、どうだった?」
桂木姉妹に改めて聞いたら、
「満足しました!」
と返ってきた。狩猟の為の見回りといったら確認が主である。いきなりシカ見つけました、ターンて撃ちました! みたいなわけにはいかないのである。
「明日は改めてこの山を見て回る。イノシシがいたら狩ってくるぞ」
「その時はまたよろしくお願いします」
お礼を言って今日のところはお開きになった。桂木妹はもう半分ぐらい舟をこいでいた。まぁ疲れたよな。明日筋肉痛にならないかどうか、ちょっとだけ心配した。
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