234.今日から狩猟チームが参ります

 切れ目を斜めに入れて、サイコロ状に切ったこんにゃくは何にでも使えると俺は思っている。炒め煮も含め煮もみそ汁の具にだって!

 え? カロリー0で栄養があるかどうかも不明だって?

 別に大量に食わなければ害もないんだからいいだろ。ともかく俺は好きなんだ。

 というわけのわからない主張をしたところで陸奥さんたちが到着した。


「こんにちは~。今日からよろしくお願いします」

「ああ、よろしく」


 陸奥さんが鷹揚に頷いた。


「お嬢さん方が来るんだって? 佐野君もたいへんだな」

「ええ、まぁ……すみません」

「佐野君が謝ることじゃねえだろ。挨拶もするのか?」

「そう聞いています」

「そうか」


 今日のメンバーは陸奥さん、戸山さん、相川さんだ。少し話していると桂木姉妹がやってきた。


「遅れて申し訳ありません。今日はよろしくお願いします」

「こんにちは~」


 桂木さんが頭を下げ、その横で桂木妹が挨拶をする。陸奥さんがニカッと笑った。


「わしらも今着いたところだ。さっそく墓参りと山の神様に挨拶に行くが、大丈夫かい?」

「はい、着いていきます!」

「着いていきまーす!」


 とてもいい返事だった。そんなわけでさっそく墓参りに行くことにした。各自準備済みである。俺は荷台に墓参り用の道具とポチとタマを乗せ、ユマはいつも通り助手席に乗せた。

 みんな当たり前のように軽トラに乗って上の墓に向かった。墓の周りを掃除してみんなで手を合わせた。この墓にはこの山で暮らして亡くなった方々が入っている。俺の先祖ではないが、できるだけこうして挨拶にくるようにしている。

 さて、墓参りが終われば次は山の神様への挨拶だ。


「タマ、先導よろしくな」


 一番山の中を熟知しているだろうタマに先導を頼んだ。ユマは俺の側を陣取り、殿はポチである。ポチを一番前にしてもいいのだがポチは猪突猛進なので先導させるにはあまり向かないのだ。個人プレーならいいんだけどな。ニワトリたちは不満そうな様子も見せず位置に着き、そうしてみんなで山を登った。

 道なき道である。それほど上がっている気はしないが歩みは確実にだ。そうして山頂に辿り着いた時には桂木妹がかなり疲れていた。


「えー? ここが山頂なの? 何も見えないけど……」

「普通の山はどこもこんなかんじだよ」


 観光に特化した山じゃないからな。


「えー? でもこれじゃ本当に山頂なのかわからなくない?」

「もう登る場所がないからわかるはずだよ。どこの山だって頂上まで木が生えてるだろ?」

「あー……確かにそうかもー」


 不満そうな声を上げていた桂木妹だが、説明すればわかってくれたようだった。


「ってことはー、山頂だーって登って周りに木がない山っててっぺんハゲになってるのー?」


 みんながぶふっと噴き出した。いいところに気づいたな。


「まぁそうかもしれないな」


 あんまり山頂を見ることはないからわからないかもしれないが、もしそこが見えたらそうなっているのかもしれない。そんなことを言いながら石を置いたところを見つけ、周りを掃除してすでに空になっている器に水を入れてみんなで挨拶をした。これからこの山と裏の山で狩りをしますってね。俺はそれに祠は春までお待ちくださいと付け加えた。これで神様詣ではおしまいだ。

 みんなで各自休憩して水を飲んだり飴を舐めたりしてから下山した。ちなみに桂木妹がミ〇キーをみんなに配っていた。なんか懐かしい。これ、小さい頃すっごく好きだったなと思い出した。

 墓のところから軽トラに乗ってうちまで戻る。これだけで都合二時間はかかった。


「お疲れ様です」


 みなを家に招いてお茶を振舞う。今更な話だが食器はそれなりの数が揃っている。ここを買う時に食器もそのままもらいうけたのだ。食器ってそれほど割れるものでもないからどんどんたまっていくが、意識して処分するものでもない。元庄屋さんの村の家でも食器が揃っていることから、捨てるのももったいないと古い食器棚毎譲り受けたのである。


「大した距離じゃあないが、道がないっつーのは疲れるもんだな」

「そうだね。思ったより疲れたね~」


 陸奥さんと戸山さんが言い合う。


「墓からの参道も一応作るつもりではいますけど……」

「おお、そん時は呼べ呼べ。手伝ってやる」


 陸奥さんがなんてことないように言う。ありがたい話だ。そうなったらまた日当を払うようだろう。


「その時はまたよろしくお願いします」


 素直に頭を下げた。


「アタシも手伝うー」


 桂木妹が手を上げた。元気だなぁと思う。


「始めるにしても来年の春以降だからもう帰ってるんじゃないのかな」

「えー……つまんなーい」

「佐野さん、私は呼んでくださいね。手伝いますから」


 不満そうな桂木妹とは裏腹に桂木さんは上機嫌だ。


「うん、もし予定が合ったらね」


 完全に力仕事になってしまうからどうかな。でも女性には華があるからいるだけで癒しってのもあるのかな。俺の癒しはニワトリたちだけど。

 ……あれ? 俺もしかして終わってる?

 愕然としていたら表からニワトリたちの顔が覗いた。早く出かけないのー? と言われているようだった。


「陸奥さん、今日はこれからどうされますか?」

「……今日は周辺の見回りだな。ニワトリたちに案内してもらえるか?」

「ええ、案内すると思いますよ。今日はこの山でですかね」

「ああ、この山で狩りはしねえが状況は見ておかねえとな」


 というわけで午後の予定は決まったのだった。

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