205.ニワトリによる俺への扱いがひどい件について
圭司さんには「ニワトリはずっとこのまま飼っていくんですか?」と聞かれたので「もちろん!」と即答した。
「そうですか。また一度こちらに来ますが、来年は子どもたちも連れて来ていいでしょうか」
「ええ、かまいませんよ。ああ、でも……一応うちのニワトリたち子どもの扱いはわかってるんですが、乱暴に扱われると何をするかはわからないので……」
「それもそうですね。そこはきちんと言い含めましょう」
「お願いします」
お子さんたちを連れてきてくれてもいいのだが、ニワトリを怒らせるのは困る。うちのニワトリが怪我をさせたなんてことになったら、たいへんなことになっちゃうし。
圭司さんは更地になった廃屋のあった場所を感慨深そうに眺めると、帰って行った。圭司さんが住んでいた家ではなかったが、それでも思うところはあるだろう。
「これからおっちゃんちか~。……あ、手土産どうしよう」
イノシシをごちそうになるのだ。いろいろ頭を悩ませたあげく、ビールを買っていこうと思った。どーせみんな飲むだろうしな。
ポチとタマが帰ってきてからざっと汚れなどをはらって落とさせ、軽トラの荷台に乗せた。さすがに足元毛布だけでは寒くないかなと心配になる。風避けに木の箱かなんか置いた方がいいんだろうか。でもみんなでかいしな。納まるような箱となるとどれだけでかくしなきゃいけないんだろうか。なかなかに悩ましい。
村に下りて、雑貨屋で缶ビールを箱で買い、おっちゃんちに向かった。
「こんにちは~」
一応人がいないかなと声をかける。おっちゃんちの駐車場にはもう何台も軽トラが停まっていた。おっちゃんちの家の影には何もいない。ふと日向の方を見たらドラゴンさんが気持ちよさそうに寝そべっていた。桂木姉妹も来ているようだった。
「こんにちは、タツキさん。うちのニワトリたちも連れてきたのでよろしくお願いします」
ドラゴンさんは薄く目を開け、微かに頷いてくれた。そろそろ冬眠の時期なんだよなと思い出した。その時期は家の中に入れると桂木さんが言っていたような気がする。
「タツキさん、そろそろ冬眠ですか? リエちゃんとは仲良くされてますか?」
ドラゴンさんはゆっくりと何度か頷いた。いつのまにかタマが近づいてきている。
「あ、タマ」
気づいて声をかけたらそのままタッタッタッと走ってきて、まずいっ! と思った時には飛び蹴りを食らっていた。ちなみに横からだったのでドラゴンさんに影響はない。俺なんで蹴られたんだよ、ひどすぎるだろ。タマはドラゴンさんの身体をつつき始めた。
ああそうですか邪魔だったんですね、ごめんなさいね。もう俺グレていいかな。
立ち上がってパンパンとズボンや服をはたいていたら、相川さんが畑の向こうからやってきた。そういえばしばらくこちらに来ているんだっけ。
「佐野さん、こんにちは~」
今の見られてないかな? 見られてないよな? いや、見られたからって……。
「タマさん? ですか? ユマさんと痴話喧嘩でもしてるのかとびっくりしましたよ~」
しっかり見られてました。ちーん。
ここ穴掘っても怒られないかな。
「ああ、ええ、はい……ユマじゃなくてよかった……」
ユマに飛び蹴りされたら超凹む自信がある。されたことってあったっけかな。たまにつつかれることはあるけど。
ちょっと考えてしまった。
「今日は庭の方ではなくて居間で集まるそうですよ」
「居間、ですか」
「襖を取っ払いました」
「ああ、それなら広くなりますね」
上がるのは縁側からでも玄関からでもどちらでもいいらしい。缶ビールを箱で買ってきたので一度玄関から入ることにした。
「こんにちは~」
「あら昇ちゃんいらっしゃい。イノシシの肉はこれから届くから、まだ待っててね~」
「佐野さん、こんにちはー」
「あ、おにーさんだ。こんにちはー」
桂木姉妹もエプロンをしておばさんの手伝いをしていた。すでにしっかり馴染んでいる。
今回は相川さんと戸山さんが撃ったということもあり、参加者は、陸奥さん、川中さん、桂木姉妹、それから解体をしてくれた秋本さんぐらいである。
「今回はシシ鍋だけでおなかいっぱいになりそうよね~」
おばさんはご機嫌だった。やはり人数が集まるのはたいへんだろう。
「何か手伝うことってありますか?」
「特にないわよ。あ、ビールありがとうね。もう少ししたら始めてもらうから、それまで庭か畑にでも行ってて」
「わかりました」
これ以上ここにいても邪魔だろうと出て行く。庭に回るとビニールシートがすでに引いてあった。ニワトリと、ドラゴンさん用かな。ありがたいことである。
庭の向こうにある畑を見やると、うちのニワトリたちが適当につついていた。男性陣が煙草を吸いながら山の方を見ている姿に哀愁を感じた。近づいてみると、煙草を吸っていたのは陸奥さんと戸山さんだった。陸奥さんは確かに以前お宅にお邪魔した時吸っていた気がするが、戸山さんが吸っているのは見たことがなかった。
「ああ、昇平も追い出されたのか」
「ええまぁ……」
おっちゃんが笑って言う。台所で作業している時は邪魔してはいけないし、おっちゃんちでは女の城のようである。
「いい天気ですね」
「ああ、寒いけどなー……」
「ですね」
もう11月も終わりだ。晴れていてもひとたび風が吹くとけっこう寒い。
車が入ってくるような音がして、みんなで振り向いた。秋本さんの軽トラのようだった。
イノシシ肉、到着である。
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注:佐野君は幌の存在を忘れています。
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